第22話 初メッセージ
「おー、お帰り春斗……なんか良い事でもあったん?」
「それなりにね。岡田はお昼足りなくて、購買に走ったけどあんまり残ってなかったんじゃない?」
「すげぇな、エスパーかよ」
戻ってきた俺の変化にいち早く気づいた友人の岡田を、適当にはぐらかそうとしたらどうやら当たってたらしい。
「ここの購買のパンは美味しいらしいし仕方ないね」
「けど、なんか足りないんだよなぁ……春斗、なんか食い物ない?」
「ないよ」
「困った……これじゃあ、午後を乗り切れない……」
「ほれ、飴やるからこれで我慢しておけ」
「おお!神様仏様春斗様だな……なむ」
拝んでくる岡田に適当に飴を渡す。
授業中に食べるのは良くないので、まだ少し残ってる昼休み中に食べるように伝えるのは勿論忘れない。
「春斗ー、俺にもくれよー」
「私も頂戴」
そして、ここぞとばかりに催促が始まってしまう。
そこそこ量の多い飴だけど、流石にクラスメイト全員に配ったら無くなるなぁ……まあ、仕方ないか。
「わかったわかった。順番にねー」
この機会に、まだ話せてない生徒にも話を振れるし、交友関係を築けるので打算で飴を配っていくと、俺は最後に水瀬さんにも渡すために話しかけた。
「水瀬さんも良かったら飴どうかな?」
次の授業の用意をしていた水瀬さんは、俺の言葉に嬉しそうな表情を一瞬浮かべてから、クラスメイトの手前真面目な表情で言った。
「あと少しで授業ですよ。準備しましょう」
「そうだね。じゃあ、一応置いておくからもし良かったら食べてよ」
「……ええ、ありがとうございます」
凛とした様子の水瀬さんは実に様になってるけど、俺には分かった。
俺が置いた飴を見て、水瀬さんが少し喜んでいたことを。
「水瀬のやつ、もう少し喜んでもいいのにな」
「ねー、澄ましてさー」
やっぱり、水瀬さんも甘いものは好きなんだろうなぁと思いながら席に戻ると、その様子を見ていたクラスメイトの何人かが水瀬さんにそんな事を言うので、俺はそれを黙らせるように言った。
「じゃあ、お返しは三倍でよろしくねー」
「げっ!ホワイトデーかよ!つうか飴ひとつで三倍って鬼か!」
「昔は鬼の蒼井と呼ばれたものよ。ほれ、アホなことを言ってないでそろそろ授業だし席に戻りんさい」
水瀬さんへのヘイトを上手いこと切り替えさせる。
まだ交友関係が薄いうちは、こういう手しか使えないのが悔やまれるなぁ……何にしても、早いとこクラスメイト達をコントロール出来るレベルまでにしないとなぁと思っていると、ふとスマホが振動する。
確認すると一件のメッセージが入っていた。
『飴、ありがとうございます』
視線を向けると、水瀬さんが恥ずかしそうに逸らしてしまう。
最初は俺から送ろうと思ったのになぁ……何にしても、初メッセージに返信しつつ、俺も午後の授業を乗り切る気力を得たのであった。
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