第66話

 俺とミルクさんは木箱で作った椅子に座って少し休む。

 ミルクさんは俺の耳元でささやいた。


「今日の夜、時間あるかなあ?」

「どうだろ?進み具合によるから」


 プリンさんを見ると笑顔だった。

 俺が立ち上ろうとするとプリンさんが俺の腕を引っ張り、言った。


「待ってるから」

「じ、時間があればな」


 これってあれだよな!?

 待て待て、まだ朝だ。

 まだ朝なのだ!

 集中集中!


 俺は立ち上がってダッシュドラゴン兵に声をかけた。


「もうMPが無い。次は戦場に行って来る」

「「我らもお供します!」」


「今日は休んでくれ。傷は治っても失った血はすぐには回復しない。食べて寝てくれ」


 そういうと兵士が泣き出した。


「な、なんとお優しい!うううう、ぐううう!」

「まるで天国のようだ」

「明日は必ず、必ずううう、役にいい、立ちますううう」


 今までライダーの指揮が悪すぎたんだ。

 大戦初日時点でダッシュドラゴン部隊の調子が悪かった可能性が高いだろう。


「行って来る」


 皆敬礼して俺を見送った。




 戦場には倒れた兵士が装備した武具がある。

 そこから鎧や武器をはぎ取って回収するのだ。


 戦場に着くと武具が山のように積まれていた。


「お疲れ様、たくさん貯まったな。後はストレージで回収する」

「「いえ!まだまだです!」」


 ダッシュドラゴン部隊は更に武具をはぎ取っていく。


「あれ?プリンたちは?」

「斥候に来た敵兵を攻撃しています」


「そっか……傷を受けた者は俺の半径10メートル以内に集まってくれ。どんなに軽傷でも集まってくれ。傷ついたダッシュドラゴンも一緒にな」


 効率がいいのはヒールだけどあの魔法も試してみたい。

 みんなが集まると俺は魔法を唱えた。


「サークルヒール!」


 俺の半径10メートルにいる味方が回復した。


「おおお!これは!高位の光魔法!」

「凄い、生きている内に高位魔法を体験出来るとは!」

「一生ついていきます!どんどん命令してください!」


「次周りに集まってくれ!」

「「了解しました!」」


 俺は更にサークルヒールを4回使った。

 その後はダッシュドラゴン部隊の動きは更に良くなった。

 食事を持ってこようとしても『問題ありません!』と言って働き続ける。

 プリンたちが戻って来てもまだ動き続けた。

 大量の武具を回収して城に戻った。

 

 もう夕方だ。


「お疲れ様です。今日は休もう」

「「明日もよろしくお願いします!」」


 ダッシュドラゴン部隊が食事に向かって行った。


 俺は戦場に落ちていた武具を洗った。

 そして風呂に入り、遅めの夕食を摂って部屋に戻り、錬金術で槍を治していく。

 ダッシュドラゴンと言えば槍使いが多い。

 まずは槍だ。


 強い兵士は武器さえしっかりしていればそこそこ戦える。

 攻撃を受ける前に相手を倒せばいいのだから。


 欠けた槍に予備の武具の鉄を使って補充するように錬成していく。


 修理が終わった槍を壁に立てかけていくとプリンが訪ねて来た。


「アキ、入っていい?」

「入ってくれ、でも、しばらく錬金術をするぞ」

「良いわよ」


 俺はプリンを部屋に入れると、無言で錬金術を続けた。

 錬金術は作るのに時間がかかる。

 座って槍を修理し、立って壁に立てかける。

 途中から出来た槍をプリンが立てかけていく。


「助かる」

「いいよ」


「……つまらないだろ?」

「見ているのは好きよ」

「……そうか」


 地面に座って俺を覗き込むプリンの胸が気になる。

 無防備すぎる。

 俺は邪念を払うように槍を修理し続けた。




 壁には大量の槍が立てかけられ、俺はMPが切れて座り込んだ。


「もう、無理しすぎよ」


 そう言ってプリンは俺をベッドに寝かせる。

 そしてプリンがベッドに座って俺の頭を撫でた。


 プリンの唇が俺に近づく。


「……」

「……」


 ガチャ!


「アキ君、あ、プリンちゃんとエチエチな事を、ごめんね!プリンちゃんはエチエチな事したかったよね!!」


 ミルクさんが入って来た。


「ち、違うわよ!」

「でも、2人っきりで、さっきはキスをしようとしてたよお」


「違うわ!」


 バタン!


 プリンは真っ赤になって部屋から出て行った。


「ふふふ、アキ君、意地悪な女は嫌いですか?」


 そう言ってミルクさんは俺のベッドに入って来る。


「熱くなって来たねえ」


 今度は服を脱いでいった。


「アキ君も、ぬごっか」


 俺とミルクさんは、その夜、一緒のベッドで過ごした。




 ◇




 チュンチュンチュンチュン!

 鳥の鳴き声で俺は目を覚ます。


 日の光がまぶしい。


 裸のミルクさんにシーツをかける。


「寝坊してしまった、寝るのが遅くなりすぎた」


 部屋を出ようと入り口を見る。


 ドアの近くには69本の槍が立てかけられていた。

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