第13話 死闘の試練⑦・感情を燃やせ、憎悪に変えて力に変えろ、全ては生き残るために

それは奇跡という言葉で一括りにするのにはあまりにも不自然な事象だった。

勇者祐樹はそのあり得ないこと目の当たりにして驚愕する。


「ど、どういうことだ、あり得ない、確かに心臓を貫いたはずだ、なのにどうして…立ち上がっている!!!」


体が生きろと言っている。

抗えと、目の前の敵を倒せと…その感情を憎悪に変えて、戦えと……。


「はぁはぁはぁ」


貫かれた心臓が修復し、鼓動する。


「なんだ、その目は……」


勇者祐樹と目が合う。

ひなのの瞳は赤く、まるで血で塗ったような紅の瞳をしていた。


「か、感情を…憎悪に変え、て……」


力が漲る、今までに感じたことがないほどに力が漲る。

今なら、なんだってできる気がした。


「くぅ、これが主人公の力か、なら原型がなくなるまで切り刻んでやるだけだ!!!」


勇者祐樹は聖魔剣を握って、こちらに向かってきた。

最初はあんなにも早く感じた動きが遅く感じる。



『殺せ、目の前にいる敵を殺せ、生きるため、生き残るために』



私も剣を構えた。

そして再び、二つ剣が交わった、だが……。


「なっ!?」


「はぁはぁはぁ」


力は互角、いや、やや勇者ひなのが有利であった。


どういうことだ!!さっきまで完全に俺が優位だったはずだ!!なのになぜ、俺は今、こうしてこいつと互角に戦っているんだ。

まさか、死の間際にスキルが発現したのか、しかもかなり強力な…そんなの…ありかよ……。


まさしく奇跡、主人公が成した奇跡だと勇者祐樹は思った。

そして拮抗する剣はついに弾かれる。


「!?」


そのまま復活した勇者ひなのの二振り目が迫ってきた。

完全にスピードが前より速く鋭くなっている。

地面が足についた瞬間、一気に後方に飛び、二振り目をなんと回避する。


「くっ…」

「はぁはぁはぁはぁ……」


体が重いのに、今にも倒れそうなのに、彼を殺したくてその衝動が抑えられない。

ボロボロの腕が足が彼を殺すがために……力の限り、その腕を振るった。


「どうして、そんなにもしぶといんだよ、さっさと死んでいればいいものの」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」


私は彼に剣を向け、今ある全てを込めて振る。


「くそ!!!」


さっきまでとは別次元の速さで剣を振るい、いくら勇者祐樹でも完全に回避することができなかった。

身体中のあちこちに致命傷ではないものの、確実に体を蝕んでいく傷。


どうしてだ、なぜこうなった、俺の計画は完璧だったはずだ。

なのに、どこで狂った、一体どこで……。


勇者ひなのの猛攻は終わらない、痛くないのか疲れていないのか、その剣撃は止まることを知らない。

そしてついに勇者ひなのの剣は勇者祐樹の肩を貫いた。


「くぅ、いてぇ…けどこれで脚が止まったな!!!!」


ひなのの動きが止まった瞬間、勇者祐樹は聖魔剣で彼女の心臓をもう一度狙う。

いける!!これなら殺せる!!次こそ確実に!!

しかしその一撃は空いていた左手で強く掴まれた。


「なっ!?」


いくら力を入れてもびくともしない。


どうなってやがるんだ!!一体どこからこんな力が……。


肩を貫いた剣を引き抜き、そのまま俺の胴体に向けて振りかぶった。


「くそ!!」


速度に慣れたのか、少しだけ動きが遅く感じた…そのおかげで咄嗟に後方に回避することができた。


「あぶねぇ……」


もはや、この状況、完全に俺が食われる側に回っている。


ダメだ、殺す手段が思いつかない、ここは一旦、撤退するしか、でもここで撤退したら、俺がこいつを殺そうとしていたことがクラスメイトにバレてしまう。

この世界の住民にバレるのはいい、この世界の人間は基本イかれているからな、けどクラスメイトにバレるのはまずい。

それでだけはなんとしないといけない。


「これでいくしない」


本来なら魔王戦で使うはずだった、僕の切り札だったのだが……。


「この一振りで本当に終わらせてやる…ひなのぉぉぉぉぉ!!!!!」


勇者祐樹は両手で聖魔剣をもち、体の正面にして掲げる。


「『あらゆる贖罪、ここに集い、この身を以て断罪せん』」


聖魔剣から禍々しいオーラが溢れ出す。

これは自身の生命力を使って、自信を強化する禁術。

もはや、これを用いねば勝てないと僕は判断した。


「死ね、今度こそ死ね…俺は主人公にならなければならないんだ!!!!」


そしての勇者祐樹の渾身の一撃が迫り来る。

私はその一撃を本能のままに迎え撃った。

もはや私にまともな思考能力など持っていない。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


剣が交差する、素早い剣技が飛び交い、剣同士がぶつかるたびに火花が散る。

それこそまさしく、死闘…命をかけた戦い、その戦いは死ぬまで終わらない。

ここまで苦戦を強いるとは思わなかった、だが今回…女神は僕を味方したようだ。


私の膝が崩れ落ちた。


体力の限界、それが勇者ひなのに降りかかる。

その影響で足に力が入らなくなり、崩れ落ちた。

そして勇者祐樹はその隙を見逃さず、その隙に攻撃を仕掛ける。


「これで…終わりだぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!」


勇者祐樹の渾身の一撃……それは勇者ひなのの心臓を再び貫いた。



「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」



そのまま倒れるひなの、その後も勇者祐樹はひたすら、体の全てを突き刺し続けた。

何度も何度も、さっきみたいに蘇ってこないように、何度も突き刺した。

それはもう勇者ひなのとしての原型はなく、見るだけで恐ろしい肉塊となっていた。


「はぁはぁはぁ、これでやっと…やっと…」


俺はそのまま体を引き摺りながら、勇者グループの拠点に向かう。

これでやっと目的が果たせた、これで今日から俺が主人公だ。


「……今日から俺が主人公だ…」


こうして勇者ひなのと勇者祐樹の死闘が終わった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る