第48話 得意不得意

「席替え、隣になれて良かったよ」


のんびりと食べる水瀬さんを見ながら、残りのお茶を飲んでいると、自然と席替えの話にもなる訳でして。


そうして素直な気持ちを口にすると、水瀬さんは照れつつも頷く。


「私も蒼井くんの隣の席になれて良かったです」

「お隣同士、これからもよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


個人的には、お隣同士よりももっと仲良くなるつもりだけど、そうして言質も取れたところで、ふと今日の授業の様子を思い出す。


「そういえば、水瀬さん。本当に文系得意なんだね。国語とか英語とか」

「そうですね、少しだけ自信はあるかもしれません」


得意と言いきらずにそう控えめに肯定するのだから、水瀬さんらしいけど、個人的にはドヤ顔くらいしてくれても良いレベルではあると思った。


まあ、ドヤ顔もそのうち見せてくれるかもしれないけど、それはそのうちかな。


「でも、理数系は凄く苦手なので、あんまり成績が良いとは言えないんですよね……」


聞けば、国語や英語の成績は学年トップでも、理数系の科目は低空飛行気味で、赤点でこそないものも、比較的近い位置にはいるので、総合点は伸び悩んでるらしい。


「そうなんだ。理数系だったら、多少は分かるから教えられるかもだけど……時間あったら今度一緒に勉強しない?」

「いいんですか?」

「勿論だよ。折角だし、その時に水瀬さんに英語とか国語も教えて貰えると嬉しいかな」


あくまで自然に、そして交換に教えて貰うという名目で負担もかけないようにそう提案すると、水瀬さんは嬉しそうに頷いてくれた。


「分かりました。よろしくお願いします」


よし、一緒に勉強の約束を取り付けられた。


小テストなんかもあるだろうけど、本番は中間と期末の二つだろうし、まずは中間テストに向けて少しづつ準備すればいいかな。


「何だか、蒼井くんにはお世話になってばかりですね」


そんな風に水瀬さんとの約束に胸を躍らせていると、ふとそんな事を言う水瀬さん。


「そう?俺の方がお世話になってると思うけどね」

「いえ、私の方がお世話になってますよ。出会った時からずっと」


そう言われても、そこまで思い当たることもないけど……まあ、そう思ってくれてるのなら答えは一つかな。


「じゃあ、これからもお互いお世話になれるよう、もっと水瀬さんのこと知りたいかな」

「えっ……?そ、それって……」

「うん、そういう事」

「はぅ……」


何を想像したのかは定かではない(訳でもないが、あくまで仮定なので)が、照れる水瀬さんにそうして本心を告げつつ、のんびりと昼休みは過ぎていくのであった。


この水瀬さんとの時間……プライスレス。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る