第230話 「モーゼス・ビショップ」という男
「モーゼス教主様がここに来る!? それは、本当なのですか!?」
「はい、本当のようです」
春風が告げたその話に、イブリーヌは衝撃を受けた。
ギルバートから話を聞いた後、春風は仲間達のもとに戻って、謁見の間での事を話した。話を聞き終えた仲間達の反応は様々で、リアナやアデル達七色の綺羅星メンバー(ただし、1人を除いて)は「へぇ、そうなんだ」と興味がなさそうな表情になっているが、歩夢や水音、鉄雄ら召喚された勇者達は、イブリーヌと同じ様に衝撃を受けていた。
仲間達がそんな状態の中、春風は話を続ける。
「それで、そのモーゼスって人が、配下の他に数人の騎士と一緒に来ると聞いたのですが、イブリーヌ様、ちょっとよろしいでしょうか」
「は、はい、何ですか?」
「セイクリア王国の騎士は半数が教会から配属された者達だというのは本当なのですか?」
「っ! そ、それは……」
春風のその質問に、イブリーヌは一瞬答えるのを躊躇ったが、
「……はい、その通りです」
と、正直に答えた。
その後、春風は側に立っているディックを見て、
「もしかして、ディックさんもですか?」
と尋ねた。
すると、ディックは首を横に振るって、
「いや、私は王国の外から騎士団に入団したんだ」
と、否定した。
「外から……ですか?」
「ああ。私は元々、王都から離れた小さな村の出身なんだ。15歳の時に『騎士』の職能を授かった私は、親兄弟を助ける為に村を出て王国騎士団の入団試験の挑み、見事、騎士団の一員になったんだ」
「そうだったんですか」
「だが、教会から配属された者達は、他所から来た私が気に食わないみたいでな、入団してからは時々連中から嫌がらせをされる様になったんだ」
「そうだったんですか!?」
「ああ。前に、勇者召喚が行われた日、私は任務でいなかったと話した事があっただろう? 実はその任務も、嫌がらせの1つなんだ」
(マジかよ、とんでもねぇなおい)
遠い目をしながら心の中でそう呟いた春風は、すぐに気を取り直してイブリーヌに話しかけた。
「あの、イブリーヌ様、もう一つよろしいでしょうか」
「はい、何ですか?」
「その、教主のモーゼスとはどの様な人物なのですか?」
「モーゼス教主様、ですか?」
「ええ。以前、イブリーヌ様は、モーゼス教主はかなりの野心家だと話していましたよね。出来れば、もう少し詳しく教えてほしいのです」
「あぁ、そういう事でしたら、わかりました」
そして、イブリーヌはモーゼス・ビショップという男について話し始めた。
「モーゼス教主様は、表向きは『良き教主』として、多くの信者達から絶大な人気を誇っているのですが……」
(ですが?)
「これはあくまで
(ええ、マジかよ)
「その他にも、教主の権力を悪用して、立場の弱い人達を虐げているとか、国の法律でも取り締まる事の出来ない悪質な行為にまで手を染めているというのです。そして、その最たるものが……」
「国王のウィルフレッド陛下を追い出して自分が王になろうと企んでいる……と?」
「(コクリ)」
そう頷いたイブリーヌを見て、春風は「マジですか」と言って右手で顔を覆った。
その後、春風は歩夢や水音達の方を向いて、
「あー、あのさ、みんなはモーゼス教主について何か知ってるかな?」
と尋ねた。
歩夢達は皆、
『うーん』
と考え込むと、
「そ、そういえば……」
と、彩織が口を開いた。
「シオちゃん、前に王宮でモーゼス教主さんに見られた時の事、覚えてる?」
と、彩織が隣にいる詩織にそう尋ねると、
「ああ、あの時か! うん、覚えてるよ」
「え、何? 何かあったの?」
春風がそう尋ねると、
「あのね、私達がまだ王国にいた頃、一度だけ教主さんに訓練を見られてたんだけど……」
「だけど?」
「……私とシオちゃんを見ていたその時の教主さんの顔、とても
「マジかよ!?」
「「(コクリ)」」
彩織と詩織がそう頷くと、
「あぁ、それなら……」
と、恵樹も何かを思い出したように声をあげた。
「俺達も教主さんに訓練を見られた事があったけど……」
「けど?」
「あの時の教主さん、すんごい『悪い顔』してたんだぁ」
「ホントに?」
「うんうん。あれ、絶対俺達の事『勇者』じゃなくて、『都合の良い駒』みたいに思ってる様な顔だった」
恵樹がそう話し終えると、歩夢も、水音も、鉄雄も、美羽も、同じ様な事を話した。
「……ええと、みんなの話を纏めると、それってつまり、モーゼス教主って人は、『物凄い嫌な奴』って事で良いのかな?」
『うん、そう』
そう即答した歩夢を前に、
「……そんな人がここに来るの?」
春風はガクリと項垂れて、
「すっごい嫌な予感しかしねぇ!」
と、その状態のままそう叫んだ。
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