第4話 対価は物でなくては価値がないのだと知る



 街の中心街は様々な店がならぶ商店街だ。アクセサリーショップからブティックなどがひしめき合っているので人が多い。周囲を見渡せば、魔族や人間が楽しそうに、時に苛立ったように歩いている。


 市場から近いことからか、レストランなどもあってシオンも食事に何度か訪れたことがあった。時間帯が時間帯なせいか、買い物客で賑わっているのを眺めていると、隣を歩くアデルバートの眉間に皺が寄っているのが目に留まった。



「もしかして、人混み苦手?」

「……得意ではないが、別に苦手というほどでもない。ただ、久しく仕事以外でこういった場所に来たんだ」


「そうなの?」

「あぁ、賑わっている場所は父に連れられたパーティーか仕事でぐらいか……」



 父に連れらて参加したパーティーのところで顔を顰めたので、あまり良い思い出ではないのだろうなと思ってシオンは「うん?」と引っかかる。



「えっとさ、ちょっと気になってたんだけど……もしかして、アデルさんってお金持ち?」

「貴族階級だな」

「ちなみにどの程度で……」

「シュバルツ家の爵位は公爵だ」



 魔族の階級制度がどんなものかはシオンは知らないが、公爵は確か最上級であるのは教えてもらっている。とんでもないヴァンパイアを自分は助けたものだなとシオンが思っていると、「気を使われるのは苦手だ」とアデルバートに言われてしまう。そうは言われても気を使ってしまうのでシオンははなるべく大人しくしていようと思いつつ、頷いておいた。


 そのまま中心街の店を眺めながら歩いていたシオンだったが、話題がなくて無言になるのが嫌だったので気になっていたことを質問することにした。



「そういえばさ。ヴァンパイアって日中動き回っても大丈夫なの?」



 人間界ではヴァンパイアは太陽の光に浴びると灰になると言われていたのをシオンは覚えていた。とは言えないので、「なんか、太陽の光が苦手って聞いたことある」と付け加える。これはリベルトから聞いたことだった。


 アデルバートはそんなことを聞くのかと言いたげにしていたが、「平気だ」と答えた。日光が苦手ではあるけれど別に大して影響はないと。



「人間はよく勘違いするらしいが、別に日中でも動き回れる。若い吸血鬼ならば魔法が多少うまく扱えないぐらいはあるだろうがな」


 人間が勘違いしていることで言うならば、強い香草の臭いを嫌うというが、それは臭いからであって撃退できるものではない。別に十字架などに効果はなく、若い美しい女性のものじゃなくとも血は飲めるとアデルバートは教えてくれた。



「あ、じゃあさ。瞳が赤いっていうのは?」

「それは戦闘時と血を吸う時だけだ。普段は元の瞳が赤くなければそうはならない」



 血を吸った時に見たわずかに赤みがかっていた瞳はそういうことなのかとシオンは納得する。魔界に来てからヴァンパイアをみるのはアデルバートが初めてだったけれど、意外と印象というのは悪くなかった。本物というのは物語とは違って現実的なのだなと知る。



「ヴァンパイアってどんな魔法使うの?」

「攻撃すようなものから召喚や使役など様々だ。召喚魔法は一部のヴァンパイアのみ使用できる」



 誘惑するような魔法も使えるが許可がなくそれを行うことは禁止されている、誰かを操るような魔法も同様に。



「召喚ってやっぱ、ドラゴンとか?」

「ドラゴンは上級クラスの魔物で、そう簡単に契約できるものではない。ワーウルフなど獣系が主だ」



 召喚魔法は魔界ではメジャーな魔法の一つだ。ただし、使用者の能力によって契約できる魔物は限られている。ドラゴンは召喚魔法で契約できる魔物の中でもランクが高い。一部の小型種であれば契約できなくないが、そうでない実力なき者に力を貸すことは無い。



「へー、そうなんだ」

「魔界の人間でも知っている情報だと思うのだが……」

「え! いや、あたし学校とか行ってないから!」



 慌ててシオンは返す。この魔界にも学校というのはあるのだが、そこに通っていないのは本当なので嘘はついていない。これで誤魔化せるだろうかとアデルバートを見えれば、少しばかり訝しげにしていたが一先ずは納得してくれたようだ。


 魔界では学校に行くことは強制されていない。行かない魔族や人間というのは多いし、通っていないからと批判されることはない。なので、シオンが通学していないこと自体は不自然ではないのだ。だから、アデルバートは怪しむことはしなかったのだろう。



「魔界でのルールは親に教えてもらったのか?」

「お父さんに一応……」

「それでこうなのか……無欲で危機感のないお人好しの人間とは、早死にするぞ」

「それ、貶してるのか、それとも忠告してくれてるのかどっちなのさ」



 そうシオンが問えば、アデルバートは「忠告だ」と答える。ならもう少し言い方というものがあるだろうにとシオンは苦笑した。



「それでお前の疑問に俺は答えられただろうか?」

「え、あ、うん。凄く勉強になった」

「そうか。まだ欲しいものは決まらないのか?」

「それってさぁ、絶対に物じゃなきゃだめ?」



 シオンの物以外という言葉にアデルバートはそれ以外に何があるのだと言いたげな表情を向ける。


 対価とはいうが必ずしも物でなければいけないのだろうか。こうやって話して満足したのならそれも対価に値するのではないかとシオンは思った。アデルバートから教わるヴァンパイアの話で十分勉強になったし、満足していたのだが彼には「駄目だな」と断られてしまう。



「金銭ならまだしも、形に残らないものは認められない」

「なんだよ、それー。面倒くさいなぁ」



 魔族が決めた掟というのは面倒なものだなとシオンは考える。どの店の商品も特に欲しいとは思わず、それでも選ばなければいけないのでどうしたものかと悩ませる。あまり、店に詳しくないので特にシオンは頭を悩ませた。


(そういや、サンゴが良く行く店があったはず……)


 サンゴはその店の服が好きなのだとよく話していたのを思い出した。行ったことはないけれど、彼女が行くところならば自分でも着れる服はあるだろうと思って、シオンはアデルバートをその店に連れていくことにした。



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