第12話 些細な駆け引き

朝から先生方は忙しそうだ。


教員の不足がよく話に上がるくらいには、現場は中々に大変そうだけど、一人だけそんな素振りのない人が居るのだから不思議なものだ。


「おー、早いな」


水瀬さんと一緒に職員室に来ると、のんびりとコーヒーを飲んでいるウチの担任の先生である山本先生が居た。


「おはようございます」

「まさか入学式の翌日にカップルが出来るとは、最近の高校生は手が早いもんだ」


……早いってそっちの話?


「わ、私と蒼井くんはそういう関係では……」


律儀に反応する水瀬さん。


チラチラと俺を見て恥らないながらのセリフは、物凄く意味深に取られると思うけど……まあ、100パーセント天然なのだろうし、微笑ましく見守るとしよう。


「まあ、それならそれで構わんが。確か、蒼井と水瀬だったな。部活も委員会もまだない新入生が来るには早すぎるくらいの時間だが、何か用事か?」


教員歴が長いこともあるのだろうけど、既にある程度生徒を記憶してる辺り、やはりこの人は意外と優秀なのかもしれないと思いつつアワアワしてる水瀬さんの代わりに答える。


「ええ、早く来てクラスの役に立てないかと思いまして」

「ほー、真面目なことを言うやつだな。そっちの水瀬は見た感じそのセリフが似合いそうだが、どう見てもお前さんから出てきそうなセリフには思えんな」


ふむ、一見すれば凄く好青年に見えるはずだけど……


「彼女の真面目な部分を見習いたいと思ってるだけですよ」

「なるほどなぁ、上手いことやるもんだ」


絶対に勘違いしてそうなそんな言葉に、更に水瀬さんがテンパるので、それを程よく見守ってから落ち着かせて、職員室を後にする。


「な、なんだか……その……勘違いされましたね……」


カップル扱いに未だにアワアワしていた水瀬さんだけど、嫌がってるよりは期待してるような雰囲気があって、何とも悩ましいものだ。


「水瀬さんが彼女だったら、もっと学校生活は楽しくなりそうだけどね」

「え……え?あ、あの、それってどういう……」

「ほら、皆が来る前に、一通り終わらせないとね」


まさかの返答に凄く動揺している水瀬さんだけど、俺はそれにいつも通り微笑んで歩き出す。


思わせぶりな言動は水瀬さんの専売特許(100%天然によるもの)だけど、これくらいなら俺から仕掛けても大した影響はないはず。


にしても……彼氏彼女の些細な話でこんな初心な反応をするなら、付き合ったらどうなるのかは凄く気になるところ。


その辺は俺が知る機会を得られるように今後努力するに限るかな。











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