第9話

 後ろには錬金術士のローブを着た男が立っている。


「ど、どうも、初めまして」

「早速本題に入ろう。この訓練の腕輪をつけるのだ」

「え?」


「ちょっと待ってくださいね。彼は人と話すのが苦手なんです。この訓練の腕輪は訓練効果アップのレベルを引き上げます。でも、デメリットもあるんです」

「良い実験になりそうだ」


「実験!」


 俺は後ろに下がった。


「アキ君が怯えているのでちょっと黙っていてくださいね。このリングは訓練による能力値上昇の効果を引き上げますが、魔物を倒しても経験値が上がらなくなります。経験値は全部訓練効果に流れちゃうんです」

「早くリングをつけて魔物狩りに行こうではないか」


「アキ君、どうします?レベルを上げてしまえば訓練による能力アップがしにくくなります。リングをつけますか?」


 そう言う事か。

 レベルを上げれば能力値が上がる。

 でも、レベルを上げて能力値が上がってしまえば不都合もある。

 HP訓練の場合HPを削るのが難しくなり、訓練による能力値アップの難易度が上がる。


 でもこのリングをつける事でレベルを上げずに能力値を上げることが出来る。

 レベルアップの必要経験値が2倍であるものまね士にとって訓練による能力上昇は貴重だ。


「付けるよ」

「素晴らしい!さっそく装着するのだ!」

「でも、嫌になったらやめたいです!」

「私が作ったのだ!問題無いのだ!」


 俺の両腕にリングが装着されると、俺の腕に合わせてリングの大きさが変わった。



「ステータスを見せるのだ!」


 ステータスは開示の意志を持つと周りに見せる事が出来る。

 ステータスを見せると素早くメモを取っていく。

 この人怖い。

 あと多分これ呪いの腕輪だ。


「これってプリンもつけるの?」

「アキ君だけですよ」

「え?」

「アキ君だけです」


「さあ、すぐに行こうではないか!」

「今お嬢様がお着替え中です」

「外で待たせてもらおう」




 屋敷の前を見ると4人の男兵士が待っていた。

 屋敷の護衛だ。

 

「お待たせ!」


 プリンはフル装備で姿を見せた。


「あれ、俺は!俺の装備は無いのか?」


 チョコが錬金術師の方を向いて耳打ちする。


「あの人がダメージを受けるのも見たいんだそうです」


 錬金術師の男は言った。


「大丈夫、大丈夫なのだ」


 怖いんですけど?


 俺はチョコから短剣と手裏剣ポーチのついたベルトを渡された。

 武器はあるけど防具は無しか。


 村を出て草原にたどり着くとうさぎが1体出てきた。


「跳ねうさぎですよ!初心者には丁度いい相手です」

「待つのだ!アキ、常にステータスを開示したまま一人で戦うのだ!」


 俺はステータスを開示した。


 その瞬間に護衛の男が驚く。

「スキルレベルが高い!」

「高いとは思っていたがこれほどとは!」

「これでレベル1って、訓練が偏り過ぎだろ!」


 跳ねうさぎにナイフを突き立てる。


 ギュウウウウ!!


 跳ねうさぎが倒れる。


「倒した!倒せる!倒せるぞ!」

「いい感じですよ!」

「やはり1体では実験にならんな」


「私が引っ張ってきますね」


 チョコが走り去る。

 しばらくするとチョコは笑顔で跳ねうさぎ8体を引っ張ってきた。


 俺は手裏剣を投てきする。

 4体にヒットし、動きが一瞬止まるが、残った4体が俺に飛び掛かる。

 そこからは俺のペースが崩れた。


 跳ねうさぎに蹴飛ばされ噛まれながらもナイフで攻撃し倒していく。



「はあ、はあ、倒した」

「いいですよ!素早い対応でした」

「アキ、良かったよ」

「ナイスファイトだ!」

「初陣でこれなら合格だぜ」


 素早い対応だったのか。

 長く感じたけど、見ている側からすればあっという間だったようだ。


「まったく、血が出ているではないか。ポーションは無いのか?」


 錬金術師の男が渋い顔をして言った。


「無い、です」

「飲むのだ」

 

 俺の口にポーションを流し込む。

 

「私はアキを死なせるために魔物と戦わせているわけではない。アキが傷ついたらこのポーションで癒すのだ」


 錬金術師の男が皆にポーションを配っていく。

 意外と親切だな。


「連戦しますか?」

「頼む!」


 俺は何度も跳ねうさぎを狩った。

 これなら、何とかなりそうだ。




「次はお嬢様ですよ」

「う、うん」


 プリンの顔がこわばっている。


 チョコが跳ねうさぎ3体を連れてくるとプリンの後ろに立った。


「さあ、倒しましょう」


 プリンは後ろに下がりながら手裏剣を投げて3体を倒す。


「た、倒した!アキ、見た?倒したわ!」

「見ているよ」

「次はもっと連れて来ますね」


 13体の跳ねうさぎがプリンに迫る。


 プリンは後ろに下がりながら跳ねうさぎを倒していくが、手裏剣が無くなる。


「お嬢様!そっちにも跳ねうさぎがいます!」

「ええ!!」


 プリンは感知を使いながら戦う余裕がまだない。

 プリンは跳ねうさぎに挟み撃ちにされた。

 俺は跳ねうさぎに手裏剣を投げて倒し、近づいてナイフで攻撃していく。


 プリンは混乱してペースを崩し、泣いてしまった。




 跳ねうさぎを全部倒すとプリンはチョコにおんぶされながら泣き続けていた。


「今日は運が悪かったですね。でも、落ち着いていつも通りにやれば倒せる相手でした」

「……うん」


 プリンはまだ子供だ。


「実践を経験して欲しいと思ったのですが、私の失敗でした」


 チョコを見て思った。

 急いでいる。

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