第87話

 俺とアーチェリーは防壁を守る近衛を弓で倒していく。

 近衛は矢を1発当てた程度じゃ倒せない。

 何度も攻撃を重ねてやっと倒せる。

 そしてたまに攻撃を避けられる。


「中々倒せないか」

「そうね、精鋭は厄介だわ」

「このままグリードには引きこもっていて欲しい」

「あれだけ脅せば怖がって出てこれないと思うわ」

「出来ればグリードに矢を1発放っておきたかった」


「射程の範囲には絶対入ってこないでしょうから難しいと思うのだわ」

「そうなんだよなあ。グリードが1発でも矢を受ければ確実に出てこなくなるんだけどそれが難しい」




「次はモグリンの穴掘りでダッシュドラゴン部隊の避難路を作ろうか」

「急ね」


「近衛が矢に慣れてきている。急に攻めて急に攻めるのをやめられた方が怖いだろ?」


 相手が何をしてくるか分からない。

 それが一番怖いんだ。


 それと、ダッシュドラゴン部隊は50人しかいない。

 敵に軍が潜んでいると見せかけて実は数が少ない為、万が一攻めてこられたら逃げる事になる。

 避難路は欲しかった。


「そうね。モグリン、避難路を掘りなさい」

「きゅう!」


「後は定期的に攻撃を仕掛ければグリードは籠城したまま自滅していくだろう」

「アキ、落ち着いたら休んだ方がいいわ」

「そうだな」


「……」


 最初は元気に穴を掘っていたモグリンだったが俺とアーチェリーが話し込むと作業が止まった。

 じっとアーチェリーを見ている。

 モグリンはアーチェリーに近づき、寄り添った。


「モグリンは私が見ていないと駄目ね。後ろで見ているから頑張りましょう」

「きゅう!」


 モグリンは元気に穴掘りを再開した。


 俺は城を守る防壁の外から爆炎効果を付与した矢を撃ちこんで轟音を鳴らした。

 近衛を狙っているわけではない。

 グリードに爆炎の音を聞かせて怖がらせる為だけに爆炎の矢を放った。

 とりあえず3日間ほど昼も夜も轟音を鳴らそう。


 近衛への弓攻撃は対処され始めて中々倒せなくなっていった為、グリードへの精神攻撃に切り替えたのだ。




 俺の出来る事は無くなっていったがモグリンは大活躍した。

 王都に続く川を迂回させて水を枯れさせた。

 光の塔真下を掘る事で塔を傾けた。


 

 モグリンがダッシュドラゴン部隊に囲まれて撫でられていた。


「よくやったぞ」

「可愛いわね」

「パンが焼けたぞ」


「きゅいーう!」


「モグリン、明日の朝になったら魔石の洞窟に帰ろうか」

「きゅ?」

「もうここでの仕事は終わったのよ。頑張ったわね」

「きゅう」


 モグリンは満足した顔を見せた。

 本当に分かりやすい。

 俺とアーチェリーは妨害工作を仕掛けた後魔石の洞窟がある城に帰還した。




 ◇



 城に戻って休暇を取っていると珍しくセバスが話しかけてきた。


「アキ、手合わせを願いたい」


 急だな。

 俺がきゅうかになるタイミングまで待っていたのか?


「戦いたい、という意味だよな?」

「そうなる」


「俺が勝てるとは思えない」

「アキの心が知りたいのだ」


 戦う事で相手の性格がある程度わかる。

 達人の域に達しているセバスなら多くの事を読み取る事が出来るだろう。


「俺は適当で飽きっぽい所がある、そういう人間だ」

「最初はそう思っていた。だが、分からなくなったのだ」

「ん?」

「適当で飽きっぽくありながら遠くを見据えている。本当に適当な人間であればそこまで強くなることは出来ない。見極めたいのだ」


 言っている事がサムライだ。


「でも、どうせやるなら観客を集めて入場料を取らないと後で何か言われる気がする」


 今大量の移民を受け入れている為金はいくらでも欲しい。

 シルフィ王国は国債を刷りまくって、寄付を集めに集めて、金持ちに勲章を売っている。

 多少歪んだことでも出来る事は全部やって金策を進めている。


 もっと言うとモグリンで地中から攻めいるのはこちらの切り札だったがそれを敵に晒してでもグリードが攻めてこないように脅しをかけ、足止めに徹した。

 今は時間と金が必要なのだ。


「問題無い」

「グラディウスに話をしてくる。手合わせは少し後になるかもしれない」

「問題無い」

 

 俺はグラディウスに相談しに行った。




 ◇




 セバスとの戦いは王都でやる事になった。

 屋台が並び、人々がにぎわう。

 手合わせをする話をしに行ったら祭りが開かれた。


 モグリンが佇む屋台には立札が立っていた。


『幸運のモグリンなでなでがなんとたったの1000ゴールド!』


『モグリンの餌、500ゴールド!』


 モグリンは子供たちに人気だ。

 ショッピングセンターにあるキッズコーナーと化していた。

 



「剣闘会は朝10時から開催されます!S席チケットは10万ゴールド!A席チケットは3万ゴールド!B席チケットは5000ゴールドとなります!なお、会場内では食事の販売やお手洗いも充実しております!ぜひご参加ください!」


 チョコがバニーガールの格好をして宣伝をする。

 会場となった闘技場では戦いが繰り広げられている。


 1日目のメインイベントはワッフルVSプリン戦

 2日目のメインイベントはアーチェリー&モグリンVSダッシュドラゴン部隊10人

 3日目、祭り最終日のメインイベントは俺とセバスの戦いだ。


 1日目と交換して欲しかったが断られた。

 王女が最後の方が自然じゃないか?



 剣闘会が進み、ワッフルとプリンが闘技場に登った。


「解説のセバスさん、アキさん、この闘いをどう見ますか?」


 チョコが俺に魔道マイクを向けてくる。

 そう、俺とセバスは何故か解説をする事になっていた。

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