第39話 花屋さん

楽しい時間というのはあっという間に過ぎていくもの。


初めての水瀬さんとのお出掛けも終盤も終盤で、時間的にもそろそろ帰路についた方が良さげな頃合に、最後に俺は水瀬さんに頼んで花屋に寄っていた。


「色んなお花がありますね」

「だね、俺もここは来たこと無かったから、水瀬さんと来れて良かったよ」

「そ、そうですか……」


照れる水瀬さんに微笑みつつも、俺は軽く店内を見て回ってから目的の花があるのを確認して、包んでもらう。


「何だか、蒼井くんはお花屋さんに慣れてますね」


初めて来たお店だけど、普段通り注文する俺に首を傾げる水瀬さん。


まあ、普通に男子高校生が花屋に馴染んでるのは珍しい光景に見えたのだろう。


「そうかな?まあ、必要になって来ることは多いからかもね」

「それは、その……女の子への贈り物……とかですか……?」

「いいや、家族にだよ。母の日とか色々ね」


そう言うとあからさまにホッとする水瀬さん。


俺の場合、花を渡したいと思えるような女の子は今にところ一人しか会ったことないし、その子も目の前に居るのだが……それを水瀬さんは知る由もないので、こらから伝えていこう。


「あ、すみません。その花だけは個別にラッピングもお願いできますか」

「プレゼントでしょうか?」

「はい、贈り物なので」


チラリと水瀬さんを見ながら店員さんにそう言うと、店員さんは彼氏が彼女にプレゼントするとでも思ったのか快く引き受けてくれる。


個別でのラッピングとか初めてして貰ったけど、可愛いし凄くいいね。


プレゼントとして花を渡す場合、花束の方が喜ばれそうだけど、流石にまだ付き合ってもいないし、ここはとりあえず、『俺の用事に花屋に寄ったついでに、今日の記念とお礼に花をプレゼント』という建前を使えればと思ったのだけど、とりあえずプラン通りには行きそうでホッとする。


というか、目の前でこうして準備してても、当の水瀬さんが自分に贈られる花だと思ってなさそうな様子なので、後での反応が凄く楽しみになる。


まあ、水瀬さんに贈るだけでなく、家族用に花屋で花を買うこと自体は本日しようと思っていたから嘘にもなってないしね。


「水瀬さんは花が似合うね」

「そ、そうですか?」

「うん、やっぱり綺麗なもの同士は映えるのかもね」

「はぅ……」


念の為に店員さんに準備して貰ってる間に、他の花を見ながらこうして気をそらすけど、本心からの言葉に照れる水瀬さんは実に可愛い。


本当に今日は色んな水瀬さんを見れたし、最高の一日だったなぁ。


やっぱり、水瀬さんの隣の景色は凄く良いと思いながらも、包んでもらった花を受けると俺たちは花屋を出て帰路に着くのであった。










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