第31話 断言されて、動揺し、意識してしまう


 教会の前を掃き掃除していたシオンはいつものようにやってきていたサンゴとカルビィンたちと話をしていた。今日は孤児院へ行くのは少し遅くていいので、のんびりと他愛ない話をしているとサンゴに「それ」と指をさされる。



「そのペンダントどうしたの?」

「あ、これ? アデルさんに貰ったんだよね」



 首元を飾る蝶々のペンダントにシオンは貰った経緯を話した。それを聞いてサンゴは「防犯にもなるものね」と納得したように頷く。



「アデルさんも心配してるんだねぇ」

「あたしって危機感なさそうにみえるかなぁ」

「そうじゃないわよ、シオンちゃん」



 サンゴに「シオンちゃんだから心配しているのよ」と言われてシオンは首を傾げた。それは危機感が無さそうに見えたからではないのだろうかと。それにサンゴは「そうじゃないのよ」とまた返した。



「シオンちゃんが危なっかしいのは認めるけど、そうじゃなくてね。シオンちゃんのことが大事だから心配しているんだと思うわ」


「大事?」

「そう、大事」



 シオンが危なっかしいのは否定しないけれど、それとは違って大事に想っているから心配しているのだとサンゴは言い切る。何それとシオンは思ったけれど、「絶対にシオンちゃんが好きなんだわ」と言われて変な声を上げてしまった。



「ど、どうしてそうなるの!」


「勘ではあるけど、アデルさんってシオンちゃんの前だと雰囲気が優しくなるし。あと、ヒーローの話をしてからのその対応って、自分がシオンちゃんのヒーローになろうとしているっていう意味にも捉えられるじゃない」



 何かあれば俺が助けようとそう言ったのならばとサンゴに指摘されてシオンは黙る。確かにヒーローの話をしてからアデルバートはこのペンダントを渡してそうやって言ったのだ。


(え、あたしのヒーロー?)


 シオンの頭は混乱していた。アデルバートからもしかしたら好意を寄せられているかもしれないという事実に。そんな気は見せていなかったと思っていた、可愛らしいと言われることはあったけれど、そういった意味ではないと。


 パニックになりつつあるシオンにサンゴは「落ち着きなさい」と冷静に言われてしまう。これをどう落ち着けというのだろうかとシオンは彼女を見た。



「私は絶対に好意があると思うわ。でも、シオンちゃんの気持ち次第よねって」

「あ、あたしの気持ち……」

「うーん、僕もそうかなぁ。なんとなく、そんな雰囲気あるし。シオンの気持ちだよね、問題は」



 二人に言われてシオンは眉を寄せながらうーんと呻る。まだ好意を寄せられていると決まったわけではないけれど、そう受け取れてしまうことをアデルバートはしているのだ。それを気にしないというのはどうだとうかと考える。


 自分の気持ちとは。誰かを好きだとか、愛しているだとか考えてたこともなかった。でも、好きか嫌いかならば、その二択ならば決まっている。



「好きか嫌いかなら、好きだけど……」

「それが恋かどうかってことよ」

「うーん……」


「まー、無理して考えなくてもいいんじゃないかなぁ。シオンは鈍感というか、そんな訳ないって思いこむ癖があるからさ。ゆっくり気持ちの整理をしていけばいいかなって僕は思うよ」



 誰にだって最初は気持ちを信じられないことだってあるのだから、変に思い込んで考えずにゆっくり整理していけばいい。その中で自分の気持ちに答えがでることだってあるのだ。そうカルビィンに言われてシオンはなるほどと頷く、焦っても仕方ないのだなと。


(自分の気持ちか……)


 自分は彼のことをどう想っているのだろうか。好きか嫌いかならば、好きだ。優しく、気遣ってくれて、相手の気持ちを汲み取ろうとしてくれるところが。人間であるからと決めつけで何かを言ってくることもなく、もちろん人間という種族に何か思うことはあるのだろうけれど悪く言うことはしなくて。そういった彼の温かさに惹かれる。


 二人に何度も言われて同じような会話をしているけれど、こうやって断言されてしまうとシオンはそうなのかもしれないなと思ってしまった。


(この後、どうやってアデルさんに会えばいいのさー!)


 絶対に意識してしまうじゃないか、変な反応をしてしまうかもしれない。おかしな子だと思われたらどうしようかとシオンは少しばかりサンゴを恨む。それを感じ取っているのか、サンゴはにこにこしていた。



「いいわ、いいわー。シオンちゃんが恋に悩んでるの! やっと春が来たのね!」

「それ、喜んでるの、揶揄ってるの、どっちなの、サンゴ!」

「喜んでるに決まってるじゃないの、シオンちゃん!」



 鈍感なシオンちゃんに春が来たのだから喜ばないわけがないでしょとサンゴに言われて、シオンはじとりと彼女を見つめる。喜んでいるのは本当なのだろうけれど、楽しんでいるような気がしなくもないのだ。


 うーっと見つめるシオンにカルビィンが「まぁまぁ」と宥めてくる。あれもサンゴなりの応援の仕方だからと教えてくれた。



「サンゴの応援の仕方ってちょっと斜め上なんだよねぇ」

「これでも真剣なのよ、カルビィン!」

「こんな感じなんだよ。だからシオンは気にしなくていいよ」

「うん、なんとなく理解したよ」



 サンゴが応援しているという気持ちは伝わってきたので、彼女のやり方が少しばかり斜め上だっただけなのだとシオンは理解する。サンゴも自覚はあるらしく、「応援しているのは本当なのよ」と謝るように手を合わせた。



「まぁ、サンゴの気持ちは分らなくないからいいけど……。次にアデルさんに会う時、絶対に意識するからちょっと恨むよ」


「どんどん、意識するといいわよ~」

「こうでもしないとシオンは気づかなそうだからねぇ」

「うー、否定できない」



 自分の鈍感さを痛感しているので否定することもできず、シオンは次にアデルと会う日を緊張しながら待つことしかできなかった。



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