なにいろだろう?
紫陽花の花びら
第1話
琢磨は恋人。私の大切な恋人。
その恋人はあるものに、異常な執着を見せる。
その執着が結構私を怒らせるのだった。
誰かに相談出来るような話ではないから余計に苛立つ。
ましてや本人に言おうものなら、喧嘩になる……いやなれば有難い。ならないから厄介なんだ。
その話に私が少しでも触れると、落ち込みが酷い。下手したら別れ話が出る。私だって、こんな事で別れるなんて絶対嫌だ。
だから、じっと我慢する。
琢磨は普通のサラリーマン。
それも、かなり有名なデパートに勤務為ていて、仕事もバリバリしている。この間も主任に昇進したばかりだ。
そんな琢磨と私が知り合ったのは半年前。
私がいつも出勤前に行く定食屋で、たまたま相席になったのが琢磨だった。琢磨は夕食、私は昼食だった。
「いつも混んでますね」
「本当!美味しいから仕方ないですけどね」
「これからお仕事ですか?」
一瞬たじろいたが、私はバッグから名刺出すと琢磨に差し出した。
「ここで働いてます。どうぞご贔屓に」
「お~初めてです……ホステスさんと話すの」
私は、琢磨が余り驚くので揶揄い半分に
「じゃ~今夜同伴なんて如何?」
「同伴? お供ですか?」
思わず吹き出す私を、じっと見つめる琢磨に私が惚れてしまった。
「冗談、冗談、ごめんなさい。
ちょっと揶揄いたくなっただけ」
「いえいえ……行きます! お供します」
こんな会話をしながら、お互い食事を終えて店を出た。
琢磨は少し後から付いてくる。
「あのもうお帰りください。」
「行きたいんです。初めてのクラブに。お願いだから同伴させて下さい」
そんなに頭を下げられてもね。
可笑しくない? 何も知らない人がそれも同伴とか。
「さあ、行きますよ」
腕を掴まれてしまった私は、ラッキーなのか? 遣らかしたのか?
諦めて店に向かった。
それから、琢磨は良くお店に来てくれるようになり、まあまあそこは男と女だからそうなるのは必然だった。
だって優しすぎるくらい、優しいんだ。全てにおいてそうだから、
初めは気が付かなかった。
丁寧に丁寧に触れてくれてると思っていた。が、こちらもそれなりに経験ある訳だから。
うん? しつこい? そこはそんなにしなくても……と言いたくなる。先行こ! 先! と心で思っても口にはなかなか出せない。
ある日とうとう私は切れた。
「今日はだめ。月1のが来ているからごめんね」
そんなに驚く? 私はまだ現役ですけど? そして悲しげな顔。
なんで? そんなに落ちこむ?
「あの~言いにくいんだけど、胸だけ触らせて欲しい」
「はあ? 胸だけ? 意味判らない」
「好きなんだ。君の胸が」
そんな事を言われても痛いのだ。月1のが来ると胸が張る。
普通にしていても痛いのに、
「だめって言ってるでしょ! ばか! あのさいつも思っていたけど胸に拘ってるよね。なかなかやめないし、しつこい。それって結構しんどいんだから。今まで嫌がられなかった?」
「みんなって、ふたりなんだけど凄く嫌がられた。だからすぐ別れたんだ。でも君は僕の好きにさせてくれた。だから嬉しくて……でもやっぱり嫌われたね。もう別れたい?」
別れる? ばか!
「どうして胸に拘るの? 胸フェチ?」
「違う。それとは違うよ」
「理由があるなら教えなさいよ」
琢磨は随分と黙ったままだった。
それから、静に私の前に正座をして話しはじめた。
「僕は、親を知らないんだ。生まれてすぐに捨てられたらしい。
だから、今の両親に引き取られる五歳まで施設にいたの。まあ珍し話でもないけど。」
いや珍し話とかじゃなくて、
とっても辛い話しだよ。
ねぇ……そんなに淡々と話されると泣きたくなるよ。
「ある日さ、テレビで赤ちゃんが母乳を飲んでるのが映ったとき、1年生の僕はね、何をしているか判らなかった。施設の赤ちゃんは哺乳瓶だったし、先生から聞いていたけど。間近に見たのは初めてだった。でね美味しそうに飲んでるとこを見て、温かいんだろうなぁ、やりたいなぁって思ったけど、流石に今の母親には言えない事ぐらい判っていた。ただそれからその赤ちゃんの顔が頭から離れなくて」
「だから、大人になったら出来るって?」
「いや……そこまで深く突き詰めてはいなかったけど。如何したって女性とこうなれば、目の前に胸にがある訳だから、そりゃ意識するし、気が付くと吸っているんだ。それって物凄く幸せを感じるの。でも彼女たちからは気持ち悪がられた。雪も嫌だったんだね……本当ごめん」
そっかぁ……そうなんだね。
母親が恋しってより、美味しそうに飲んでる赤ちゃんになりたいんだ。吸ってみたかったんだね。
判った、判ったけど。
然し、今は痛い。それは教えないと。
「よし! 百歩譲って長いのは許すけど……月1の時はだめ!
いい?」
また、黙る?
「良いの? 嫌なら言ってよ。雪に嫌われるのは絶対嫌だから。
判った。月1の時は我慢する」
暫く経ったある日、ふたりで見ていたテレビドラマで、主役の女性が恋人にこんな質問をしているシーンがあった。
「あなたの愛の色を教えて?」
私は真剣に考えた。何色だろ? どうだろう……難しい質問じゃない? 赤? ピンク? 白?
あ~私は淡いピンクが良いな……
琢磨はなんだろ……白かな。
「琢磨の愛の色を教えて?」
琢磨は間髪入れずに
「母乳色!」
「ミルク色でしょ?」
「違う! 雪の母乳色なんだよ」
泣ける。
飲ませてあげたい! 私は真剣に子供を作ろうかと一瞬思ってしまった。
愛は私の母乳色か…。
そうだね琢磨。
私の愛の色は……琢磨色だから。
終
なにいろだろう? 紫陽花の花びら @hina311311
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