第7話

「目は覚めましたか?」

「一回覚めてまた眠くなってきたわ」


 チョコが素早くプリンの服に氷を入れる。

 さっきから何度もこれを繰り返している。


「ひい!や、やめなさいよ!」

「目は覚めましたか?」


「覚めたわよ!」

「次は投てきです。今考えてみると弓よりも投てきを練習しておくべきでした」


 忍者は投てきも出来る。


「10才にならないとどのジョブを授かるか分からないから予想できないだろ」


「う~ん、確かにお嬢様のジョブは予想できませんでした。でもアキ君のジョブは何となく予想出来ましたよ」

「え?」

「だって要領がよくて飽きっぽいじゃないですか。ものまね士っぽいです」


 ジョブは遺伝もあるけど性格の要因が大きいらしい。

 何でもまねをしてやりたがるけどすぐに飽きて他の事を始める俺はものまね士は合っているものかもしれない。


「これからアキ君のスキルレベルは大きく伸びますよ。レベル5までは」

「うん、5までは上げたい」

「5まででいいんですか?」

「5まで上げられるか分からないし、上げてみないと分からないな」


「その柔軟な考えもものまね士っぽいですね。さあ、始めますよ」


 屋敷にある的に向かってチョコが手裏剣を投げる。


 サク!サク!サク!


 3つの手裏剣が的の中央に突き刺さる。


「「おおおおおお!」」


「はい、アキ君、やってみましょう」


 俺が投げた手裏剣は的に届かず落下する。

 思ったより飛ばないか。


「次は私ね。私の投てきレベルは1よ!」


 勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「お嬢様、早く投げてください」

「分かってるわよ!」


 プリンが投げた手裏剣は的に当たらず後ろの木板に突き刺さる。


「いいですね。でももっと腕をこうです。そうすればもっとよくなりますよ」


 チョコがプリンの手を取って指導する。


「アキ君は私を見ながらものまねをしてください」


 く、手取り足取りプレイは無いのか。

 俺とプリンは競い合うように手裏剣を投げた。




「アキ君、魔法攻撃も撃ちましょう。ファイア!」


 チョコの放った炎が岩を焼く。


「ファイア!」


 俺のファイアは岩に当たりはしたがすぐに消えた。


「何度も行きますよ!ファイア!アイス!ウインド!アース!」


 4属性の魔法が岩を攻撃する。

 俺はものまねの力で魔法を真似る。


「ファイア!アイス!ウインド!アース!」


 やはり威力は低いか。


「いいですね。私の魔法レベルは高くないのでものまねは意味がありません……違う方法を考えておきます」


 ものまねは俺のスキルレベルよりものまねする相手が高レベルじゃないとレベルを上げられないのだ。


 チョコは色々出来るけど、ジョブが不明だ。

 魔法レベルは俺と同じくらいに見える。

 でも魔力の高さで威力を出している。


「チョコのジョブが分からない。何をしたいのか分からないようなジョブだ」

「ふふふふふ、ものまね士も一緒ですよ」

「まさか!ものまね士!」

「乙女の秘密ですがものまね士ではありません」


「アキ、一緒に食事にしましょう」

「アキ君、お嬢様からの折角のラブコールです。答えてあげましょう」

「ら、ラブコールじゃないわよ!」


「では食事にしますね」


 プリンがチョコのお尻をぽかぽかと叩く。


 食事は豪華で、食べすぎたせいか俺はそのまま眠ってしまった。

 気が付くとプリンと同じベッドで俺は寝ていた。

 ベッドの横を見るとにやにやしながらチョコが見ている。


「プリンが怒るんじゃない?」

「プレゼントです。寝ているふりをして堪能していますよ。ね、お嬢様」


 プリンがビクンと反応して起き上がる。


「午後も楽しい訓練ですよ。次はかくれんぼです」


 外に出るとチョコがスキルを使った。

 チョコの魔力が微量に拡散する。


「これが感知です。レベルを上げると奇襲を防げるようになります。感知と隠密はセットで覚えましょう。常にどちらかを使います」

「その為のかくれんぼか」

「ですです。ですが見つかっても逃げ切れば大丈夫です」


「鬼ごっことかくれんぼなの?」


 俺は、遊びの話をしているのか、実際に受けるかもしれない奇襲の話をしているのか分からなくなった。

 どちらにしても覚えて損は無い。


「アキ君、隠密も見せておきますね」


 チョコの魔力が薄く、いや、感知の逆で魔力を拡散させないようにして気配を消している。

 それにチョコが透けて見える。

 これなら気づかれずに動けるだろう。


「最初は私が隠れて逃げます。お嬢様は追ってください。アキ君は私の後ろを走ってマネしてください」

「俺がいるとすぐ見つかるよな?」

「大丈夫です。見つかってもお嬢様には捕まりませんから」


「やってやるわ!絶対に捕まえるんだから!」


 プリンはすぐ挑発に乗る。

 チョコはプリンを誘惑するように誘って逃げ出す。

 く、チョコが速い!


 そうか、速度強化・隠密・感知が出来ないとこのかくれんぼ&鬼ごっこはきつい!

 投てきも有りで短剣で斬りつけてもいい。


 この訓練は斥候の基本が詰まっている!


 俺はその日、遠くからチョコを追いかけ続けて終わった。

 まるでチョコの尻を追い回しているようにも見える。


 プリンは木の手裏剣を投げるがチョコには一切当たらず終わった。

 当たらなくても俺は自分のスキルが成長していくのを感じていた。


 ものまねのおかげでスキルの成長率が高まっている!

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