第2話 大桟橋

2521年8月1日、朝8時、学園都市西岸大桟橋。



 小型艦中心の現代において、全くスケール外れの超巨大艦、実験艦改め、記念艦「武蔵」。そして、地球連邦政府本部への表敬訪問航海に随行する3艦の教習用護衛艦が停泊している。


 試験艦武蔵は科技大のドックで約半世紀ほど眠っていた核融合炉艦の実験艦を、学園都市開設100周年イベントの一環として、周年記念艦隊航海用に科技大が旧世紀、第二次世界大戦当時の大和型戦艦を模して、旧戦艦型に改装し、その巨大な船体を活かして、ありとあらゆる実験中の装置を全て搭載したお祭り用の記念艦である。


さらに帆華の乗船によって、富士宮重工が富士宮コンツェルンの威信をかけて防御装備を追加搭載した、コストも実用性も完全に無視した唯一無二の実験艦となった。


見た目は大和型戦艦なので勇壮だが、内容はとんでもキテレツの動く実験室というか、浮かぶおもちゃ箱である。大和型戦艦であるなら艦名は「大和」であるべきなのだが、科技大映像研究会から、ヤマトと名付けると著作権関係でゴニョゴニョと、という情報があり、2番艦「武蔵」の名前を頂戴した、という大人の事情も考慮された由緒正しい艦である。もちろん宇宙戦艦でもない。


 周年記念祭用に飾り付けされている大桟橋に濃紺の防大スクールバスが到着。


純白の海軍儀礼服姿の防大生達が降りてくる。


続いて連邦医大の赤十字マークの入った連絡車。


白衣姿の杉下が降りてきた。首には聴診器、持っているのはドクターバッグ。確かに医師の正装ではあるかもしれないが、出航式典の服装ではないような、、研究以外に興味の無い杉下らしい恰好だ。


ライトグレーの科技大スクールバスから降りてきたのは試験クルー達。科技大と背中に刺繍が入ったライトグレーのつなぎ姿。杉下に続いて、エンジニアの誇りなのだろうが、式典より職務優先という感じで、実験機器が入っているのであろう大きなアタッシュケースを大事そうに抱えている。


最後に到着は、ピアノのように磨き上げられたパールブラックのロングリムジン。


もちろん、降りてきたのは富士宮帆華防大生徒会長。


 帆華を先頭に乗組員が大桟橋中央の式典会場に整列し、周年祭記念艦隊出航セレモニーが始まった。学園都市長、防大学長、防衛医大学長、科技大学長からの祝辞の後、周年祭記念艦隊旗艦記念艦武蔵艦長の帆華から、「それでは、いってまいります。」という、清々しい位見事に一言だけの挨拶の後、21発の祝砲が撃たれ、防大音楽隊の奏でるマーチの中、観客達の大きな声援を受けながら、乗組員達は各艦へ乗艦していった。


生徒会の帆華、美海、凪沙、そして会計の山本七海の4人は再度、防大学長と教授達に挨拶をしてから武蔵のタラップを上がっていった。



「本当に大きい艦ふねデスね・・」ミミが呟いた。


「噂では連邦政府の国家予算数年分を超えてる代物らしいですよコレ。」七海も呟いた。


「流石会計、金勘定には敏感だな。ってか防大本館よりデカイだろコレ。浮かぶ要塞だよな。」凪沙が両手を開いて大きさをアピールしている。


「重工の高橋技術主任に、フランソワーズ達の部屋もお願いしたのですが、戦艦にはどうしても載せられないと言われてしまって、とても寂しいのです。。」と帆華が独りゴチると、すかさずミミが「フランソワーズ達って誰の事なのデスか?」と聞き返した。


「フランソワーズは柴犬の男の子。ポチがセントバーナードの女の子ですの。わたしくのお部屋の隣のお部屋が御座いますのよ。」


『お犬様でしたか・・ しかし、柴犬のオスが「フランソワーズ」で、セントバーナードのメスが「ポチ」? 凄いネーミングセンスだな、それ』美海、凪沙、七海は目を閉じて小さなため息をついた・・。

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