第13話

「チョコ、体術を使える人間を知らないか?」


 手の甲に紋章を直接書き込んで一気に爆発させる攻撃は強力だが手にダメージを受ける弱点がある。

 この弱点は錬金術と体術のスキルを磨くことで改善される。


「それなら、街の冒険者ギルドに行きましょう。ギルドには体術の使い手がいます。ついでに登録も済ませましょう」


「わ、私も行く!」

「お嬢様はまだ訓練が終わっていません。スキルレベルを上げておけば後が楽になりますよ」

「プリン、冒険者の件が落ち着いたら一緒に魔物狩りをしよう」

「絶対だよ」

「絶対だ」


 俺達は家に帰る。




 父さんと母さんに話をしておこう。


「明日チョコと一緒に冒険者登録をして来るよ」

「ウォーアップの街よね?」

「そうだけど?」


「それなら塩を買って来てくれるかしら?それから、う~ん」

「紙に書いておいてよ」


 魔物と闘う事を最初家族は反対していた。

 でも、何度も魔物の肉を持って来たり、アルケミストから教えてもらった錬金術でレンガの大きな家を建てた事で反対される事は無くなった。


 コンコン!


「こんにちわ!」

「はーい、どうぞ」


 チョコとプリンが入って来る。

 そしてチョコが俺の腕を取って小声で言った。


「私に合わせてください」

「よく分からないけど分かった」


 チョコに連れられて外に出ると身なりの良い男が数十人の部下を従えて立っていた。

 そして皆ダッシュドラゴンに騎乗していた。

 ダッシュドラゴンはティラノサウルスを馬サイズに小さくしたような魔物だ。


 身なりのいい男は俺やプリンより2~3才位年上に見えた。


「ライダー・ナイツ公爵、私達は訓練に出かけます」


 公爵だと!

 貴族は上の位から、


 公爵

 侯爵

 伯爵

 子爵

 男爵


 と5つの位がある。

 公爵は王の次に偉い。


 ライダーがダッシュドラゴンから降りてプリンの近くに寄るとプリンは引きつったような顔をして半歩後ろに下がった。


「プリン嬢、折角会いに来たというのにすぐに出かけてしまうとは、酷いではありませんか。そうだ!私がお供しましょう。私の駆るダッシュドラゴンならば用もすぐに済みましょう」


 公爵なのにプリンに敬語を使っている。

 明らかにプリンを狙っている。


「お嬢様の訓練にライダー卿が参加してしまうと訓練になりません。お引き取りください」

「邪魔はしない!」


 そう言いながらライダーがプリンに近づく。

 その瞬間にプリンは俺の服を掴む。

 それを見たライダーの表情が怒りに変わる。


「貴様!身なりからして平民だな!?馴れ馴れしいぞ!」


 その瞬間にプリンはしまったという顔をして俺から離れた。


「これは失礼しました。すぐに退散いたします」


 俺は足を速めてその場を立ち去ろうとした。


「待て!」


 俺は呼び止められた。


「根性を叩き直してやろう。剣の稽古をしてやる!剣をよこせ!」


 ライダーは剣を受け取って叩きつけるように俺に投げつけた。

 投げ方が荒い!

 そしてライダーの表情は今にも人を殺しそうに見える。


 剣の稽古と言いつつ俺を斬り殺すつもりじゃないか?

 俺が負ければ斬り殺される。

 打ち負かす事が出来たとしてもその後取り巻きが俺を殺そうとするだろう。

 貴族がその気になれば平民をどうにでも出来る。

 戦った時点で勝っても負けてもアウトだ。


 貴族が平民を殺しても罪には問われない。


 俺は頭をフル回転させた。


「あの、私はものまね士です」

「はあ!聞いたか!プリン嬢と一緒に訓練すると聞き期待してみればものまね士か!ははははははははは!」


 取り巻きの兵も一緒に笑い出した。

 ライダーに合わせて笑っている感じだ。


「レベルアップに必要な経験値が2倍で、しかも固有スキルを覚えられないものまね士!はははははは!笑えるではないか!ものまねスキル自体が特殊ではある。ある意味出来損ないの固有スキルとも呼べなくもない!はははははははは!」


 固有スキルとは剣士の場合スラッシュやラッシュ、魔導士の場合はファイアストームなど、その者の特徴となるスキルだ。

 固有スキル習得の為にはスキル鍛錬の積み重ねが必要だ。

 ライダーはものまね士は固有スキルを覚えられないと言ったが、アルケミストは覚えられるかもしれないと言っていた。


 少なくとも俺は今、固有スキルを覚えていない。

 

「プリン嬢は下々の無能にも手を差し伸べる優しいお方、そうか、そう言う事だったか。はははははははははははははは!」


 ライダーは一人で納得していた。


「それでは失礼します」


 俺は剣を返して1人立ち去った。

 ここにい続けるのはまずい!

 今このまま家に入るのもまずい、俺だけじゃなく父さんと母さんも巻き添えになりかねない。

 一人で村を出て街に行こう。


 俺はライダーたちが見えなくなるまで速足で距離を取り、俺からライターを感知出来なくなった瞬間走って村を出た。


 ライダー・ナイツか。

 人によって態度が豹変するあの感じ、会社の上司もそうだった。


 プライドが高くて他人を蹴落とす人間か、近づかないようにしよう。

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