第3話 同僚

 俺は社内に仲のいい人はいない。前はいたけど、そういう人たちは、みなやめてしまったからだ。本社は大阪だけど、支店は二か所しかなく、福岡と東京にある。転勤はないが、異動願を出して大阪から東京に越して来てる人が二人いた。悪いけど大阪の人とは合わない。関西の人でも色んな人がいると思うのだが、一人は夜遅くまで飲み歩いて二日酔いで会社に来るようなタイプの人で、もう一人は大阪弁でまくし立てるタイプの人で苦手だった。


 唯一、仲がいいのは三十代の人で、その人とは「関西の人とは合わない」と、意見が一致していた。俺は昼は外に食べに行かずに、弁当を買って来て、デスクで食べていた。外出の時は、おにぎりとかを家から持って行って、公園とかで食べていた。新規開拓もするけど、ほとんどは既存のお客さんの所へ行くことが多かったから、どこでお弁当を食べられるかは事前に知っていた。45歳くらいになってからは、老後に備えて無駄遣いをやめた。同僚たちは外に食べに行っていたけど、そういう人たちに対しては、よくお金が続くなと思っていた。


 事務所に残るのが、女性二人と俺だけということもよくあった。女性二人はよく俺に話しかけて来た。多分だけど、二人はちょっと性格が合わなくて、俺が緩衝材のような役割を果たしていた気がする。話題は仕事やお客さんの話が大半だった。その方が無難だったからだろう。時々は、プライベートな話もした。小さな会社だから、個人情報は筒抜けだ。俺の年収、家の住所、どんな保険に入ってるかだけでなく、冠婚葬祭で休んだりすると、誰が亡くなったかも知ってるし、両親は介護が必要だとか、甥が結婚したなんてことも知っている。


「また、年末調整ですね」

 パートの人が言い出した。

「一年ほんと早いわー」

 おばさんが同調する。俺の年末調整書類はすぐ書き終わる。扶養親族がいないからだ。保険は共済とがん保険に入っているだけ。俺が死んだら、死亡保障が400万下りるから、弟にはそれで事後処理をやってくれと頼んでいる。

「前田さんは今年も配偶者なしですか?」

 パートの人が言う。俺はもう慣れているから腹も立たない。

「あ、そう、そう。今年結婚するつもりだったんだけどね。間に合わなかった」

「あと、2カ月あるじゃないですか」

「今すぐ結婚したいって人がいればいいんだけど。江口さん、旦那と離婚して俺と再婚してくれる?」

「女性は半年間入籍できないから無理よ」

 社員のおばさんが横から言う。二人とも独身の俺をいじって笑っている。

「それに、旦那さん公務員だし」

「そっか~旦那と離婚するわけないよね」

「あ、そうだ。私の友達でいますよ。再婚したがってる子。バツ二で、子どもが三人いるんですけど。キャバやってたんで、顔はかわいいですよ」

「いやぁ・・・いきなり三人の子持ちはちょっと」

 俺のスペックだと子持ちの人しか無理なんだろうか。

「連れ子は大変よ~。反抗するし」

「どっかにいい人いないかしら・・・前田さん、結構真面目でいいと思うんだけど」

 二人はそう言いながら誰か紹介してくれるわけでもない。

 もう、無理なんだなと悲しくなって来る。

 

 俺はまた小説の執筆にのめり込んだ。


 ***


 


 

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