未来予想図
数日前、アルバイトに向かう前に少し時間があったため駅のパン屋さんで時間をつぶしていた時のこと。
白髪の女性が店内に入ってきた。おそらく待ち合わせをしていたのだろう、彼女は店内をくるりと見渡し、誰かにむかって大きく手を振り始めた。
しかし、お相手が彼女のアピールに気づかず、彼女は大きく振っていた手を一度おろす。ふう、と一息つくと、下ろした手をぴん、と挙げ、更に大きく手を振り始めた。彼女は相手が気づいてくれないことに全く腹を立てることなく、むしろ「いつ気づいてくれるかな」といった様子で楽し気にブンブンと手を振り続けている。
すると、彼女の表情がぱっと明るくなった。
彼女は満面の笑顔を浮かべ、私の視界から消えていった。
また別の日。
少し年配のご夫婦がふたりでスマートフォンを覗き込んでいるところに出会った。慣れない板にむかって、うーんうーんと唸っている。
しばらく画面と格闘した後、男性がスマートフォンを高く掲げ、女性がピースサインを作った。
他のひとに頼ることなくふたりの写真を撮影しようと戦っていたのだ。
あのご夫婦にとって、あのとき撮影していた写真はきっと大切なものになるにちがいない。しょっちゅう見返すことはないかもしれないが、ふと写真を見返したときに、ふたりで苦労して撮ったなあ、ちょっと恥ずかしかったわね、などと言い合えるような、日々の思い出の一部として、何気ない宝物になるのだ。
幼い心を忘れない無邪気な婦人に、ふたりで若者の撮り方をまねる楽しい夫婦に、わたしもなりたい。
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