来訪棟の歓迎課~異世界からきた来訪者のお世話、承ります!~
さき
第1話 来訪棟の歓迎課
フルニア国の王都には重要機関が揃っている。
その中にある一つの建物は、異世界から来る『来訪者』と呼ばれる者達に対応するための部署が集まっている。
通称『来訪棟』
そこに設けられた『歓迎課』が、ルディ・コットールの勤め先だ。
歓迎課に所属するのはルディを始めとするたったの五人。それも内一人は午前中のみで帰ってしまう。仕事も楽で緊急性もない、もちろん危険もない。いつものんびりとしている課だ。
「ルディ、そろそろ打ち合わせに行こうか」
歓迎課内、壮年の男性がルディに声を掛けてきた。
呼ばれ、ルディがパッとそちらを向く。赤茶色の髪がふわりと揺れ、濃い青色の瞳が自分を呼んだ人物をとらえて輝く。
「はい、先生! 今日もお仕事頑張りましょう!」
元気の良い挨拶と共にルディが立ち上がれば、先生と呼ばれた男が満足そうに頷き、そして歓迎課の他の者達も――といっても三人しかいないが――「いってらっしゃい」と穏やかに見送ってくれた。
フルニア国は昔から異世界からの来訪者が後を絶たなかった。
時には眩いほどの光の中から現れ、かと思えば突然森の中にポンと現れる。別の世界からこちらの世界へとやってきた者達は総じて『来訪者』と呼ばれるが、その出現方法は様々で、時にはこちらの世界の子供として生まれ落ちる事もある。
そんな『来訪者』を迎え、彼等の今後の生活を支えるのが『歓迎課』の仕事であり、ルディの仕事だ。
……正確に言えば、来訪の際の地脈の歪みもさしてなく、異様な魔力値も検知されず、凶暴性も無い来訪者のお迎えである。
これはつまり、この世界においてまったくもって無害であり、そして言ってしまえば重要度の低い『来訪者』ということである。
有害であったり重要度の高い来訪者は他の課に回される。
「同じ『来訪者』の対応なのに区別するなんて失礼ですよね。ねぇ先生」
ルディが同意を求めれば、隣に座る壮年の男性が困ったように笑った。
彼の名はブルーノ・バトン。ルディの上司であり、同時にルディの先生でもある。尚且つ幼少時から世話になっているため父親のような存在でもある。
線が細く穏やかな見た目をしており、銀縁の眼鏡が知的な印象を与えてよく似合っている。喋り方も品が良く、落ち着いた態度と仕草で彼に信頼を預ける者は少なくない。
「確かに区別をするのは良くないけど、こうも『来訪者』が多いと対応を分けないと回らないんだろうね。それに、区別しなくなった場合は僕達の歓迎課が真っ先に無くなるだろうから、なんとも言えないかな」
「そうですね。つつがなくスムーズに、かつ、来訪者の皆様に不安を抱かせることなくこちらの世界に安住してもらうため、多少の区別は必要ですね」
課の存続の危機となるや途端に手のひら返しをするルディに、ブルーノが苦笑しながら頷く。
二人がいる場所は歓迎課と併設されている応接間。
広々とした部屋にはテーブルとソファが向かい合うように置かれている。それと資料の入った背の高い本棚が一つ。
他の調度品は一切ない。広さに反して家具は少なく、室内を殺風景に見せる。
「本当はもっとお洒落な棚とか綺麗な絵も飾りたいんですけどねぇ」
スペースが勿体無いと話すルディに、ブルーノがまたも苦笑と共に首肯した。
「お洒落な棚に素敵な絵画か。確かに憧れるね。でも部屋いっぱいどころか窓からはみ出かねない翼や、眩い塗料を常時散布する来訪者がきたらすぐに駄目になってしまうよ」
「レキシェールさんとフューミュースさんですね。フューミュースさんのときは私も先生も数日塗料が落ちなくて大変でしたね」
「そうそう、しかも暗くなると光るもんだから寝難くて」
あれは参った、とルディとブルーノが同時に肩を竦める。
レキシェールもフューミュースもどちらも『来訪者』だ。レキシェールは背中に大きな羽を持ち、そしてフューミュースは常に眩い塗料を散布している。
だが二人は変わってはいるものの来訪の際に地脈の大きな歪みもなく、膨大な魔力も有していなかったため無害と判断された。そしてルディ達の歓迎課で請け負うことになったのだ。ーー塗料も数日で落ちたしーー
二人とも温和な性格の気の良い人だ。今もルディ達のもとへ顔を出してくれる。
「今回の来訪者も良い方だと良いですね。ねぇ先生」
「そうだね。まずはコミュニケーションを取れるかが問題だ」
来訪者は異世界から来る。ゆえに様々だ。
多くは人間の形をしており、こちらの言語を理解している。文字の読み書きは出来なくとも会話は通じるというのもよくあるパターンだ。
だが時には人間とは全く違う形状をし、なおかつ違う言語を使う来訪者もいる。
「私、今年こそ異世界言語の資格を取ります。そうしたら他の課からも仕事が入るし、なによりお給料に資格手当がつくんですから!」
ルディが意気込めば、異世界言語の第一人者とまで呼ばれるブルーノが「頑張りなさい」と微笑んだ。
コンコンとノックの音が聞こえたのはそのタイミングだ。ルディとブルーノが同時に立ち上がる。
キィと音がして扉が開き、入ってきたのは二人の男性。フルニア国騎士隊の制服ではあるが、外套のデザインが少し変わっている。騎士は騎士だが対来訪者を専門とする騎士隊だ。
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