第14話 死闘の試練⑧・ティアナ騎士団対策会議

「なかなか見応えのある、死闘だったな」


そんな死闘を俺は遠くながら眺めていた。

勇者祐樹、何かしら秘密があると思っていたけど、ある程度予想はついた。


俺はすぐに勇者ひなののそばまで駆け寄った。


「それにしてもよくもまぁ〜〜こんなにぐちゃぐちゃにできるよな…気持ちわる」


ひなの原型はなく、もはやただの肉塊と化していた。


「でも、やっぱり、そいういうことか…」


勇者ひなののスキル欄を見て、俺は確信した。

肉塊をよく見ると、わずかながらピクピクと細胞が動いているのがわかる。


「へぇ〜〜生きているのか…」


これはまたすごいスキルを獲得したものだ。

やはり、俺の目に狂いはなかった。


「さて、さっさとこれを持ち帰りますか……ティアナには悪いけど、本来の目的はこっちなんでね」


俺はこの肉塊を中心に陣を描く。


「これでよし、では…『テレポート』」


すると陣が青い光を放ち、そのまま肉塊は光に覆われながらその姿を消した。


「これで回収完了っと…ってもう三日目じゃん」


気づけば三日目の深夜を迎えていた。

そう思うとあの死闘は時間を忘れるほど魅力的だったということだ。


「さて、これでほぼ俺の目的は達成したわけだが、最終日だし、勇者がこの死闘の試練をどう乗り越えるのか、傍観するとしよう…」


こうして俺、柊真也は目的を達成し、死闘の試練、最後の結末を見届けることにした。




長い死闘が終わり、拠点に帰還した勇者祐樹。

拠点に戻ると、仲間達が、焦ってこちらに向かってきた。


「おいおい、祐樹、おせぇじゃねぇかよ、俺はてっきり死んだのかと」

「安心してほしい、僕は生きているよ…」

「ああ、そんなの見ればわかる…で調査はどうだった…ほぼ丸一日外に出ていたんだ、何かあったのか…」


「すごいものを見たよ、詳しい話は後で話そう、それよりも緊急会議だ、今度は今いる勇者全員を集めてほしい、おそらく今日の朝、ティアナ騎士団が攻めてくる、その前に…」


「わかった!!すぐに皆を集める!!」


そう言って出迎えてくれた健が背中を向けて走り出した。


「ふぅぅ…」


なんとか、誤魔化せたな。

まさかほぼ一日使うとは思わなかったから、内心少し心配だったんだが、仲間がバカで助かった。

それよりも次の問題はティアナ騎士団だな。

僕はもう、正直、戦える状態ではない。

さっきの戦いでほぼ使い切ってしまったからな。

戦えたとしても、団員レベルが限界だ。

試練が終わるのは三日目の夜、それまで持ち堪えないといけない。


「問題は山積みだな……」


こうして皆を集めて、緊急会議が始まった。


「よし、まず、今あるティアナ騎士団の情報を頼む」


「ああ、すでに見回っていたティアナ騎士団は撤退している、だが祐樹が言った通り、大きな魔力の塊がこちらに向かってきているの確認している、おそらく今日の朝方にはこの拠点に到着するだろう」


「もはや、今の僕達に逃げるという手段は取れない、一様聞いておくけど、やっぱり逃げたいと思う人はいるか?僕はこの死闘を強要しない、自分自身で逃げたほうが生存する確率が高いと判断したなら、僕はその意見を尊重したいと思っている」


