第6話 王城へ
それから一週間後、私は王城の厨房にお邪魔していた。
エドワード様が私のことは既に周知してくださっていたらしく、王城務めの皆様には快く受け入れていただいた。
「マリリン嬢の声がすると思って来てみれば。約束の時間はまだだよね?」
「エドワード様!いえ、少しこちらの厨房に用がありまして。ちょうど料理長様とのお話しが終わったところです」
なんと、私の声を聞きつけてこちらにいらしたらしい。『耳がいい』と言っていたのは本当のようだ。
私は料理長様に異国の珍しい食材にレシピを提示して、万人に受けるようにどうアレンジを加えるか、料理のラインナップはどうするかなど色々なことを話し合っていた。料理長様はエドワード様の誕生パーティに向けて気合十分で、非常に積極的に意見を出してくれた。
「そうだったんだ。料理の準備はもっと後にするものだと思っていたよ」
「とんでもございません!食材の調達は私どもで行いますが、王城でのパーティの料理はこちらの皆様に作っていただきませんと。直前に申し入れるのは失礼ですし、試作のためにも早いに越したことはないのです」
料理の手配をすると言っても、実際に調理するのは王城のシェフたちだ。お城で出す料理は何よりもまず安全でなければならない。外部のシェフを入れるわけにもいかない。料理の内容や食材の手配はモントワール商会が請け負うとしても、それらを活かしてくれるのはここのシェフ。お城の料理を任されたプロ。私は彼らに敬意を持ってご依頼に来たというわけだ。
「そうか、なるほどね。ところでその格好は?」
「ああ…こちらは…」
エドワード様はまじまじと私の服装を観察していらっしゃる。それもそのはず、私は今王城のメイド服を見に纏っている。言うまでもないが、この服も我が商会が王城に卸しているものなので手に入れるのは容易い。
王城に出入りするとなるとどうしても人目についてしまう。パーティ準備のためとはいえ、エドワード様と何度もお会いすることになる。私たちが一緒にいるのを見た人がどんな噂を流すか分かったもんじゃない。だから私は王城に最も溶け込むことができる服装で訪れたというわけだ。
「ふふ、いかがでしょうか?」
普段袖を通さないメイド服に気が大きくなっていた私は、スカートの裾を摘んでひらりと一回転してみせる。
「…すっごく可愛い。僕の専属メイドとして連れて帰りたいぐらい可愛い」
「~っ!ご、ご冗談を…」
だが、エドワード様の返り討ちにあい、私は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
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