第57話
日が昇り、俺は右翼に立っていた。
兵士の数が減ってそれでも、本陣・右翼・左翼に分かれたまま戦う事が決まっている。
昨日の会議を思い出す。
「部隊を1つにまとめないのかい?」
グラディウスは驚きながら言った。
「俺はまとめない方がいいと思う。敵は右翼を完全にマークしているだろう。だから、右翼をおとりにする。英雄1人だけなら抑えられるかもしれない、それに」
「待った待った、1個ずつ話そう、右翼というより狙われているのはアキだ。アキは初戦で敵を崩し、夜襲で敵を大量に倒し、その上英雄を討ち取っているんだ。確実に英雄をぶつけてくるだろうね」
「そうなる、でもそうしてくれた方が敵の動きを読みやすくなる。追って来てくれるなら逃げる」
正直セバスと白騎士を当てられたり、英雄2人がかりで来られたらきついけど、逃げてもいいなら逃げ切れる可能性が高い。
俺1人の為に強敵が追って来てくれるならやりやすくなる。
俺は何でも有りの方がやりやすい。
セバスが来たらまずいけど、逃げ切れる可能性が無いわけじゃない。
「セバスだけは逃げ切れないかもねえ。相手は移動スキルを持っている」
「セバスはきついけど、セバスはどこにいてもきついだろ?それにセバスと白騎士は本調子じゃないはずだ。付け入る隙はある」
セバスと白騎士部隊は連戦続きで疲弊している。
それなら逃げ切れる可能性は高い。
「正直言えば本陣の僕たちは助かるよ。でもねえ、下手をすればアキが死ぬよ?」
「きついのは分かる、でも、味方の兵数が6000で敵は17000だ。3倍の兵力差なら、無茶をするしかない。今日だけでいいんだ。今日だけは耐えたい!右翼は後ろに下がったり逃げたりと何でも有りの戦法で乗り切りたい!
部隊をまとめれば闇の英雄がブラックホールを撃ちこんでくる!
絶対に撃って来るんだ!そのせいで密集陣はあまりにも不利だ!部隊の間隔を空ければ各個撃破される。
闇の英雄がいる以上部隊をまとめるのはまずい!
俺としては陣をまとめても爆炎ナイフを持って前に出た瞬間にセバスと武器の英雄、そして闇の英雄にマークされる方がやりにくいんだ!
それとダッシュドラゴン部隊と歩兵は進行速度が違う、一緒の部隊にして運用するより左翼に配置した方が輝くと思う!」
王は目を閉じて数分沈黙した。
そして目を開ける。
「分かった、部隊を分けたまま戦う。だが、無理だと分かれば私が撤退の合図を出す」
こうして、本陣・右翼・左翼に分かれたまま戦う事が決まった。
敵を見ると俺達右翼部隊1250に対して敵左翼は5000か。
俺たち右翼に戦力を割き過ぎじゃないか?
兵力差は4倍だぞ?
そして闇の英雄が敵左翼に配置されて俺を見ている。
……完全にマークされている。
本陣にセバス・白騎士がいない!
もう限界を迎えたか!
武器の英雄は本陣を抜けられない。
となれば闇の英雄を相手にすればいいか。
だけどセバスは急に出てくるケースもあった。
休んでいてくれれば助かるが油断はしない!
もしセバスと白騎士が来ないパターンなら、闇の英雄が一番やりやすい!
奴を相手にするには皆に無理をして貰う必要がある。
兵力差4倍を無理して埋めて貰う。
長期戦になればなるほどこっちは不利になる。
短期決戦に持ち込みたい。
俺があれこれ考えている内に両軍が前進する。
闇の英雄が叫んだ。
「ものまねの英雄を殺すよ!手はず通り進めるんだ!」
そうか、俺を狙ってくれるか、更にやりやすくなった!
闇の英雄率いる部隊は俺の爆炎ナイフを恐れて散開しつつ接近する。
俺達も闇の英雄のブラックホールを警戒して散開したまま前に進む。
【闇の英雄・マター視点】
僕を狙うように矢の雨が降って来る。
「無駄だよ」
周りにいる僕の部下が闇魔法で重力を発生させ、矢を押し返す。
確かに魔法より矢の方が射程が長い、でも、僕の闇魔法部隊は矢を押し返せるんだ。
お互いに接近してブラックホールの射程に入ればこっちのものだ。
ものまね士を倒すと言ったのはフェイクだ。
2発のブラックホールで敵を削る。
いくら敵が散開していても1発で200~300は削れるだろう。
2発も撃つ頃には両軍がぶつかり合い、相手の兵数は半分になっている。
兵を削れば英雄と言えども大したことは出来ない。
数の力で押しつぶす!
その時、異様に速い矢が飛んできた。
上に展開した重力の壁を突き抜けようとしている。
壁を半分突き抜けて、ようやくはじき返した。
「なん、なんだ?」
「え、エルフです!エルフの弓使いです!」
ブラウンの髪を持つ美女、チョコが放った矢だった。
「れ、連続で来ます!」
「無駄だよ!」
連続で放たれた矢が重力の壁を突き抜けようとするが、周りの闇魔導士が重力の壁を2重に展開する。
周りにいた魔導士が4人倒れた。
「僕じゃない!周りの魔導士を狙っているのか!僕のことはいい!自分の身を守るんだ!」
大量の矢に紛れ込むように強力なエルフの矢が狙いすましたように周りの魔導士を仕留めていく。
「敵も僕の重要性は見抜いているようだね。僕を脅威に感じている証拠だよ。でも、僕を集中的に狙ってもそれは兵力差4倍の兵士を無視する事になるんだ。ものまね士は兵士の対応、に……何でものまね士が弓を持っているんだい!」
最初は爆炎ナイフを持っていたものまね士が急に武器を持ち替えた!
なにを考えている?
範囲攻撃を捨てれば数の力で兵士が死ぬハズだ!
「わ、分かりません!」
大楯を持った護衛が叫ぶように言った。
ものまね士は弓を構えて打ち出した。
打つ瞬間だけ身体強化と速度強化を使った!
そして風魔法を使って威力を上げている!
矢は弧を描いて僕を狙う。
だがその瞬間矢に異変が起きた。
風の錬金術を仕込んである!
上に貼ってある重力の壁を突き抜けようとしている。
「く、グラビティ!」
ものまね士の放った矢を闇魔法で打ち消した。
「僕に、魔法を使わせる気か!」
そうか、魔法を使わせてブラックホールを使えなくなるまで追い込む気だ!
ものまね士は更に何度も矢を放った。
僕は構えた。
だが、矢は僕の周りに落下して爆発した。
8本の矢が爆炎を発生させる。
味方が転倒した隙に兵士が放った矢の雨が周りの兵に降り注ぎ、狙いすましたようにエルフの弓使いとものまね士の強力な矢が飛んでくる。
「攻撃が僕に集中している間に数で押し潰すんだ!」
戦士部隊が敵に殺到した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます