第4話 不自然な内容

 映像の中のザブさんは、明らかに様子が違った。

 だいたいこんな廃墟に夜中に一人で、まともでいられるはずもありません。

 眉毛が下がり、まるで泣き顔です。

 唇も小刻みに震えています。


「で、では、トリフィールドで検証を続けましょう」


 えっ、この人ある意味すごい。

 この状態でまだ検証を続けるつもりらしい。


「スイッチを入れます」


 ピーーーッ!!

 トリフィールドが、精一杯最大で泣き出しました。


「うおおおー」


 ザブさんが取り乱しました。


「おおおお」


 うなりながらスイッチを切っています。

 こんな山奥は携帯の電波すらありません。

 トリフィールドが反応するのは何が原因でしょうか。


「ききき、きをを、取りな、直してスピリットボックスで、検証したいと思います」


 ザブさんはスピリットボックスのスイッチを入れました。

 この人を突き動かしているものは何でしょうか。

 私はザブさんに少し恐怖しています。


 ザッ、ザッ、ザッ

 リズミカルに鳴りだした。

 普通はここで近くに何かいるものとして話しかけるのですが、それよりも早くスピリットボックスが反応した。


 ザザザ、ゼゼゼー、ザー


「うお、おお、女の人の声です」


 ザブさんが驚きましたが、何とか耐えています。


 ザザザ、ガエデーー、ザザザーザ


「うわあーー!!」


 ザブさんが大声を出して叫びました。

 それに呼応するように、スイッチも触っていないのに、ばけたんが赤く光り、トリフィールドがピーーと最大音量で鳴り出しました。


「か、帰ります、帰りますー―!!」


 絶叫しながら走り出しました。

 その時カメラにぶつかり、映像が大きく揺れました。

 最後のスピリットボックスの声は男の人のように感じました。

 私は、色々な配信を見てきましたが、これ程激しい反応を見たのは、はじめてです。ザブさんは大丈夫でしょうか。




 そして映像が、車内に切り替わりました。

 真っ暗な中に、運転席だけが浮かび上がっています。

 ザブさんはまだ肩で息をしています。


「いやー、これ以上は撮影できませんでした。機材を残したまま帰って来てしまいました。明日、明るくなってから取りに戻りたいと思います。本日の配信はここまでです。ご視聴ありがとうございました」


 そして、エンディングテーマが流れだし配信は終了しました。

 なんだか撮れ高、最高の配信になっています。

 私は、続いて編集をしていない方の、映像を見てみようと、ディスクをパソコンにセットしました。


 そこには明るい山奥の緑美しい景色と、落ち着いているザブさんの姿がありました。

 先程までの恐怖に怯える姿がまだ脳裏に残っている私には、すごくリラックスしている様に映りました。


 そして、一軒目のつぶれた廃屋をじっくり写し、二軒目の廃屋に移動します。

 そして、すぐに廃屋の中に入っていきます。


「編集後の映像では、中には入ってなかったわね」


 私は思わずつぶやいてしまいました。

 そして、中に入ったザブさんは、ゆっくり廃屋を写すと床の抜けていない部屋に入ります。

 部屋に入ると、配信映像の時と同じく、部屋のきしむ音が部屋のあちこちから聞こえます。


「やっぱり、昼間にこの音を確認していたのですね」


 私の独り言です。

 そして部屋の中央に来るとパチンという音が出ました。

 ザブさんは「おっ」と声を出しました。

 そして、体重移動をして、何度でもこの音が出せることを、確認しています。


「ふふふ、これも確認済みでしたか。私の思ったとおり夜に怖がっていたのは演技ですね。やるもんです」


 そして外にでたザブさんは、まるで中に入っていないように、コメントして「夜はここから入っていきましょうかねー」の言葉で締めくくりました。

 続いて三軒目に移動していきます。

 そして私は、全身に寒気が走りました。


「すごい、全身がゾーッとしたわ。こんなの久しぶり」


 私は全身の寒気に両手で体をこすっていました。

 今のこの家からは、他の廃屋同様に何も感じ無いのです。

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