第19話 あくまで偶然
四時間目の授業が終わると、昼休みとなった。
教室で各員がお弁当や買ってきたと思われるパンやおにぎりなんかを出す中で、水瀬さんが可愛らしい包みのお弁当箱を持って教室から出ていくのを確認した。
好都合だけど……さて、どこに向かったのやら。
「春斗、食わないん?」
「少し用事があってな。後で食べるよ」
水瀬さんの行きそうな場所を予想しつつ、上手いこと教室を抜け出すと、俺は人気の少ない場所で最も確率の高そうなテニスコート近くの死角のスペースへと足運ぶ。
風の通りもよく、適度に日陰で人通りも少ないここが最も可能性が高いだろうと考えたのだが、その予想は間違ってなかったようで、その場所に水瀬さんは居た。
丁度、お弁当を広げるところのようだし、ギリギリセーフかな?
「水瀬さん」
「え……?あ、蒼井くん……?」
俺の声に水瀬さんは驚いたような表情を浮べた。
まあ、クラス内の様子から、俺は他の人と食べてると思ってたのだろうし、その驚きも仕方ないかな。
「隣、いいかな?」
水瀬さんはその言葉にまた少しびっくりしてから、こくりと頷いてくれたので俺は水瀬さんの隣に腰を下ろしてお昼にする。
「水瀬さんはお弁当なんだね」
「ええ、まあ。蒼井くんは惣菜パンですか?」
「手軽で楽だからね」
そう言いつつ、今朝買っておいたコロッケパンを口にする。
「私がここに居るの、よく分かりましたね」
一緒に買ったペットボトルの緑茶で喉を潤していると、ふとそんなことを言う水瀬さん。
「たまたまだよ。お昼くらいは俺も落ち着いて食べたかったし、良い場所探してたら水瀬さんを発見できたんだ」
あくまで偶然と言った方が、水瀬さんに余計な気を使わせないだろうと計算してのセリフだけど、昨日の図書室の偶然のお返しも兼ねてそう言うと、水瀬さんはくすりと微笑む。
「意外です。クラスメイトの方々とワイワイしてるイメージだったので」
「それも悪くないけど、お昼くらいはのんびり食べたいかな」
「蒼井くんらしいのかもしれませんね」
気持ちの良い風を肌に感じつつ、サクッとコロッケパンを食べ終わり、二つ目のパンに手を伸ばしてから、俺はそれに微笑んで答える。
「まあ、でも、水瀬さんと一緒なら楽しく食べれそうだから見つけられて心底ホッとしたのも事実かな」
「そ、そうなんですか……」
嬉しそうな表情を浮かべてから、恥ずかしそうに視線を逸らす水瀬さん。
とりあえず、俺と一緒にお昼を食べるのを嫌がってる様子はなさそうなので、その辺は少し安心する。
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