風が強くて強くてひたすら強くて…ちょっとポンコツ過ぎないか?!~出世だと思って村の寺に来たら厄介な風神がいた件〜
青によし
法師の章【1】①
神や鬼が身近にいた時代。それらは人々に恩恵を与えてくれると同時に、脅威も与えてくる存在だった。
***
法師の俺は、村人たちに囲まれていた。彼らは着物が汚れるのも構わず座り込み、地面に手をついている。
「お願いします、法師さま! このまま風が止まなかったら、家が壊れちまう」
「そうだ、そうだ。作物も倒れちまって、うまく育たねえんだ」
「だから、風神の奴をやっつけてくだせぇ」
そう口々に言いつつ、俺の袈裟に縋り付いてきた。そんなに引っ張ったら破れてしまうだろう、と言いたかったが我慢だ。村人たちの機嫌を損ねるわけにはいかない。新米住職の俺は、まだまだ村人達に村のことを教えてもらわなければ生活出来ないから。
俺は星見宗本山から命じられ、都の寺からここに派遣されてきたばかりだ。ここは小さな村の寺だが、代々星見宗の僧侶が守っている。先代が亡くなり無人の寺になっていたが、いつまでも無人ではいけないと、俺に白羽の矢が立ったわけだ。
着任早々、取り組まなくてはならない大問題が飛び込んできた。というか、本山の上役は風神のことを知ってたんじゃないだろうか。ここへの派遣を聞かされた時「この寺での務めをやり終えれば、本山でさらに出世出来るだろう」って言われたから。
齢十八で寺を任されるのは名誉なことだし、やる気満々でこの地にやってきたというのに、先が思いやられる。
あのニヤけた生臭坊主め。俺にこの寺を押し付けて、問題にはちゃんと手を尽くしましたと言い張るつもりだな。俺が失敗したら俺の実力不足のせいになり、俺が成功したら自分が手配したのだと手柄を横取りするのだろう。
出世にしか興味ない人で、あまり尊敬も出来なかったが、ホントに嫌な奴だ…………などと、心の中で文句を垂れる。
しかし、この寺に来た以上、村人たちを救わなくては。俺の法力であれば、そこら辺の鬼や荒御魂なら退治出来る自信はあるし。それくらいの修行はしてきたつもりだ。
「分かりました。村人のみなさんの暮らしを守るため、力を尽くします。ではまず、風神というのはどのような奴なのでしょう?」
なにはともあれ、情報収集が肝心だ。俺は柔やかな笑みを浮かべて尋ねた。
「法師様、あいつはバカなんだ」
そうか、風神は頭が悪いのか。
「不器用すぎて風の加減が出来んのです」
なるほど。確かにそれは困るな。
「無駄に美形なくせに、布を巻き付けただけの姿でうろちょろするから、けしからん」
ん?
「文句を言おうとしても、あのふにゃっとした笑顔を見ると何も言えなくなる。恐ろしいことだ。あいつは変な妖術を使ってるに違いない」
んん?
「そうだ。隣の家の息子なんか、あいつへの貢物を用意するため、都へ出稼ぎに行っちまった。働き手が居なくなって婆さんが困ってる」
んんん?
口々に風神のことを語る村人たちだが、だんだんとよく分からなくなってきたぞ。
えーと、要するに……
バカで不器用だから風の加減が出来ないイタイ奴。だけど、無駄に美形で、笑顔で変な妖術を使うってこと??
なんか聞けば聞くほど訳が分からなくなる。
一般的な土地神は、村の守り神として丁寧に崇められていることが多い。そんな印象とはかけ離れた、庶民的な神なのだろうか。明らかに崇められるというよりは、呆れられている気がする。
ていうか、村人たちも、本当に困ってるのか? 確かに働き手がいなくなるのは痛手だが……。要領を得ない。
とにかく、風神に直接会ってみるしかないようだ。
村人たちを宥めて返したあと、とりあえず偵察に行くことにした。
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