こころのまにまに

紡木きよ

幸せな凶

清水寺でおみくじを引いた。

一緒にお参りした母は怖いからと言って引かなかった。

大きな六角形の箱をこれでもかと振って、ちょっとやそっとでは中身が混ざらないだろうと思って、隣のひとが入れ替わってもガラガラと振り続けて、取り出した一本の棒。

七十五番。

「七十五、七十五番です。」

受付のおじさんに伝えると、「七五」と書かれた引き出しから薄い紙を私に手渡してくれた。

なんだか、テスト返しみたい。

こころの中が期待と不安でせめぎ合う。

白くてつるつるの紙を、ひろげる。


凶。


凶って存在するんだ、というのが真っ先に浮かんだ感想である。

凶を引くなんて逆にラッキー、とかいう慰め文句もあるけれど、凶は凶で、凶以外の何ものでもない。ラッキーなどではない。凶なのだから。

気になる中身はというと、否定語のパラダイス。


願い事、すべて叶わず。新しいこと始めるべからず。


こんな紙切れ1枚にここまで否定されると、なんだか悲しい。

しかし人間とは不思議なもので、悲しさを通り越したら怒りが湧いてくる。


二度と清水寺など行ってやるものか。

そう思い、最初で最後になるであろう清水寺を思う存分満喫した。


おみくじもピノ方式にすればいいのに、と思う。ピノは丸くても星型でもおいしい。ただ、星型だと嬉しい。おいしいの幸せに、ラッキーの幸せが加わる。だから、おみくじも全部大吉にして、何枚かだけ、紙の端っこに小さく星をかく。星つきの大吉をひいた人は、ほかの人よりちょっとだけ嬉しい。

この案、だめかしら。


清水という由緒正しい場所で凶を引いた私は、おみくじというものに反骨精神を抱いている。


そういうわけで、ものかき、はじめました。

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