第58話

【闇の英雄・マター視点】


 僕を集中的に狙うならそれでもいい。

 僕は魔法でしのぎ、その隙に軍の力で兵士を潰せばいい。

 向こうの弓兵は優秀だ、でもこちらは戦士の質と数に分がある。


「さあ、蹂躙するんだ!」


 敵兵を見ると刀を持った老人が叫んだ。


「双牙・斬!」


 精鋭が一瞬で斬り殺された。


「マッスルナックル!」


 筋肉が発達した男がそう叫ぶと、味方の兵士が吹き飛ばされて後ろにいる兵士事転倒する。


「今の内に止めだぜええ!」


 後ろから兵士が斬りかかって味方を殺していく。


「ソニックタイム!」


 エルフが高速で動き、兵士を切り刻み、後ろにいる兵の道を切り開いている。


 精鋭が狙われて殺されている!

 それにより戦士部隊の勢いが止まった!




 マターには誤算があった。

 それは敵右翼の覚醒である。

 敵右翼は2回の死線を潜り抜け、レベルを上げ生き残って来た。

 総合的な力を高め、わずか数日で歴戦の兵士にまで駆け上がったのだ。

 多くの兵がお互い殺されるこの大戦中、アキのいる右翼だけは死者数が異様に少なく、連携の練度は桁違いに上昇していた。


 マッチョ・変態仙人・プリンが道を切り開くように兵を倒し、脇を固めるように兵士がついてくることで、その戦果はさらに高まっていた。

 更に指揮官の柔軟な対応も見逃せない。


「弓兵、10秒間のみ前衛を攻撃せよ!」

「「10秒間前衛を攻撃します!」」


 援護に回ろうとした戦士部隊に矢の雨が降り注ぐ。

 矢の雨が降り止むと兵が突撃する。


「今だ!お前ら!行くぞおお!」

「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」


 敵の前衛が一気に矢を受けた味方を倒す。

 そして僕に向かって鋭い矢が飛んでくる。


 1つ躱すとものまね士の強力な矢が飛んでくる。

 どっちだ?爆炎か?風か?


 構えた瞬間矢が炎を放った。

 炎は地面に燃え広がり、辺り一面が炎に包まれた。

 持続性の火炎攻撃! 

 僕を孤立させる気か!


 ものまね士が何をやって来るか予想出来ない!


「魔法部隊を射殺せ!」


 敵指揮官の指揮で魔法部隊に矢の雨が降り注ぐ。


「弓部隊を射殺せ!」


 次は弓兵に矢の雨が飛ぶ。


 敵指揮官は僕だけじゃなく臨機応変に標的を変えてくる!

 遠距離攻撃がどんどん潰される!


 更にものまね士は範囲攻撃の爆炎、火の海を作り出す火炎、1人を射殺す風を付与した矢を使い分けて撃って来る!

 ものまね士が何をして来るか予想できない!


 次はナイフか?

 弓か?


 弓だとして爆炎・火炎・風、どれで来る?

 駄目だ、このままでは向こうのペースだ。


「グラビティアーマーを使うよ!指揮は任せる!」


 この固有スキルはブラックホール1発分のMPとほぼ同じだ。

 ブラックホールを1発使えなくなる。

 でも、このまま相手の勢いをそのままにしてはいけない!

 すでに味方の兵士がこの状況に飲まれつつある。 


 相手の勢いを一気に削いで、僕が主導権を握る!


「グラビティアーマー!」


 黒い魔法の鎧が僕を包んだ。

 

 矢が僕に当たる瞬間に弾く。


「無駄だよ!このグラビティアーマーは重力によって攻撃を無効化する!更に!」


 僕は空中に飛びあがった。

 グラビティアーマーは重力の塊、飛ぶ事すら容易だ。

 一直線にものまね士に向かって飛ぶ。


 ものまね士の放つ矢を2発躱した。

 3発目も躱す、そう思った瞬間に矢が爆発し、バランスを崩して立て直した。

 ものまね士!!!

 あの英雄は危険だ!


 手数が多く、常に相手の意表を突くような攻撃を繰り返してくる。


 風の矢をグラビティで打ち消し、爆炎の矢を打ち消す。


 もう矢が無い、ほら、ナイフを構えた!


「矢も投げナイフも通用しないよ!」


 爆炎ナイフをグラビティで打ち消し、打ち消しきれない衝撃はすべてグラビティアーマーで打ち消した。

 ものまね士が使える武器は腰に2つ刺してあるロングナイフ2本だけだ。


「グラビティ!グラビティ!グラビティ!」

「グラビティ!グラビティ!グラビティ!」


 僕とものまね士が撃ったブラックホールにより、黒いボール状の球体がぶつかり合い爆発するが、僕のグラビティの方が強い!


 爆発の衝撃は向こうに飛んでいく。


 ものまね士が打ち負けて衝撃を避ける為にものすごい勢いで後ろに下がった。


「ものまねかい?ははははは、追い詰められたものまね士はそれをやる!グラビティ!グラビティ!グラビティ!グラビティ!グラビティ!グラビティ!」


「グラビティ!グラビティ!グラビティ!グラビティ!グラビティ!グラビティ!」


 ものまね士がどんどん下がっていく。

 戦場から離れて孤立していく。


「押し負けているって分からないのかい!?分かっていてそれしか出来ないか!?ははははははは!」


 魔法を使いすぎた。

 ブラックホールはもう使えないけど、ものまね士に恐怖を与えた。

 逃げるなら逃げてもいい。


 この隙に戦場に戻り、敵を倒して一気に立て直す!

 僕は飛んで戦場に戻ろうとした。



 後ろから魔法の気配を感じた。


「グラビティ!」

「く、グラビティ!」


 ものまね士の放ったグラビティにグラビティを当てて直撃を防いだ。

 ものまね士は僕を挑発している!?

 情報と違う動きをしている!

 行動が読めない!


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