第8話

 ダンジョンハンターになったことを後悔しなが、地べたで無様に転がっていた幸生の方へ、誰かが名前を呼びながら駆け寄ってくる音が聞こえた。

 

 「窪田さんっ! 大丈夫ですか?」

 駆け寄ってきた雛乃は、怪我をしていないか幸生の体を触りながら確認している。


 (あ……転職してよかったかも……)

 雛乃の手の感触が心地よくて、一瞬ドキッとした。

 「い、いや、俺は平気です」


 「あの倒れている獣はあなたが?」


 「あ……はい」


 「すごいですね」

 雛乃は驚いたように幸生を見つめる。


 「いや、でも1階層でもあんなに凶暴そうな獣がいるとは思いませんでした。それともあれでも全然凶暴じゃないほうなんですかね」

 上体を起こし、幸生は右手でくしゃくしゃの頭をかきながら言った。


 「いえ、あれは血臭鬣犬オドルハイエナと言って、浅層にはいるはずのない中層生物です」雛乃が深刻そうな面持ちで答えた。


 「えっ?……何でそんな生物が浅層に……」


 「分かりません、とにかくいちど地上に戻りましょう。オドルハイエナは群れを組んで狩をする獣です。近くに群れがいるかもしれません」


 そうして、幸生たちは地上へ戻ることになった。

 地上に戻ると雛乃は新人たちにオドルハイエナは浅い階層にはいるはずのない生物で危険だから近づかないように注意を促した。

 また、ハンター事務所側でも今後調査を行うと、ざわつく新人たちに説明し、今日の新人講習は終了となった。


 「窪田さん、さっきはありがとうございました」

 幸生も帰ろうとしていたところ、雛乃が駆け寄ってきて深々と頭を下げてきた。


 「実は、森に入っていく2人組の新人さんの後を、窪田さんが心配そうについていくの見えてたんですよね。まさかあんなことになるなんて思ってなくて、私もすぐに呼び戻しにいくべきでした」


 「いえ、志月さんもみんなに囲まれて大変そうでしたし」


 「それにしても、オドルハイエナを単独で倒せる新人はなかなかいませんよ。以前も日本人で有名な念動力者がいましたし、窪田さんは有望ですね」

 と雛乃は笑顔で幸生を褒めてくれた。


 「え? あ……はぁ、まぁ、そっすか?」

 照れて下を向いてしまった幸生をみて、雛乃はクスッと笑った。


 「ん? いました……っていうのは、今は?」

 幸生はふと気になって聞いてみた。


 「あ……それが、実は2年前にダンジョンの深層で行方不明になってしまって、おそらくもう……」


 「そうだったんですか……」

 幸生は少し沈んだ声で返事をした。


 「すみません、暗い話になってしまいましたね。それでは今日はこれで失礼します。これからもよろしくお願いしますね」

 雛乃はニコッと微笑んで軽く会釈すると、その場を離れていった。

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