オタク、線をまたぐ~異世界行っても理科やってます~

物理試す

始まりの森


「よし できた!」


ここ数日、悩みの種であった大学の卒業研究が完成の目途が立ち、気持ちが軽くなる。


机に張り付いて3日も経つ。


課題提出の日程的には余裕があった。だけど最後ということもあり力を入れて製作していたのでギリギリの日程となっている。


肩の力を抜いて、息を吐く。

物作りが好きで、工学部がある大学を選んだ。


その大学で過ごしてきて4年。


色々あったなぁ・・・。


共通の趣味を持つ友人たちとロボットもどきを作ったり、無駄にコストをかけて物理実験を行ったりと、理科大好き青年として色々やった。


次々と思い返される・・・

物作りをするのにもお金がかかるから、バイトに挑戦して失敗したり、勝手に道具を使ったりして怒られたりと、今となってはいい思い出だ。


それもこの卒業研究を提出してしまえば、終わりだ。大学を卒業してからは、それぞれの進路に進み俺は大学院へ進学する。


カレンダーが目に入った。

・・・卒業から次の進路に進むまで少し期間がある。


最近は忙しくてできなくなっていたが、サークルのオタク友達と遊ぶ約束もあるから、カレンダーを見ながら今後の予定にうきうきしていた。


出来上がった卒業研究を確認して、オンラインで提出し終えたところだった。


突然、自分以外に誰もいないはずなのに部屋で大きい物音がしたので驚いて、不気味に思いながら音の方向を見ると、昔に買った陶器製のコップと課題製作のために使っていた分厚い物理学の専門書等が宙に浮いていた。


いや、本来あるはずがない、空中に表れた大きい黒い穴に吸い込まれていった。


「は?」


突然起こったそれに理解が全く追い付かず、あっけにとられて見ていた。


それがいけなかった。


すぐに部屋から飛び出して逃げればよかったものの、普段から目の前にある道具や物理現象を、どんな仕組みなんだろうと考えるように訓練していたせいか目の前にある’それ’を不思議に思ってじっと観察しようとしてしまったのだ。


気づいたときには、吸引力が急激に強くなり俺の体も浮いていた。浮いてしまった。


声を上げる暇もなく謎の黒い穴に吸い込まれてしまった。


誰もいなくなった部屋には不自然な方向に部屋の物が引っ張られた跡が残っており、いくつかの物が無くなっていた。


後日、部屋の主は原因不明の行方不明となっており、その時期や社会情勢から失踪という扱いになった。


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いつの間にか意識を失ったようだ。


目を覚ますと、どこかわからない森の中にいた。空から差し込む光は木々にさえぎられ、ところどころ漏れてくるといった感じだ。


とりあえず怪我はなさそうだ。何もわからず辺りを見渡した。


その風景は学部2年生の夏休みに旅行した原生林に似ているだろうか?


人の手が全く入っていないといった感じの森だ。


辺りには一緒に吸い込まれた本やコップ、それに文房具が落ちている。他にも大きめのリュックや安い腕時計があった。


あまりの事に何もわからずボーっとしていたが、とりあえず落ち着いたので散らばったものを集めてリュックの中に詰め込んだ。


道具をしまった後はどうしてこうなったのか?どうすればいいのか、しばらく考えていた。


好きが生じてそれなりに物理現象に対してはたくさん勉強していたが、こんな現象は思いつかない。


いや、本当はすぐに思いついていたが、現実的にありえないと思って頭の隅にその考えを置いていた。俺は確かに自分の部屋にいた。吸い込まれるまでは確かに意識があって、誰かに何かされた雰囲気はない


「まさか……異世界転移!?」


余りにもでたらめすぎて、これぐらいしか思いつかなかった。


風が吹き、着ていた服をわずかに揺らした。とりあえずこれ以上、考え続けても何もわからなさそうだ。この場にいても何も得られなさそうだし、どこかへ移動するしかない。


この原生林は気温は高くもなく低くもなく過ごしやすい気温だ。季節は春だろうか?よくわからないけれど、環境ですぐにどうにかなることはなさそうだ。


2日たった頃、その頃にはこれが異世界転移だったらいいのにと何度も思った。


しかし、現実はアニメやゲームのように気持ちよく、進んではくれない。


俺はまだ森の中にいた。完全に迷っていた。


食べ物もどれが食べられるのかわからないから満足にありつけず、夜はかなり冷え込むが、火を起こせないので暖をうまく取れない。


日に日に、体力を大きく失っていった。


サバイバルの知識は本で読んだことがあったけど、一度も実践したことがない。素人には知らない事と同然だった。


たまたま大きく開けた場所に出たが、体力の限界で倒れてしまった。


ここで死ぬのかな・・・ 色々やりたかった事あったのにな・・・何もできない喪失感に包まれる。


意識が沈むように落ちたところで何人もの人達が開けた場所をちょうど通りがかる。


ここは森の中にできた道だったのだ。

人々は倒れている俺を見つけ、すぐに救出を開始した。

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