第256話 ギルバートの決意


 勇者が負けた。


 目の前で起きたその出来事は、モーゼスに多大なショックを与えた。


 その後、春風の「暴言」を受けて吹っ飛ばされたが、


 (ヌオオオオオオ! 負けるかぁあああああ!)


 と、体を回転させて地面に着地すると、キッと春風を睨みつけた。


 そして、


 「うおのれぇえええええ幸村春風ぁあ! よくもやってくれたなぁあああああっ!」


 と、春風に向かってそう叫んだ。


 それを見て春風が、


 「おお、すげぇなオイ」


 と感心していると、


 「もう良いだろモーゼス」


 と、ギルバートがモーゼスに声をかけてきた。


 「ぎ、ギルバート陛下」


 「お前さんには悪いが、春風そいつはもう俺達ウォーリス帝国のものだ。誰にも渡す気はねぇし、だからといってここで殺させるわけにもいかねぇ」


 「な、何を言う! その男は固有職保持者、悪魔の力を持つ者だ! 陛下もこの世界の人間なら、それが何を意味するのかわかっている筈!」


 「勿論わかっているさ。だがなぁ……」


 ギルバートはスッと右手を上げると、


 「んなもん、知るかハゲェ!」


 親指を下に向けた。


 「ハギェエ! な、何!?」


 「五神教会お前らとお前らが崇める『神様』がなんて言おうが関係ねぇ! 俺は、俺の家族とこの国に住む民の幸せの為、そして更なる国の発展の為にそいつが欲しい! そいつの『力』と『知識』がな! だからこいつを俺達のものにする! それだけだ!」


 「ぐぐ、貴様……」


 「それに言い忘れてたが……そいつは異世界『地球』との通信手段を生み出している」


 「な、何だと!?」


 「それだけじゃねぇ。そいつは、自分の祖国のお偉いさんとときた。そして、俺はもうその人と話をした」


 「な、何ぃ!?」


 「「「え、そうなの(か)!?」」」


 ギルバートのこの言葉を聞いて、モーゼスだけじゃなく煌良、学、麗生も同じような反応をした。


 そんな彼らの反応を見て、ギルバートは更に話を続ける。


 「おうよ! で、ここからが重要な事なんだが、この世界が今抱えているを全て解決したら、俺はもう一度そのお偉いさんと話をする。そして……」


 ーーご、ゴクリ。


 春風を除いた全員が固唾を飲む中、ギルバートは真っ直ぐモーゼスを見て言い放つ。


 「春風の祖国、『日本』と友好関係を結ぶ! 勿論、ウィルフレッドも一緒だ! で、春風にはこの世界と地球、2つの世界を結ぶ架け橋になってもらう!


 「何だとぉおおおおお!?」


 ギルバートのその言葉に、モーゼスは驚きの声をあげた。


 その一方で、


 (え、マジで言ってんの?)


 と、春風も心の中でそう呟いた。


 その後、ハッと我に返ったモーゼスは、


 「ふ、ふざけるなぁあああああ! そんな勝手が許されて良いと思っているのかぁあ!?」


 と、最早言葉使いが乱れた状態でそう怒鳴った。


 更に、


 「イブリーヌ様! あなたもこのような勝手な事、許す訳がないでしょう!? というか、いつまでその悪魔にくっついているおつもりですか!? 早く、こちらに戻ってきなさい!」


 と、イブリーヌに向かってまるで命令するかのように怒鳴った。


 だが、


 「嫌です! わたくしの心は、既にハル様のものです! 絶対に離れません!」


 と、イブリーヌはそれを全力で拒否した。


 更に、


 「それに、わたくしはもう、この方に唇を捧げましたし、お互い肌を見せ合いました!」


 と、勢いに任せてとんでもない事まで暴露した。


 『な、何ですとぉおおおおおおおっ!』


 これには、モーゼスだけでなく信者や騎士達までもがショックを受けた。


 因みに、ラルフは無言で固まっていた。


 そんな状況の中、


 「お、お、おぉのぉれ、幸村春風ぁあ! よくもイブリーヌ様を誑かしてくれたなぁこの悪魔が!」


 と、春風に向かって恨みと怒りのオーラを全開でそう言い放った。


 ここで普通なら、


 「ご、誤解、誤解だよ!」


 と、全力で否定するところなのだが、何せ思いっきり事実(ちょっと違う部分もあるが)なので、


 「あー、すみません」


 と、春風は顔を赤くして謝罪した。


 「謝るなぁあああああああっ!」


 それが、モーゼスの怒りと恨みを更に増幅した。


 すると、


 「いい加減になさいな、モーゼス教主」


 と、ギルバートの隣でエリノーラが口を開いた。


 「え、エリノーラ皇妃様」


 「それ以上醜態を晒して酷い言動を続けるというのなら、この私が許しませんよ?」


 穏やかな口調でそう言ったエリノーラ。


 しかし、それでもモーゼスは止まる事はなかった。


 「な、何を言っているのですエリノーラ皇妃様! このままあの悪魔を自由にさせる事など、『神々』が許す訳がない!」


 「あなた、私が決闘の時に言った事もう忘れたのですか? 春風ちゃんは異世界『地球』の神が送り込んだ『異世界の神の使徒』ですよ? その彼に何かしようものなら、地球の神々が黙っていませんよ?」


 「お言葉ですが、我々が信じる神は五神のみです! 異世界の神々など、悪き存在と同じ! 甦った邪神共々、殺した方がいい!」


 怒りのままにそう言い放ったモーゼスに、


 「モーゼス教主、あなたという人は……」


 と、イブリーヌが怒り爆発させようとした、まさにその時、


 「イブリーヌ様」


 と、春風がイブリーヌの肩にポンと手を置いた。


 イブリーヌはハッとなって春風の方に振り向くと、


 「大丈夫です」


 と、春風は穏やかな笑みでそう言った。


 その後、春風はモーゼスの方に視線を向けると、


 「モーゼス教主。あんた、、言っちゃったな」


 と静かに言い放った。


 次の瞬間。


 プルルルルルルル! プルルルルルルル!


 左腕のアガートラームMkーⅡにセットされた零号【改】が鳴り出した。

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