第29話 通りすがりのカップル

少し寄り道をしてから、俺と水瀬さんは本来の目的地であるカラオケに来ていた。


先日のクラスメイト達と行った場所ではなく、少し離れた別のお店を選んだのだが、その辺はあくまで念の為。


何人かのクラスメイトが本日もカラオケに来るようなことを言っていたし、誘われもしたので、値段的にも立地的にも先日のお店の方が行きやすいし、そちらをクラスメイト達が選ぶのが当然とも言えた。


また、僅かながらこの数日でラブの雰囲気もクラスにあったし、早速クラス内でカップルの構築も始まっていた兆しがあったので水瀬さんと二人きりの時間の邪魔になる可能性もあるから、本来であればこちらのお店で正解であるはず……。


「もう!私との約束すっぽかした上に、お詫びのデートでも寝坊とか信じられない!」

「だから悪かったってばさー」


……そう、そのはずなのに、何故か俺はその店の前で女の子と歩く岡田を目撃してしまう。


雰囲気的には幼なじみの彼女とでも言えばしっくりきそうだけど、相変わらずな様子の岡田にプンスカと怒るやけに派手目な装いの女の子。


「何でも言うこと聞くから、許してって」

「本当に?」

「勿論だ。俺が約束を破ったことがあるか?」

「数えるのが嫌になるくらいにはあるわね」


ジトッとした目を向けられても普段通りな様子の岡田。


慣れだろうか?何にしても、初見の印象から変わらず大物になりそうな気配のある奴だこと。


「はいはい、すみませんねー」

「もう!どうして私こんな軽薄なのを好きになっちゃったのかしら!」

「そりゃ、幼なじみでお互い初恋だからだろ?」

「まあ、そうだけど……はぁ、本当にタローは仕方ないなぁ……」


……めっちゃラブラブですね。


頼むからこちらに気付かずに通り過ぎてくれと思っていると、ふと視線が岡田とかち合う。


「ほら、行こうぜ」


数秒の交差の後に、岡田は無言で頷くと、リードされて満更でもない彼女さんを連れて他の店へと去っていく。


「どうかしましたか?」


そんな一連のやり取りを、ドリンクバーの飲み物で迷っていて気づいてなかった水瀬さんに、なんと言おうか少し考えてから、俺は笑みを浮かべてはぐらかすことにした。


「何でもないよ。飲み物は決めた?」

「はい、ミルクティーにしようかと」

「いいね、俺も同じのにしようかな」


岡田はお喋りな方ではないし、隠したいことを口止めするくらいの良識派ではあるはずなので、水瀬さんが気づいてないなら言う必要もないだろう。


にしても、岡田も彼女が居るとは聞いていたけど、格好は水瀬さんとは正反対だったな。


俺としては水瀬さんの素朴な可憐さが好きなので是非ともこのままで居て欲しいところ。


まあ、どんな水瀬さんでもバッチコイだけどね。










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