俺の気持ちは本物だから、、、

夢色ガラス

大切な幼馴染

「おっじゃましまーす!!!」

家が隣の幼馴染、本原花奈(もとはらはな)がいつも通り俺んちにやってきた。大学生なのに、遠慮もせずに入ってくる。サラサラの長い髪の毛を耳にかけて楽しそうに挨拶する花奈は、毎日朝食も食べていく。いつもそうだ。

「いらっしゃい、花奈ちゃん!」

ふわりと微笑んで能天気な母さんが言う。っておい、勝手に入ってくんなよ!

「空くんママ、おじゃましまーす」

ササッと手を洗った花奈はスラッとした長い脚でゆっくりリビングへ足を運んだ。俺は呆れて、今度提出のレポートを書いていた手を止めた。

「花奈、おはよう」

まだ日本は朝の6時である。今日は勉強するために起きているが…いつもは朝早くに起こされるのでたまったもんじゃない。

「あ、空くんおはよう!今日は起きてるんだね!」

クスリと目を細めて花奈が笑う。『空くん』というのは俺、風間空斗(かざまそらと)という名前のあだ名だ。…と言っても『空くん』と呼ぶのは花奈だけだけど。花奈が俺の横に座ってレポートを覗いた。綿菓子みたいなフワフワした笑顔がすぐ隣にあった。甘いブルーベリーみたいな花奈の匂いがした。なぜか、ドキドキした。本当は毎日花奈が来てくれることが俺は嬉しい。

「起きてるよ。お前がいつも早く来すぎなんだってば、マジ迷惑」

恥ずかしくなって俺はレポートと筆記用具を片付けた。さっきまで花のような笑顔で幸せそうだったのに、いきなり唇を突き出して文句を言いだす。花奈は表情はコロコロ変わる。

「だって起きちゃうんだもん。しょーがないよ」

花奈は全く遠慮せずに俺の特等席のソファーにダイブした。俺の席がぁ…!スタイルがよく、背が高い花奈の体はソファーに納まりきっていない。

「空くん、すぐ怒る~。ケチジジイ~」

可愛いくせして口悪いなぁ…。大きくあくびをしながら花奈が目を瞑る。

「俺がジジイなら花奈はババアだな。フッ」

俺が不敵な笑みを浮かべると、花奈は眉をひそめた。

「可愛いレディにそんなこと言っていいと思ってんの?」

花奈は本当に可愛いと思うが、不機嫌な花奈は大学の気難しい教師に似ていてめんどくさい。花奈は俺と同じ大学で、俺より1歳年下だ。長いまつ毛がピクッと動く。俺に怒っている証拠だ。花奈は短気で怒りっぽい(単純だから扱いやすい)。

「なぁに~?空斗が意地悪したの?花奈ちゃん、可愛そうに」

母さんが洗濯物カゴを手に、花奈の頭を撫でに行く。天然キャラ同士、30歳近く違うくせになぜだか気が合っている。

「空くんがいじめる~」

洗濯物の上から母さんに花が抱き着く。おいおい、花奈大袈裟っ!…と俺も笑いながら言おうとしたんだけど…。俺は気づいてしまった。洗濯物の一番上に俺様のパンツが…!そのことに気づいたのは幸い俺だったようだ。やめてくれ、花奈がパンツの上から顔をうずめる。やめてくれやめてくれやめてくれやめてくれ…!恥ずかしいし、幼馴染にパンツを見られるとかヤバい…!そのパンツの柄は、小さい頃に好きだったパンダくん🐼だった。今は別に好きなわけではないけど、母さんがずっと買い続けている。気づくな気づくな気づくなっ!

「花奈ちゃんはうちの空斗と違っていい子ねぇ」

母さんが嬉しそうに甘えんぼの犬みたいに懐いている花奈の頭を撫でる。

「そーお?空くんもいい子だよ~」

花奈が恥ずかしそうに俯いてはにかむ。うぉぉぉ!その目線の先にはパンダくんが…!見るな見るな見るな…!花奈ぁぁぁぁ!俺の心の叫びも虚しく、花奈はパンダくんを見つけてしまった。

「あっ!これ、パンダくんだよね?私、大好きなの!空くん好きなの?空くんが使ってるとこ、見たことないんだけどー。嬉しい!パンダくんファン?!」

1人で盛り上がっている。母さんはそおぉ、とよく分からない間抜けな返事をした。まだパンツだということに気づいていないらしい。これ以上答えるな…!だが、母さんは(遅めの)思春期真っ只中の息子の気持ちを全く理解していなかった。次の瞬間、母さんは優しい笑顔でふわりとこんなことを言いやがった。

「ウフフッ、そりゃあ使ってるとこも見たことないわよぉ。パンツだもん」

パチッと目を見開いてから花奈は状況を理解する。花奈の気まずそうに逸らしたアーモンド形の瞳を、俺はこれから一生忘れない。そして、不思議そうにパンダくんと花奈と俺を交互に見ていた母さんのことも一生忘れない。俺は天然すぎる母さんを睨みながら椅子から立ち上がり、オレンジジュースを取りに行った。グラスに注いでいると母さんの朗らかな高い声が聞こえた。

「空斗ったら、照れちゃって。ウフフ、いつも一緒にお風呂入っていたっていうのにね~」

その後、花奈がお手洗いお借りします!と叫ぶように言ったので、母さんの弾んだ声は聞こえなくなった。俺はグラスをもう1つ用意して、花奈用にコーラを注いだ。花奈はジャンクな飲み物が大好きだ。花奈が星みたいに輝いた瞳でありがとっ!という姿を想像する。うん、可愛い。…って違うからな!好きなわけじゃないからなッ…!1人でアワアワと考えていると、後ろからフワッと優しい匂いがした。…花奈だ。

「空くん、炭酸飲めるようになったの?」

喉が渇いていたらしく、冷蔵庫を覗きに来たのだろう。炭酸が苦手な俺がコーラを用意していたのを見て、驚いたようだ。俺が無言でグラスを押し付けると、花奈はニコッと笑って受け取ってくれた。

「私にくれんの?空くんが優しいなんて珍しいね!」

俺が鋭く睨むと花奈は楽しそうにごめんごめん、と言った。ゆっくり口につけてコーラを飲む花奈を見ていると、花奈は俺の視線に気づいて恥ずかしそうに後ろを向いた。半分くらい飲むと、花奈は俺の方をパッと向いて言った。

「ありがとっ。空くんが入れてくれるコーラが1番美味しいよ!」

俺の目を見て優しく話す花奈が何だかまぶしく見えた。そんなこと言うなんて、反則だろ。俺に限らずコーラはうまいだろうし。入れただけだし。それでも嬉しいのには変わりない。元気にソファーに向かって走って行く花奈はやっぱりきれいだった。長い足が軽やかに地面を蹴って、細い腕は定期的にふられていて。俺はぼーっと花奈を眺めた。やっぱり…、やっぱりもう自分の気持ちは我慢できなかった。俺が花奈に特別な感情を抱いていることは言うまでもなかった。

                        <おしまい>
























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