英雄候補と異世界スローライフ ──俺はただのガイド役です──
@belet
こんな神様は嫌だと叫びたい今日この頃
その日はとても寒い日だった。
前日の大雪が降り積もり、気温は低下。
アイスバーンが各地で出来ているらしく、朝から事故が多発しているとニュースで報道されていた。
俺、柊ユウキはいわゆる引きこもりだ。
学校にも行かず、部屋に引きこもりゲーム三昧のアニメ鑑賞三昧の日々。
だからそんな事故なんか自分は関係ないと思っていた。
けれどその日、つまり今日の午前中やむを得ない事情があり、俺は外出しなければならなかった。
「母さん、ちょっとゲーオ行ってくる」
「またゲームでも予約したの? まったく……ゲームしてる暇があるから学校にでも……。 まあ良いわ、出掛けるならゴミ出しといてね。 親に迷惑かけてるんだから、そのくらいやりなさい」
「……わかったよ。 いってきまーす」
まあ、そんな理由で。
今思うとここが人生の分かれ道だったのだと思う。
母さんのお小言を聞いて引きこもってなければ、と悔やまれる。
「ふぃー、さみー。 さってと、さっさと行って暖かい部屋に引きこもりますかね」
俺が住んでいる場所はアパートの二階だ。
しかもかなりボロ屋で階段は外付けしかない。
下に降りるにはその階段を使わなければならないのだ。
「うっわ、やっぱり凍ってる。 ゆっくり降りないとな……」
案の定階段は凍っていた。
とはいえこれは毎年の事。
気をつけて降りれば問題ない。
だが俺は忘れていたのだ。
今年は例年より冷えていると。
つまるところ、階段も……
「おっとと、あぶね……うわっ!」
ここから先は階段から滑り落ちた事しか覚えていない。
しかし頭が真下になった落ち方だったのは覚えている。
だから今、俺はこんな事になっているのだろう。
「う……一体何が……。 確か俺は階段から落ちて……」
「おっ、やっと起きたじゃん。 やっほー柊ユウキくん、おはようさん。 そして転生の間へようこそ。 ここではうちこと女神アルテーが迷える若人を来世にご案内してんよー。 さあ、座って座って!」
見覚えのないファンタジックな風景に対して、違和感しかない覚えない金髪ギャルが居る空間で、俺は目を覚ましてしまったのだろう。
「つーわけでー、柊っちは死んだんだよね。 とりまそんな感じでよろ!」
「そんな軽い口調で死亡報告しないで欲しいんだが」
死んだという事実。
自称神の金髪ギャルにその説明を受けて、最初に発したのはツッコミだった。
「んん?」
「いやまあ確かに死んだ事実は認めるよ。 なんとなく覚えてるし。 それは別に良い。
良いんだけどさ。 ……問題は、なんで神様がギャルしてんだって事だよ」
神というのはもっと厳かな感じだと思ってた。
大抵の人は、穏やかな女性か厳格な男性をイメージするだろう。
こんな、ショートパンツにヘソだしルックな服装な神とか予想外が過ぎる。
「そんなの神だってギャルやりたいしねー。 まっ、そゆこと」
「……はぁ、頭痛くなってきたわ」
「マジ? やばたにえんじゃん。 んじゃパパッと治してあげっし。 ほいっと」
ギャル女神が指を鳴らすと、頭の痛みがとれていった。
簡単にこういう真似されると信じざるを得なくなるからやめて欲しい。
まあその前に周囲の景色からして、ここはあの世だと信じるしかないのだけど。
うん、これはあれだ。
地球じゃあり得ない光景だよね。
俺とアルテーが対となって座る椅子の真下には、とても大きな魔法陣が描かれている。
その魔法陣が描かれている床には何故か水が流れているのだが、これまた不思議でまったく濡れたりしない。
更に言えば、壁もおかしい。
なんだあれ。
空間が歪んだようになっている。
「なまじ神様っぽい事できるのがほんといや……」
「ウケるー!」
なに笑ってやがんだ、このギャル。
ディスられてんのに爆笑してやがる。
そろそろつっこむのも疲れてきた。
「……ところで、俺は数時間前に階段から転げ落ちて死んだわけなんだけど」
「ああー、あれねー! くっそ笑ったわぁ! あんな死に方する人、ガチでいんだね! しかも自宅! 自宅警備員の癖に自宅で死ぬとか、ある意味運命の悪戯的な?」
やめろ、人をニートみたいに言うな。
……ニートじゃないぞ!
ただの引きのもりだから!
「こいつほんま……!」
「あはははは! ごめんごめん、マジごめんしー!」
なら笑ってんじゃねえ。
と、苛立ちを顔に出すと流石にふざけすぎたと思ったのか、ギャル女神はようやく落ち着きを取り戻す。
やや過呼吸気味に。
「だからごめんってー。 機嫌治すしー、柊っちー。 んじゃ、本題本題ーっと」
「本題って?」
俺がそう尋ねると、ギャル女神はニヤニヤ笑みを浮かべる。
そして、その胡散臭い笑顔のままこう言ってきた。
「もちろん、異世界に転生するかどうかの話し合いだし」
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