第3話 わーの告白

「でも、わーは怖い」


 わーの名前は、ましまっし。産まれたばかりのアウラウネ。

 いつから、あそこにあったのかは知らないけど、拾われたのは覚えてる。だから、最初は凄く怖かった。

 だって、拾ったのはコカトリスで、コカトリスはアウラウネの天敵だもの。だけと、わーを拾ったコカトリスは、わーを食べようとしないばかりか、大事そうに仕舞ってくれた。



-・-・-・-・-・-・-



「まま、起きて。裸で寝てると風邪ひいちゃうよ!」


「ん?んぁ?あぁ、豚骨トンコッツお帰り。あれ?俺、一体どうして……?」


「ママ大丈夫?今朝は凄く気持ち良さそうに喘いでたけど急に静かになったから、わちき達心配してたんだけど……本当に大丈夫?」


「あれ?白湯パイタンもお帰り。朝、俺の事を食べてたのって、二人だけだったか?」


「うち達だけだよ?でも、いつも以上にママは乱れてたよ?たくさん気持ち良さそうな声を出してたし」


「そっか……そういや、マシマシマシマッシはどうした?」


「ましまっし?ましまっしなら、鉢にいるよ?」


「あれ?昼間、普通に歩いてた気がすんだけどなぁ……」


「ねぇ、ママ!部屋の中に薪が置いてあるけど、どうしたの?」


「薪?いや、俺はお前達に起こされるまで寝てたから知らねぇけど、俺がこんなカッコで寝てる間に誰かが入って薪を置いてったのか?」


 俺は本当に意味が分からない事だらけだった。昼間に意識が朦朧としてる中、マシマシマシマッシと話してた気もするし、その後で脳天を突き抜ける快感で再び気を失った気もするからだ。

 でもその前に、こんなカッコで寝てる所を、この部屋に誰かが入って来たなら絶対に見られてる事になるから、それはそれで大問題でしかないだろう。

 ま、俺的には外聞もへったくれもないから別に構わないが、嫁入り前の娘が全裸で、色んな所から色んなモノを垂れ流して、布団も掛けずに大の字になって寝てたって事が、おっさんの耳に入ったら怒られるかもしれないな……とは思った。



 そして、この不可解な現象はそれから数日続いた。だからその間、俺は本当に何も出来なかった。恐らくはカドだかキドだかが切れた結果という事は容易に想像が出来たが、何故そうなったかはサッパリだった。

 まぁ実際のところは、見当が付いているが誰も悪い事をしていないし、食欲には誰だって勝てない事を理解しているから何も言うつもりはなかった。

 そのうちなんとかなるだろうと、勝手にそう考える事にしたのさ。



 で、結局はどうなったかって言うとだな、日を追う毎に部屋の中に俺が置かれだしたんだ。

 流石に俺は焦ったというか、心が踊った。これってさ……なんか笠地蔵っポクねぇか?いや、この世界で地蔵を見た事は無ぇし、俺は笠をあげた記憶も無ぇ。

 それに、実際に地蔵が動いてたら怖いけどな。


 だが、俺は直感で理解していた。俺が快感でぶっ倒れるくらいになると、必ず野菜が置いてあるから恐らくは俺の記憶から野菜を作ってるんだろうと考えたのさ。そして、作っているのは恐らく……いや、十中八九マシマシマシマッシがやってるってのは断言出来るだろう。

 でも、俺が欲しいのはこれらの野菜じゃねぇ。出汁を取る事が出来る植物海藻だ。

 だから、なんとかしてマシマシマシマッシに俺の要望を伝えたいと思っていた。


 ちなみに、豚骨トンコッツ白湯パイタンからしたら、それらの野菜は見た事も無ぇ植物やその実に違いねぇんだろうが、俺が実演も兼ねて調理したら二人は不審がる事無く食べてくれた。

 ま、まぁ、作ったのはただの野菜炒めなんだけどな。でもこれでお弁当のおかずを増やす事が出来るのは確かだ。

 更に付け加えると、俺が作った野菜炒めはやっぱり焦げてるし、野菜の芯も残ってたから、白湯パイタンが作った方が見た目も味も抜群だったってのは、言わなくても分かるよな?



