第5話 準備開始

 そして三日後、早速エドワード殿下は私を訪ねてきた。ちょうど会場となる王城の大広間の広さや過去のパーティでのレイアウトなどを確かめていたところだったので、応接室にお通しした。


「殿下、わざわざ我が家までご足労いただくのは申し訳がございません。今後は私が登城いたしますので、打ち合わせができるように会議室などをお貸しいただけないでしょうか?」

「そんなこと気にしなくてもいいのに。僕は城の外に出るのが好きなんだ。君が暮らしている場所がどんな場所なのか詳しく知りたいしね」

「はぁ、しかし…」

「当日が近づけば城での仕事も自ずと増えるだろう?マリリン嬢が気にするなら、打ち合わせ段階は城とモントワール伯爵家を交互に行き来するというのはどうだろうか。入城の手続きは既に手配しているから安心してくれ」

「そう、ですね…承知いたしました」


 王子に家まで来てもらうのは恐れ多すぎるのだが、先日と今日と僅かな時間であるが、エドワード殿下は一度言ったことは簡単に取り下げないお方だということはよーく分かったため、提案内容に頷いた。それにしても護衛を数人しか引き連れずに随分と不用心ではなかろうか。我が家の使用人はみんな腕が立つため、万一不審者が侵入するようなことがあっても簡単に取り押さえることができるし、殿下の身を守る自信はあるが、随分と自由なお方だ。


「そうだ、僕のことは気軽にエドワードと呼んでくれないか?」

「そっ、そのようなことは出来かねます!」

「僕がいいと言っているんだから、お願い。ね?」

「うぅ…え、エドワード様?」


 そんな捨てられた子猫のような切ない目で見られては…頷くしかなかろう。私はじわじわ頬が火照るのを感じながら、小さな声でお名前を呼んだ。

 すると、エドワード様はパァッと花が綻ぶような美しい笑みを浮かべられた。殺傷力が高すぎる。ミーハーなご令嬢方であれば卒倒間違いなしだ。

 と、とにかく、私は任された仕事を全うせねばならない。ごほん、と咳をして私は仕事モードに頭と表情を切り替えた。この方はご依頼主でありお客様。そう、それだけ。


「まずは当日のテーブルのレイアウトですが、中央はダンスができるように広くスペースを確保し、周囲を囲うように丸テーブルをいくつか設置するレイアウトでよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだね。それが一番歓談もしやすいだろうしね。異論はない」

「かしこまりました。装飾するにあたり、ご希望のお色味などはございますか?」

「一応僕の誕生パーティだし、この髪や瞳の色に近い方がいいかな」

「では青を基調に取り揃えましょう。装飾品については、最近国交を樹立した北のモンテ小国の名産品であるガラス細工を使用しようかと考えております。新たな友好国として来賓の皆様に認知いただくことも叶いますし、何よりあの国のガラス細工は大変美しいです。会場を上品に彩ってくれること間違いございません」

「それはいい、是非そうしてくれ。…それにしてももうモンテ小国にツテがあるのかい?驚いたな」

「ふふふ、国交樹立前から我が商会とモンテ小国は取引がございましたから。王城でのパーティに使用すると伝えれば、腕によりをかけた素晴らしい作品を用立ててくれるでしょう」

「それは楽しみだ」


 その後も私たちは会場の装飾についてみっちり話し込んだ。エドワード様は、商売の話となり少々前のめりな私に嫌な顔ひとつせず、とても楽しそうにしていらした。私もつい楽しくて夢中で話し込んでしまった。エドワード様はとっても聞き上手らしい。

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