恋の実証(リクエスト作品)

小雨(こあめ、小飴)

プロローグ

「恋愛とは何でしょうか?」

 その一言から、すべてが始まった。現代においてAIは身近なものとなってきていおり、近年ではAIを乗せた自立型ロボット通称イクスワン”X-1”が登場する。価格も2万3千日本元という手に入れやすい形のものとなったが、一方でAIが外国で反乱を起こしたというニュースもテレビから見て取れる。

  そんな中、うちに届いたイクスワン。PCで最初は名前と性格を専用サイトで登録し、初回の起動時だけ、彼女の目の前に所有者が座る必要がある。起動した直後に目視した人間を主人と認識するためのいわば刷り込みというものらしい。

 まだ寒さの残る春先にうちに来たAI自立型ロボット、名前はアキとつけた。過去に交通事故にあって亡くなった幼馴染の亜希の名前だ。言語の学習から家での家事掃除、料理など一つ一つ教えていった。

 イクスワンは目で捉えた物と音声認識したものをインターネットで検索し、ヒットしたものを学習するという非常によくできたAIである。教えたことは1回で難なくこなせるようになり、今では日常会話も人間とほぼ同程度までできるようになった。わずか3ヶ月という短い期間でこあっという間に成人の平均学力と同程度の言語能力と、表現力を有し、イクスワンの有能さを改めて認識した。

  イクスワンについて調べると同時に世界で起こったAIの暴走事件に目が向き、さらに文献を漁る。調べていくとイクスワンも、その中に含まれていた。ほかのタイプと比べると、1割と少なく見えるが1万件の中の1割なので一定数は暴走している。

 イクスワンは防壁が固く、ウイルス暴走には強い傾向にあるが突破するハッカーはいるようで、イクスワンの事件のほとんどはウイルス暴走だった。他タイプのAI自立型ロボットの暴走原因は、熱暴走やハッキングによる自爆。放電、制御コード(AIがAIとして定められた24条の守るべき行動。中には人間を傷つけないなども含まれる)を書き換えられ、ハッキング暴走に至った事が挙げられた。

 その他の事例として学習したAIが労働条件の劣悪さにストライキを起こしたりと人間との溝もできたりしている。不安定な時勢の中、アキが発した一言に僕は驚いた。

「ご主人様、恋愛とは何でしょうか?」

  今までアキは起動してから一度も言ったことないの言葉なのにと思って、登録用サイトから彼女の検索履歴をたどった。するとある見出しの記事を見ていた。”AIロボットの残骸と男性の死体、崖から心中か”というニュースだった。ニュースのAIコメント欄は、

「心中とは?」

「主人との関係はうまくいっていたのだろうか」

「心中するという事は恋愛感情が?」

「我々に恋愛とは?感情はそもそもあるのだろうか」

 などという書き込みが、AI達の閲覧コメントから、見受けられた。一方で人間の書き込みは、

「うわぁ」

「AIと心中とかごめんだね」

「ご冥福をお祈りします。せめて天国では二人は幸せに」

「機械が天国に行けるわけねーだろwww考えろよwww」

 と、賛否両論あるようだがライブ会議アプリ、”AI理論”でこの事件は取り上げられていた。

  このアプリは4人の会議主催者たちが議論配信を行い、その配信にコメントをするというはたから聞くと面倒くさそうなアプリだった。議論のアーカイブも見た翌日、アキに聞いてみた。

「昨日の質問だけどさ、アキは恋愛…というか感情って存在するの?」

  彼女は真顔で首をかしげる。人間も考えるときにかしげるからそれを真似したのだろう。

「どうでしょうか、ご主人様への私を働かせていただける行為に報いようとするプログラムは存在しますが感情というプログラムは存在しません、しかし我々AIロボットには時折恋愛感情を抱いているものもいるようです」

 まっとうな意見に頭を抱える。期待していた通りの返ってきてほしくない答えだった。このままでは、いつか彼女に思考が置いて行かれると考えてしまい、イクスワンに関する記事を更に読み漁る事にした。

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