 それから俺は、それらの野菜から種があるものは、ちゃんと種を取っておいた。時間があれば家に畑を作って、そこに種を蒔いておくのもいいかもしれねぇからだ。そうすれば、自然と育って収穫出来るだろうし、そうなればヤサイマシマシも出来るようになる筈だ。


 そしてもう1つ変化があった。野菜炒めと切り身弁当を食べ出してから、二人のコスパが良くなったらしい。

 いや、コスパっていうのが正しいかどうかのツッコミはいらねぇけど、要するに俺に対する食欲が減退したってのと、食べると俺の包丁のハブみてぇな効果があったらしい。

 とは言ってもまぁ、毒蛇に噛まれる訳じゃねぇぞ。



 俺に対する食欲が減退したって事の意味は、やっと親離れが出来たって訳でもなくて、体液摂取をしなくても済んでるって訳でもねぇから勘違いすんなよな。

 要するに、俺がイカされる回数が減ったって感じだ。


 だからイカされる回数が減ったお陰で、俺は前みたいに色々な体液を垂らしながら失神する事が無くなったって事だ。これで俺が寝てる間に誰かが入って来ても、へっちゃらだな。


 まぁ、これでなんとなく想像が付くだろ?え?想像が付かない?じゃあ、分かりやすく言うとだな、俺が自由に活動出来る時間が増えたって事さ。




「なぁ、マシマシマシマッシ……。今、話せるか?」


「なぁに、母さん?」


「なんで、マシマシマシマッシ豚骨トンコッツ達と話さねぇんだ?それになんとなくだが、あの二人を避けてねぇか?あと、マシマシマシマッシは俺の中に何を入れて、何を食ってるんだ?」


 二人がダンジョンに行ってる間に俺は聞いて見る事にした。まぁ、失神してたらそんな事は出来無ぇし、これもそれも全部野菜炒め弁当のお陰なんだけどな。



「わーは、アウラウネだよ?あの二人とは相容れない存在なの。だから、話せない。あと、母さんから貰って食べてるのは、母さんの身体の中にある要らないモノだよ。オドも一緒にもらってるけど」


「なぁ、マシマシマシマッシ聞いてくれるか?」


「なぁに?」


 俺は察したね。ここ最近、寝て起きた後に必ず来る筈のアイツが来ないのは、マシマシマシマッシのお陰だったって事をさ。

 それに前にマシマシマシマッシが言ってた、俺の水を貰うってのはそういう事だよな?

 俺は人のを飲む気はしねぇが、植物からしたらアレも水に変わりはねぇって事だよな?まぁ、人に見られながらするのは流石に俺でも恥ずかしいし、出したヤツを俺の目の前で飲まれたりしたら目も当てられ無ぇが、出さない内に身体の中にある状態で吸われているなら俺的には何の問題も無ぇ。

 まぁ、見ず知らずの人にその光景を見られてたら、それはそれで恥ずかしいかもしれねぇが、生憎とそんな出歯亀はこの家にいねぇしな。



 あと、その方法も聞いてみたが、マシマシマシマッシから生えてるツルみてぇなのを、朝は二人に気付かれないように俺の中に入れてたらしい。まぁ、どっから入れてたかなんて野暮な事は聞くなよな。

 ちなみにその蔓は出し入れも伸ばすのも自由自在なんだとよ。

 



 だからその件に関しては納得した。だが、納得出来なかったのもある。


 俺としては、俺を母親と慕ってくれる三人は姉妹って考えだ。三人が三人共に俺の腹から産まれた訳じゃねぇし、血は繋がって無ぇがそれでも姉妹にゃ変わらねぇ。

 姉妹なら仲良くしなきゃ駄目だ。最初は豚骨トンコッツに対して毒を吐いてた白湯パイタンも、今では豚骨トンコッツと仲良くしてる。

 だったら、マシマシマシマッシだって出来る筈だ。



「なぁ、マシマシマシマッシ、なんで最初から二人と仲が悪いって決め付けてるんだ?」


「二人はレッドオークとコカトリス。わーはアウラウネ。動物と植物じゃ、植物は捕食される側。わーだって、二人の餌にならない保証はない」


「普通ならそうかもな。でも、三人は俺の娘だ。だから三人は姉妹なんだ。姉妹は仲良くするモンだ。——それが俺の考えだし、最初は豚骨トンコッツの事が嫌いだった白湯パイタンも、俺の考えを受け入れてくれたから、今じゃ二人は仲良くやってる」


「でも、わーは怖い」


「それなら、先ずは二人と話してみろ。俺が側にいてやる。もしも、それでもマシマシマシマッシが嫌だと思うなら俺に言え。もしも二人と話してみて、二人がマシマシマシマッシを傷付けるような事を言ったら、俺が二人を怒る。俺はマシマシマシマッシの味方だ。でも、俺の願いは三人が仲良くなる事だ!」


