第5話 深まる違和感

 ザブさんは時間をかけて外観を撮影すると、いよいよ玄関に手を伸ばし引き戸を開けた。

 何の抵抗もなくスッと開く。


「えっ、夜は結構力を入れていたし、変な音もしていた。湿度とかの関係で、夜は引き戸が開きにくくなっていたのかしら?」


 そして、ザブさんは家の中を丹念に撮影している。

 異変は、一階の一番奥の部屋で感じた。

 この部屋の全体をゆっくり写し撮っていく。

 廊下の正面は仏壇、その右にタンスが三つ並んでいる。

 三つのタンスの向かい側にも三つタンスがあった。

 六つのタンスはどれも立派なタンスでした。


 そして仏壇の左側は、床の間になっていて、その横のスペースに背の低いタンスが有り、その上の右端に日本人形の入ったガラスケースがのっている。

 その背の低いタンスの向かい側に三面鏡があります。

 三面鏡の横は少し間隔が空いてタンスがあります。


 三面鏡の上には、白いだるまのようなシルエットのぬいぐるみが置いてあります。

 目がくりっとしていて可愛い、雪男かゴリラのぬいぐるみのように見えます。

 両手が体の前で握られています。


「おかしいわねー」


 最初の違和感は三面鏡です。

 廃墟紹介だけの配信者の中には、鏡やお風呂、トイレをかたくなに撮影しない人がいます。

 これは当然、霊が写り込みやすいというのが理由です。

 であるならば、ザブさんが夜、三面鏡を写さなかったのは何故でしょう。


 心霊系廃墟配信者ザブさんの、最終目標は心霊をはっきり映像に写すことのはずです。

 三面鏡は美味しいはずです。

 心霊系配信者は多くの場合、三面鏡は何度も撮影して配信します。

 自分たちは何も見つけられなくても視聴者が何か異変を指摘してくれることがあるからです。


 であればザブさんは意図的に、三面鏡を配信映像に入れなかったのだと思います。理由は何でしょう。


「尺の問題だけじゃないわね」


 そして、もう一つ。

 編集前の映像ではこの部屋もぐるりと全体を写しています。

 夜の映像ではこの部屋の全体が配信されていませんでした。


「何故かなあー」


 さらに、映像は違和感を深めます。

 この廃墟の二階に映像が進んで行くからです。


「そういえば、配信映像には二階の映像が少しも無かったわ」


 何故、配信映像に二階が無かったのか。

 階段を上りきると正面に廊下があります。

 向かって右にトイレとお風呂。


「お風呂?」


 不思議です。お風呂は一階にもありました。

 普通の家にしか見えないこの家に、何故二階にまでお風呂があるのでしょうか。


 そして、向かって左側に二部屋あり、手前が書斎のようでした。

 大きな机があり、その横にパソコンがあります。

 まだブラウン管のモニターが時代を感じます。

 豪華な収納と本棚が壁に並んでいます。


 窓のカーテンの隙間から日差しが入り込み、部屋の中を照らしています。

 机の上や床に、厚く積もった埃を映し出し、廃墟らしさを感じます。


 そして画面は、隣の部屋を写しだした。

 その部屋の中には、雑に木を打ち付けた壁に扉が有り、その扉に南京錠がかけられていた。

 ザブさんはその南京錠に手を伸ばし、ガチャガチャ動かした。


 その時、急にビクンと手を引っ込めた。

 映像はここで急に廃墟の外に変わった。

 録画を一時停止したみたいです。


 そして「……こ、この家は、まるで今でも人が住んでいるようですね」とザブさんが怯えながら説明しました。


 そして私は全身で寒気を感じた。




 以前見た心霊系廃墟映像で、六名の男女が深夜、廃病院を撮影しているものがありました。

 その廃病院は中も綺麗で、機材もそのまま残っていました。

 最初その廃病院は、何の恐さもありませんでした。

 六人の男女も恐さを感じていないようで、とても楽しそうに、大きな声で笑い合い、はしゃいでいます。

 でも、手術室で機材を床に落とし、病院中に響く音を出しました。


 その瞬間、病院の雰囲気が豹変しました。

 私の両腕が鳥肌になり、背中がゾクッとしました。

 暗い真夜中のさっきまで静まりかえっていた、廃病院の中から様々な音が聞こえ出します。

 遠くの方で小さく響く叫び声、ぼそぼそ話す話し声。

 突然物がバタンと倒れたり、勝手に扉が閉まったりします。


「ぎゃあああーーあ」


 しばらく耐えていましたが、人の大きな怒鳴り声が聞こえた時、全員廃墟の病院から一目散に逃げ出しました。

 私はその時に似ていると思い出していました。


 ザブさんがこの廃墟の何者かを、呼び起こしてしまった感じがします。

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