「何言ってんだよ」

「そうだよ」

「俺たちもう覚悟はできてる」

「ああ、この試練、必ず皆で乗り越えよう!!」


「みんな、ありがとう…よし!!じゃあ本題の作戦会議だ」


この死闘の問題はやはりティアナ団長だろう。

彼女の力は未知数だ、そして確実に言えること…それは絶対にティアナ団長には勝てないことだ。


だから、この戦いはティアナ団長を誰が引き受け、試練の終わりまでティアナ団長と戦い続けられるかにかかっている。

僕以外となると、健、隆元などが挙げられるが、彼らはまだ僕より弱い以上、任せられない。

ここはやはり僕がいくしかない。

でも…今の僕では稼げて1時間が限界だ。

いや、あれを使えば、まだ可能性がある。

今の僕がどこまで彼女と戦えるか、結局、それにかかっているというわけだ。


「まず、ティアナ騎士団の団員は君たちに任せたいと思う、僕は団長と戦う…」


「おいおい、流石に祐樹一人であのティアナ騎士団の団長と一対一で戦うのは無理があるぜ、せめて後、二人を加えることを提案する」


「君の意見も最もだ、だけど僕はあの団長の戦いを見た、そして確信していえるのが、どれだけ数を増やしたとしても絶対的力の前では何も変わらないということだ、なら団長に割り当てるのは一人にしたほうがみんなの生存率が上がる」



「でも、それじゃあ、祐樹が……」



「大丈夫だ、僕だって団長相手に対策がないわけじゃない…いいかい、この作戦で最も重要なのは相手の数を減らし、ティアナ騎士団を退けることだ、これができれば、僕達の勝利は確定する、だからこそ、君たちの役目が勝利に直結すると思ってほしい、確実に一人一人を減らし、戦力を削ぐんだ、いいね」


「わかった…任せておけ」

「ふん、楽しみになってきたな」

「緊張するし、怖いけど頑張るよ」

「俺たちなら、絶対できるさぁ!!」

「弱気になっていられるか、拳がなるぜ」

「みんな……絶対にここ全員で生き残って、試練を乗り越えよう!!」


『お〜〜〜!!!!』


みんなの心が一つになった。

皆、恐怖を忘れ、やる気に満ちていた。

どれだけ圧倒的に力の差があったとしても、心持ち次第ではその力の均衡を崩すことができる。

とはいえ、こんなものただの洗脳に近いが……。

でも今は、こうでもしないと生き残ることはできない。


「さて、僕も準備をしますか…」


今の僕の状態では、まともに戦えない、だからと言ってこの少ない時間では万全な状態には持っていけない。

だから、ある強硬手段を使って、一時的に自信を万全な状態に持っていく。


「まさか、これを使うことになるなんて…」


僕は稲妻を纏う剣をもち、刃で自身の手を切りつけた。


「『精霊よ、我が血を食いて、我が身に精霊の恩恵を』」


俺が持つ稲妻を纏う剣は精霊剣と呼ばれ、精霊が宿っている。

その精霊に自信の血を与えることで一時的に自信の体を癒すことができる。

これは僕が持つ精霊剣の特性だ。


けどこの特性には弱点がある、この力は癒すというより、体の時間を一時的に万全な状態にまで戻しているだけで実際に癒しているわけではない。


そしてこの効力が切れるとその何倍もの痛みになって返ってくるため、緊急用な最終手段だ。


「これで、万全な状態で戦える……」


これでどれくらい時間を稼げるか……。


まぁ、正直、ここで死んでも俺は生き返る手段があるから最悪、死んでもいいのだが……。


でも、ここまできたんだ、信じてみたいだろう、仲間を……。


この戦い、仲間の頑張り次第ではどうにかなる。

いくら、団長が強くても、団員が必要以上に減れば、引かざる負えないだろう。

そしてついに、ティアナ騎士団が目の前に迫っていた。


「よし、ではこれより作戦を決行する!!皆、覚悟はできたか!!」

「ああ!!」

「いつでもいいぞ!!」

「絶対に生き残る!!」


皆のやる気は十分のようだ。

これなら、問題ない…あとは……。

森の奥を見ると軍勢がこちらに向かっている。

数は300いるかいないか程度だ。


少ないと思うかもしれないが、あのレベルが300人もいるとなると、おそらくあの数だけで兵力1万以上の戦力があると考えていい。

絶望的な状況、だが僕達は勇者だ、こんな困難乗り越えてみせるさぁ。


「よし、みな!!配置につけ!!!!」


こうして死闘の試練、最後の死闘が始まった。


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