第1話 三大神話はすごくかっこいい

俺の主な仕事は特にない、王国からも特に何か頼んでくるわけでもなく、自由に暮らしている。

勇者として召喚されて50年、本当に時間の流れは早いものだ。

夕刻、俺は行きつけの宿屋に向かった。


「いらっしゃい!!って真也じゃないか…ほらほら、あんたのお気に入りの席は空けてあるよ、座りな」


「いつも、ごめんね」


ここは俺が召喚されて最初に泊まった宿、『雀の涙』(すずめのなみだ)という宿屋で朝昼晩と飯が食べれて、それに泊まる料金も安い、行きつけの宿だ。

ここにはもう50年間もお世話になっている。


「それにしても真也は本当に老けないね…」

「はははっ…それはまぁ一様、元勇者ですから…」

「本当に私も勇者だったら、この美貌ももっと輝いていたんだろうね」

「おかみさんは今でも美人だよ…」

「真也はもう!!お世辞がうまいね!!」

「お世辞ではないのだが、ははは…とりあえず、いつものをお願いするよ」

「はいよ!!」


今の人類の世界はとても平和だ、魔王が現れるという予言からすでに50年が過ぎている。

これはかなり異例の話で、魔王がここまで現れないと滅んだのではないかと噂が立つほどだ。

だが、最近、魔物の生息域が広がっているという報告が上がってきている。

これは魔王誕生の前兆だ。

なんとしも、早く英雄の卵を見つけないといけない。


「人生って本当にうまくいかないよな」


英雄の卵を探し始めて、10年、勇者の素質のある子を見つけても英雄の素質を持つものは見つからなかった。

唯一、可能性があるとしたら、『槍の名手』ティアナなのだが、彼女はダメだ、縛りがある、それがある限り、英雄になること以前に勇者にすらなれない。

望みがあるとすれば、明日の勇者召喚だ、それに賭けるしかない。


「はいよ、いつもの、激辛カラチョースープだよ」

「おお!!この香りだけで舌を刺激されるこの感覚、たまらん…」

「真也は本当に変わってるね、あんただけだよ、この不人気メニューを頼むのわ」

「それはラッキーだな、それはつまり、俺がこの料理を独り占めできるというわけだ」


辛味というスパイスはどの料理にもある、最強の調味料だ。

さらに、ここ『雀の涙』の激辛カラチョースープの辛さは俺にとってちょうどいい辛さだった。

まぁ、他の客は食べれないらしいが……。

それにしてもうまい、舌を刺激する辛味に、鶏ガラの出汁がほのかに香るスープ、ゴロゴロしたお肉や野菜がお腹を満腹にしてくれる。

辛味にスープにボリューム、まさしく三種の神器を揃えた最高の料理!!


「本当に美味しそうに食べるねぇ〜〜」

「ごちそうさまでした…ふぅ〜美味しかった、さてと…」


俺は自分の部屋に入り、自身の目的、英雄を育てる上での計画を立てる。


「う〜ん、やはり、参考のすべきは英雄譚一択だな」


英雄譚、それは魔王が生まれる前の物語、そうだな、地球でいう紀元前ぐらいの頃のお話だと認識してくれた方がわかりやすいかな。

有名なところで言うと、『海王物語ノア・レダン』…三大神話の一つ、大英雄ノアが海の潜む聖獣レヴィアタンを倒し、人々に希望と戦う勇姿を与えた。


この大英雄ノアはかなり、人気で大人から子供まで根強いファンが多い。


人気の一つとして、大英雄ノアはこの聖獣レヴィアタンの戦いだけでなく、彼の地で聖地を築き上げ、そこで安寧の楽園を作ったとされ、大英雄ノアが成し遂げたこの偉業は人々に数多く知られている。

そして大英雄ノアは仲間思いであり、仲間の生存率を上げるため、心を鬼にして試練を与え、仲間たちを強くしていったという話もある。


「ここは海王神話ノア・レダンに登場する訓練方法の一つを取り入れてっと……」


三大神話と言われるほどに色々な偉業を成し遂げた英雄だ。

本当にもし、今も大英雄ノアが生きていれば、魔王なんて片手であしらうだろうけど……。

ただ三大神話…というかほとんどの英雄譚は改修版で原典ではないから、本当に成し遂げたのか、そもそも実在したのかは不明だ。


一時期は原典を探し回ったことがあったが、一冊も見つからなかった。


「さて、もう空も真っ暗だな…」


窓を開けると空は真っ暗、見える、聞こえるのは賑やかな人々の声、店内の光。


「明日が、楽しみだな…」


こうして俺はぐっすりと眠りについた。



英雄…英雄…この世界に…英雄が必要だ…英雄が…大きな輝き、皆を導き、勇気を与え、世界に魅せ示す英雄が…あの時代の輝きが……必要だ。


廃れてしまった光に、新たな輝きを…燃え尽きた心に、新たな灯火を…失われた勇気に、新たな勇敢を…新時代を切り開く、真の英雄を……英雄を……。


窓から朝日を呼ぶかのように照らしてくる。


「うぅ〜〜」


俺は目を擦りながら、ゆっくりと立ち上がる。


「ふぁぁぁ〜〜〜」


体が重い、眠い、寝たい、気がだるい。

そんな思いがありながらも、しっかりとベットから降りる。


「ふん〜〜〜」


大きく背伸びをして体を起こす。


「よし!!」


ある程度、支度をした後、エルキザレオン王国の王城に向かった。




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