ある者は、「罰ゲーム」を恐れる。ある者は、負けまいと本気になる。
「これが、予想問題」
どれもパソコンで打ち込んでプリントしてくれたようだ。本物のテストさながらのクオリティに、僕らは舌を巻いた。
「さすがあかねさん」
「すごっ! 俺こんなの作れねえ!」
「あかしーはいつも質の高いプリントを用意してくれる。控えめにいってサイコー」
点数を取れねーのはあたしのせいだが、とマイマイ様がボソリ。
「作るのは手間を取るけど、作っただけの費用対効果があるからやってるだけだよ」
褒められてうれしかったのだろう、ちょっと照れていた。
作り手側になって見える景色がある、ということもあるだろう。これが学年トップ10とギリ入れない男の格の違いというやつか。
よし、せっかくだからいいところを盗もう。そのための勉強会じゃないか。なにも、勉強法を勉強しちゃいけない、なんてことはないのだ。
「一教科あたりのボリュームはすくないから、全部通しても二時間弱で終わると思う」
「持つかな、俺の集中力」
「諦めたらあたしの圧勝になるだけじゃん」
「……折れるわけにはいかねえな」
勉強嫌いのふたりが、緊張感を持ってやれる。それを見越しての、予想問題だったのか。よく練られている。
「たっ……いや、前野君」
宮崎チームがバチバチしている横で、あかねさんが声をかけてきた。
「どうしました?」
「私たちも勝負だから。前野君がいつも上位に食い込んでるの、知ってるから」
宮崎から筒抜けだったかな。それでも、さりげなく「わかってるよ」といわれて嫌な気はしない。
「一教科くらい勝ちたいな……って、あかねさん、答え知ってるじゃん」
疑問をあかねさんは解決してくれた。
どうも、テストが終わった瞬間から次のものを作っているそうで(まるで辞書だ)、結構作ってても忘れているらしい。
とはいえ、初見と製作者では不公平。
ゆえに、合格ラインはあかねさんの取った得点の9割。それでもタイトだ。
「勝てるかな?」
「勝つんです」
「覚悟はバッチリだね。だけど、もし君が全敗だったらさ」
耳元に手を添えられ。
「すごい罰ゲーム、しちゃうから」
ゾワゾワとした感覚。マイマイ様と宮崎のすぐそばでやられる背徳感。気づいていないが、かなりリスキーな、大胆な行動だった。
「あかねさん」
やめてくださいよ、とほのめかすような口調で。
「一緒に頑張ろうね」
すごい罰ゲーム。気になるが、そのためにわざと負けたくはない。
「みんな聞いてー! ……聞いてるね。試験時間はスマホのタイマーが鳴るまで。じゃあ、スタート」
それぞれ冊子をめくり、解き始める。
パラパラと全問を見てみたが、だいたい基本問題で構成されていた。基礎や基本だからといって、易しいわけではなさそうだが。
よく混同する用語だとか典型問題とかを入れているあたり、“わかっている”のだと思う。
問題集のコピペではなさそうだし、ほんと気合いが違う。24時間戦っているはずのあかねさん、いったいどこから作成時間を捻出してるんだろ……。
「うーん」
開始10分。早々に、マイマイ様チームが苦しみ出す。
「やばい、あたし覚えたつもりになってた」
「まだ俺は余裕だぜ」
「よくいうわ。さっきまで頭ぽりぽり掻いてたくせに」
「ふっ、いってろ」
徐々にギアを上げていくマイマイ様チーム。
対する僕は、まだ余裕。高得点勝負になりそうだ。
30分経過、1時間経過。
タイムキーパーたるあかねさんが時間を知らせるたびに、三人の集中力は上がっていった。
それからマイマイ様チームが諦めの境地に達しつつも、僕は何とか完走間近となり、時間内には終わらせることができた。
「みんな、お疲れ様」
宮崎は突っ伏していた。マイマイ様は上向いて放心状態。僕も椅子の背に寄りかかった。
「模範解答、配るね」
手荷物からファイルを抜き、配布。答え、配点、該当分野などが盛り込まれた、復習しやすいプリントである。
さあ、自己採点タイムだ。
「どれどれ」
基本問題はミスなく……と思ったが、意外と細かいミスが散見され。採点がしてみると、想定していた点数より低かった。
「むむむ」
「前野君、どうだった?」
「こんな感じ」
いや。まだ可能性は残っている。あかねさんの得点の90%さえ取れればいいのだ。
「計算してみるね」
スマホの電卓アプリで計算している。
「結果だけど」
「はい」
「私の全勝♡」
「えっ! 僕、一個も勝てたないんですか!?」
「いや、引き分けもあったよ。負けたと言っても、どれも私の得点の88%前後。相当惜しかったね」
あかねさんの点数を見たが、製作者の彼女とて、思っていた以上に間違えていた。
とはいえ、勝負になっていたのが悔しいところだ。あと一問、取れていれば。勝算はあったはずだ。
一問に必死になる宮崎の気持ちが、わかった。
「うっしゃあ! 科目別では俺の勝ち」
「は? 総合点ならあたしの勝ちなんだが?」
「いやいや、数学とか俺の半分くらいで勝ちとか」
「そういう宮崎は英語がカス」
「なんだと? 日本語話せればオールオッケーだろうが!」
マイマイ様と宮崎。こうなると、喧嘩するほど仲がいい、ということだろうか。
「ふたりとも相手の苦手科目を教えあってみてね」
「俺、あかねさんからの指導を受けたいです」
「私も教えるけど、みんなで勉強! がメインだからね」
「はい! 了解っす!」
「宮崎、あんた笑うな」
当たりが強いよ。
「なあ、そろそろ腹減ってこないか?」
「拓也のいう通りだな。頭を使うとメシ食いたくなる」
「んじゃ、あたしがおばさん呼んでくる。みんな一律におすすめメニューでいい?」
反対することもないので、マイマイ様のお任せにした。
メシが来るまでは、雑談で時間を潰した。
宮崎がこのメンバーの中で馴染みつつあることに驚く。友達の友達は友達になりやすいから、自然っちゃ自然だ。
「はいお待たせ! 特製のオムライス定食よ〜」
わー! と声が上がる。
トロトロとした、半熟のオムライス。出来立てゆえ、湯気が立っている。
「ごゆっくりどうぞ」
全員分が置かれ、おばさんはまた店の奥に消えた。
宮崎はリアクションがでかく。マイマイ様はご満悦といった様子であかねさんは童心にかえったように目を輝かせていた。
「あたし、ここ以外のオムライスは食べれなくなったくらいだから」
「期待できるな」
「そんないい店なら、私にも教えてくれたらよかったのに」
「今度から気をつける」
ランチタイムとなってきて、お客さんもそこそこ入ってきた。店も賑わいだしている。
「それじゃあさっそく」
――いただきます。
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