3◆残念な結果◆
教会に着くと、昔怪我を治してくれた神父さんが出てきて、腰をかがめて俺と目線をあわせて話しかけてくる。子どもと話すときに、わざわざかがんで目線をあわせる人は、いい人が多いと思う。一度大人を経て、生まれ変わって子どもになってしまった今、それを実感する。
「リュード君、エヨン教会へようこそ。今日は魔法が使えるかどうか調べに来たんだね?」
「ふぇい!」
いよいよかと、テンションが上がりすぎて、変な声が出た。
「ではこちらにおいでなさい」
俺は家族から離れ、正面にある祭壇の前に立った。そこには老若男女混じった6人が立っており、顔は薄布をしていて見えないようになっていた。
「では順番に調べていきます。リュード君、1人目の前に立ちなさい」
ドキドキしながら、赤い薄布で顔を隠した1人目の前に立つ。その人は俺の額に手をあてた。
「!!あばばっ!」
その瞬間、俺の体内にあったビー玉の1つが、ぶぁっと光ると、ぶるると震えて、中心を何かがにゅるんと通って行った。
「…少しです」
「では次」
水色の布の人が同じように、俺に額に手をあてる。
「!うえぃっ!?」
今度は別のビー玉の1つが、ぶるると震えて、同じように何かがにゅるんと通って行く。水色の人の言葉に、家族や神父さんは残念そうな顔をするが、にゅるんとした未知の感覚に俺はそれどころではなかった。
その後も同じだった。
茶色の布の人が手をかざし「!ぷひょっ!?」「…少しです」
薄緑色の布の人が手をかざし「!あひゃぁ!?」「…少しです」
白い布の人が手をかざしい「!ほわぁ!?」「…少しです」
黒い布の人が手をかざし「!おうぅあ!?」「…少しです」
俺の体内の6つのビー玉全てに、にゅるんと何かが通った。落ち着くまで息を整えてから、家族と神父さんの方を振り返ると皆が微妙な顔をしていた。
「以前にリュード君に治療をした折に、癒しの才能も確認しましたが、残念ながら見当たりませんでしたので、本日はこれで終了になります」
「神父様、ありがとうございました。さぁ皆、たまには外で食事をしてから帰ろう」
神父さんの言葉を受けて父親が軽く頭を下げ、俺達は教会を出た。
◇
帰り道、父親が俺の頭をなでながら言った。
「リュード、残念ながら君には魔法の才はなかったようだ」
「え?でも、全員に『少し』って言われたけど…、少しならあるのではないですか?」
そういうと父親は、俺が気落ちをしないように言葉を選びながら、こう説明してくれた。
世の中には、およそ3人に1人は魔法の才能をもつ人がいる。火、水、土、風、昼、夜、癒しという7つの属性にわけられ、どの才能があるのかは5歳になって調べてみるまではわからない。一番の当りは癒しだそうだ。調べるとき、今回のようにその属性を持つ人間から探ってもらって初めてわかるようになる。
厳密には調べる人によって変わってしまうが、評価は『少し』『ある』『たくさん』と三段階にわけられる。ほとんどの人は属性は1つで、『少し』の人が最も多い。だが『少し』でしかないので、それによって人生が変わったりすることはない。『ある』にまでなると、属性によっては働き口の選択肢も増え活躍もできる。『たくさん』だと、貴族や国に雇われることも多い。火で例えるなら『少し』は指先に火を灯せる、『ある』で火の玉を飛ばせる、『たくさん』で火の柱を作りだしたりできるとのことだ。
「火とか水はわかるのですが、昼と夜ってどういうことですか?」
「昼の属性をもつ人は光の玉を作ることができて、夜の人は逆に昼間でも自分の周りを暗くしたり、人を気持ちよく眠らせたりすることができるそうだよ。すごい人は、貴族に仕えて夜の舞踏会を光で演出したり、貴族婦人のお抱えで美容と安眠をもたらす人がいると聞いたこともあるね」
説明を聞いてもいまいちわからなかったが、おそらく一般的なファンタジーで言う、光と闇なのだろう。
「それでね、リュード。君は全部が『少し』だった」
「はい」
「2つ以上の属性を持つ場合は、その『少し』も弱くなってしまったり、使えなくなってしまうんだ」
なるほど、それで家族は皆微妙な顔をしていたのか。理解はした…が、腑に落ちなかった。
「君の6属性が全て同時に『少し』というのは、聞いたこともないし、とても珍しいのだけれども、それがゆえに魔法は使えないだろうね」
「…そうなんですね」
「気落ちしないでくれよ」
「えぇ大丈夫です…。でも、どうして5歳にならないと調べてもらえないのでしょう?」
「あまり早くに魔法のことを知ってしまうと、知らないうちに、それこそ寝てるうちに魔法を使っちゃったりして大変なことになってしまうからだよ。火がつくと火事になることを知っているのと、知らないのでは大きな違いがあるんだ」
なるほど、だから魔法について聞いても、誰も何も教えてくれなかったのか。家には羊皮紙を綴じた本が何冊かあったが魔法について書かれたものはなかった。あまり家の敷地から出歩くこともなかったから、外で誰かが魔法を使っているのを見る機会もなかった。
「リュード、君は赤ん坊の頃から、なんというか、ずっとしかめっ面をしていたから、魔法でも使えるかとって思ってしまっていたよ。ハハハッ。まぁでも、私もアストもセンドも使えないから、ラーモット家は魔法の家系ではないのだろうね」
その後、母親も二人の兄も、いろいろと慰めの言葉をかけてくれたが、俺はあまり覚えていなかった。体の中を、にゅるんと通ったあの感覚、あれがあるなら、俺は魔法を使える。理屈ではなく体がそう言っていた。なので、家に帰ったら、あの感覚を使って魔法を試してみようと、それだけを考えて、歩いた。
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