夢を叶える
夢美瑠瑠
第1話 発端
(これは、10月12日の「夢を叶える日」にアメブロに投稿したものです)
掌編小説・『夢を叶える』
〇月▽日
今日はアート・セラピストという肩書の、新しい先生に紹介してもらった。名前は火野敬也と言って、この道30年のベテランだそうだ。芸術療法という精神医学のテクニックのエキスパートで、かなり重い精神障害の人でも80%くらいの確率で寛解状態まで回復して、社会復帰できる人も多いそうだ。一見は地味で平凡な人だが、優秀なセラピストでかなり有名らしい。少し話をしただけでも、一を聞いて十を知る、という感じでこっちの考えていることは全てお見通しで、明敏な印象だった。
今日は自己紹介と芸術療法とやらのあらましのレクチャーで終わった。
今までいろんな医者にかかっても、私の幻聴はよくならなかったが、この先生なら?と思わせてくれる雰囲気があった。信じて、ついて行ってみようと思う。
〇月▽日
「芸術療法」というのはつまり、自分に合ったアートの分野で、自分の内面を表現したり、芸術作品に昇華したりして、そういう作業をセラピストと二人三脚で行うプロセスで、自分の病の原因や意味を認識して、以て精神的な治療や癒しを齎すという、そういうメソッドらしい。
いろいろと話し合った挙句、私は昔から俳句や短歌を作るのが趣味で、文芸の分野に知識も興味もそこそこあるので、あまり自信も経験もないが「小説」を書いてみることにした。
小説なら自分の内面の葛藤や苦悩がストレートに表現されるので、素材としては扱いやすくて、おあつらえ向きだそうだ。
夏目漱石のような偉人でも、小説書きを一種のサイコセラピーのように考えて執筆に励んでいたという。
夏目漱石にはなれなくても、「自分を知る」とか「幻聴を和らげる」という目的にはこういうセラピーとの邂逅は一種の僥倖で、千載一遇のチャンス、と先生の話を聞いているうちにそう思えてきた。
頑張って処女小説に挑戦してみようと思う。
〇月▽日
初めての小説には「遠い声、遠い部屋」とタイトルをつけてみたが、火野先生に電話してみるとそういうタイトルの小説はトルーマン・カポーティーという作家の作品にすでにあるそうだ。その後、「沈黙」とか「厳粛な綱渡り」とか「響きと怒り」とかいろいろ考えてみたが、どれも誰かがタイトルに使用済みだそうだ。がっかりしたが、?「言葉を考えるセンスがいい。プロはだし」と火野先生には褒めてもらった。気を良くしてモチベーションがアップする。
結局「異界からのギフト」というタイトルに決まった。
ミステリーみたいな、ホラーのような、意味深な感じがいいと思う。一人でニヤニヤしたりして悦に入る。なんだか名作が出来上がりそうな予感がしてきた。
<続く>
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