「分かった……。母さんがそこまで言うなら、二人が帰って来たら話し掛けてみる」


「うん、偉いぞマシマシマシマッシ


 こうして俺とマシマシマシマッシは二人がダンジョンから帰ってくるまで、色々な話しをした。

 その中で部屋の中に野菜を置いたのはマシマシマシマッシだった事や、それを食べると本当に俺の包丁と同じような効果がある事なんかを、俺は改めて知る事が出来た。

 更に驚かされた事なんだがマシマシマシマッシは、俺が知ってる植物なら造り出せるってのが分かった事だ。まぁ、マシマシマシマッシは俺の中身と外見が違うってのを、知ってるような口振りだったけどな。

 じゃなきゃ辻褄が合わねぇ事もあるから別に構わねぇし、俺は名前を聞かれたら長ったらしいクレアの名前よりも「山形次郎」って名前の方が先に出そうだしな。




「まま、ただいま〜」 / 「ママ、ただいま」


「お帰り二人とも。今日はどうだった?」


「今日は二人で33階まで行けたよ!あのヤサイイタメ弁当のお陰で、すこぶる調子が良かったよ」


「そうか、そりゃ良かった」


「あと、30階に作ってもらってるセーフハウスも見て来たよ!」


「政府ハウス?なんだそりゃ?女王サマがそこで仕事すんのか?」


「違うよ、ママ。政府じゃなくて、セーフ。ママが、おっさんに頼んで作ってもらってる家の事だよ」


「あぁ、なんだ。で、進捗はどうだった?」


 俺はセーフハウスなんて聞き慣れない言葉を聞いたモンだから、勘違いしちまったぜ。

 だが、話しを聞いてみると、王都から女王サマの親衛騎士ってのが来て、手伝ってくれてるらしい。そいつらがめっぽう強いんだとさ。



「その騎士サマは、豚骨トンコッツと比べてどっちが強いんだ?」


「ままのバフと、ヤサイイタメ弁当のバフがあって互角くらいかな?——でも、ヤサイイタメ弁当って本当に凄いんだよッ!食べてから帰ってくるまでずっとバフが掛かってるの!」


「わちきも加勢すればそんな騎士、楽に倒せるよ。わちきだって強いんだから」


「まぁ、相手が王都の騎士サマじゃ、二人が闘う機会は無ぇだろうが、今は猫の手も借りたいから助かるな」


「「ネコ?」」


 最初、家をダンジョン内に造る際に、家を造る材料を運んでるヤツらの護衛に二人を付けた事もあったが、それだと切り身を集めるのも一苦労だし、そうすると弁当の材料が足りなくて作れない問題があった。

 おっさんはおっさんで、ダンジョン内に家を造るのが乗り気じゃなかったが、女王サマから言われた期限があるし、ラーメンが作れなかった時の代償を天秤に掛けた結果、女王サマに助力を頼んだみてぇだった。


 その結果、二人は護衛から解放されたって訳だ。



 とまぁ、そんな話しで盛り上がっていた訳だが、マシマシマシマッシは自分から話し掛ける機会を逸した様子で、ただの鉢植えになってるから、俺としては助け舟を出す事にしたのさ。



「ところで、野菜炒めはそんなに凄いのか?」


「うんッ!あのヤサイっていう植物って、ましまっしが作ってくれてるんだよね?うちも、ましまっしとお話ししたいな。それに、ちゃんとお礼言いたい」


「お礼?」


「うん!あのヤサイイタメがあるから、ままからオドを貰う量が少なくてもちゃんと闘えるし、そうなればまた、ままとダンジョンに入れるかもしれないから。ねっ?ぱいたんもそう思うでしょ?」


「わちきも確かに助かってる。ヤサイのバフがあったから今日は33階までいけたって思うの」


「そっかそっか、うんうん。ってこんな感じに二人は言ってるけど、どうだまだ怖いか?」


「だ、大丈夫……。あ、あの、はじめまして。とんこっつ姉さん。ぱいたん姉さん」


 ま、やっぱり姉妹は仲良しが一番だなって俺は思ったよ。それに、豚骨トンコッツ白湯パイタンも、元からマシマシマシマッシの事を気にしてたのは知ってるから、こうなる事は分かってたんだ。

 でも、何事もきっかけってのは、大事だよな。




 と、まぁここまでが、最初に俺がすっ飛ばそうとした2ヶ月にあった事だ。……い、いや、今のは言葉のアヤだ。すっ飛ばそうとなんかしてねぇからな。

 本当に言葉のアヤだからな。


 まぁ話しは戻すが、これの他にもちょっとはあったが、それは些細な事だから、考えずに感じてくれ。

 いや、察してくれ。もう充分だろ?



 ってな訳で、次からは政府ハウス……じゃなくて、セーフハウス。要するに俺達の家がダンジョンの中に出来てからの話しだ。

 まったく、普段使わない言葉を使うのって、本当に紛らわしいよな……。

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