第61話

 ウエポン・アーツは30代ほどの男で、重鎧を着ている。

 特徴的なのはウエポンの周りを武器が浮いて一緒に移動している点だ。

 剣・槍・斧・刀の切っ先が全部こっちを向いており、一発でウエポンだと分かる。


「何でこっちに来たんだ?右翼と左翼が本陣を攻撃している。それに武器の英雄が抜けて本陣はどうするんだ?」


「そんな事は問題にはならない!」

「兵数でカバーする気か」


「とぼけるな!貴様は拳も闇も殺した。これ以上活躍されるわけにはいかん!連戦により弱ったタイミングで徹底的に潰す!」


 ん?連戦はしたけど回復してきている。

 爆炎ナイフを使い切ったタイミング、そういう意味か?

 確かに武器はロングナイフ2本しかない。

 でも、疲れているのそっちの方じゃないか?


 俺はロングナイフを2本持って構えた。

 ウエポンは浮いている槍を手に取る。


「スティング!」


 ウエポンが素早い動きで接近して槍を突き出す。

 固有スキルか!


「クロススラッシュ!」


 両手に持った武器が粉々に砕けた。

 魔力が打ち消し合い、わずかに押し勝った。

 ウエポンがダメージを受ける。

 だが、攻撃が浅いか。


 俺には今2つの固有スキルしかない。


 最大火力の近接攻撃、ダブルナックルと10メートルの斬撃を飛ばすクロススラッシュだ。

 ダブルナックルは両手の紋章を消費して力を発揮するが今紋章が無い。

 クロススラッシュは使った瞬間に武器が粉々に砕ける。


 つまり今、俺は丸腰で、まともに使える固有スキルは無い。


「そうか、空中に浮いた武器を即座に使い分けて戦う近接戦闘のスペシャリスト、それがウエポンか」

「何を笑っている?」


 俺は自分が笑っている事に初めて気づいた。


「分かってもらえるか分からないけど、ウエポンの戦い方が俺の理想に近い様な気がする。俺の固有スキルは戦士・魔導士・斥候・錬金術師の力を一瞬だけ高めてぶつける、そういうスキルだ。でもこれはものまね士らしい戦いと言えるのか?そう思っていた」


「新しい固有スキルに目覚めつつあると、そう言いたいのか?」

「何で分かったんだ?」

「武で何かを掴んだものにしか分からん体感がある。固有スキルをぶつけ合い感じたのだ」

「そうか」


 そう、拳の英雄と闘ってから、俺の中で何かが変わるのを感じていた。

 そして固有スキルを覚えたが、ダブルナックルがものまね士らしいか疑問があった。少しだけずれているような違和感だ。

 クロススラッシュも同じだ。


 俺はウエポンの動きを見た瞬間に何かを掴んだ。


 いや、掴みつつある。


 まだ固有スキルを覚えてはいない。


 でも、必ず使える、その確信があった。


『固有スキルを取得しました』


「ああ、やっぱり、これが俺の力、ものまね士の力か。攻撃しないのか?」

「その瞬間にそれを使うのだろう?」

「そうなるな、出し惜しみは無しだ。固有スキル・スライムウエポン!」


 スライムのようにうにょうにょと動く魔力の塊が一瞬で刀に変わり、また槍に変わった。


 水銀のように宙を漂い一瞬でイメージ通りの武器に変化させる力、それがスライムウエポンだ。


 俺はウエポンの持つ槍に似せた槍を持った。

 ウエポンの突きをものまねして同じ動きで返す。


『槍レベル5→6』


「ミラーで返したか、だがそれには欠点がある。固有スキルのものまねは出来ない、固有スキルをミラーで返す事は出来ん!スティング!」


 ウエポンの鋭い突きが来る前に槍の長さを伸ばしてカウンターを入れる。

 だがウエポンの槍が武器を弾く。


「そうか、その武器はそういうモノか。瞬時に形態を変えるだけではない。スライムウエポンを魔法と錬金術で強化し、更に身体強化と速度強化をも取り込んで昇華させたな!そしてMPを節約する為インパクトの瞬間のみ強化を最大限に強めるアーツ状態まで高めている!すなわち、変幻自在にして瞬時にアーツスキル系統の固有スキルに化ける!型を持たぬ力!」


 加えて言えば武器を離した瞬間に身体強化の効果が切れて威力が落ちる。

 手で持っている事で力を発揮する。

 

「もうバレたか」

「だが、どんなにMPを節約しようとも、そこまでの力、長時間は使えまい」

「そうだな、常時MPを少しずつ消費して力を込めた瞬間は固有スキルのようにMPを持っていかれる。早めに終わらせる!」

「MPの心配は要らん。その前に我が殺してやる!」


 俺とウエポンは無数に打ち合った。

 僅かな時間で数千、数万の火花が散り、武器レベルが上がっていく。

 即座に武器を持ちかえるウエポンとスライムウエポンを自在に変形させて戦う俺は相手の手の内をお互いが読み合い、お互いにまったく傷がつかない。





 打ち合いながら武器と武器で会話する。


『ウエポン、もうアーツは使えないだろ!?』

『貴様のスライムウエポンもそろそろ切れる』

『その前に倒してやる!』

『それは我のセリフだ!』


 ウエポンの動きが悪くなった。

 俺はウエポンのものまねを解除して刀を斧ではじき、ウエポンの体に斧を当てた。

 瞬時に刀に切り替えて素早く斬り、ウエポンが下がろうとしたタイミングで槍に変化させて突いた。


 だがウエポンは斧を持って俺に投げ、その隙に後ろに下がっていく。

 スライムウエポンの効果を解除して俺は逃げるウエポンを見送った。


 ウエポン・アーツ、拳の英雄より強い!

 だが、武器レベルはすべてものまねした。


 俺はその後、爆炎ナイフをすべて投げ尽くし、その後は出来るだけ走らずに、遠くから弓を放ち続けた。


 こうして3日目の大戦は終わった。


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