73 冒険者ギルドにお邪魔します!


「……なんですの、この寂れた村は?」


 夕暮れ、オレンジ色に染まっているクラヴィス村を目にしたリアさんの第一声でした。


「リアさん、村ってどこもだいたいこんな感じですよ?」


「そうなのですか?」


 新鮮な驚きを見せるリアさん。


 クラヴィス村はレンガ作りの背の低い建物が多く、帝都のような巨大建築物はありません。


 帝都しか知らない方からするとギャップを感じるでしょう。


「最前線の要塞都市だったり、貿易が盛んな場所ならもう少し近代化が進んでいるけどね。村……それも辺境ともなれば、これくらいの規模になるのよ」


 シャルが説明を付け足してくれます。


 それを聞いて、セシルさんとミミアちゃんもキョロキョロと周囲を見渡しています。


「へえ、ビックリだね。田舎って感じ」


「私は案外、こっちの方が落ち着くかも。帝都より騒がしくない」


 ……ちなみにわたしの出身地はここよりもずっと田舎でしたけどね。


「それはいいとしてこれから宿を探すんでしょ?陽が暮れる前に決めとかないと」


 シャルが行動の指針を決めます。


「そうだね」「そうね」


 納得する二人でしたが……。


「いえ、その前より先に寄るべき場所がありますわ」


『えっ……?』


 皆が首を傾げる中、リアさんが先に進みます。


「どこに行くんですか?」


「冒険者ギルド、ですわ!」


        ◇◇◇


 その空間は、異様な空気に包まれていました。


 全身を鎧で覆っている、ワイルドな男性がひしめきあっています。


 何やら重々しい雰囲気で話す人達、お酒を飲んでいる人達、周囲を警戒するように睨んでいる人など多種多様です。


 とにかく、わたしたちみたいな年頃の女の子の姿なんて一切ありません。


「……あ、あの。ここで合ってるんですか?」


 とても、近寄っていい雰囲気には見えないのですが……。


「ええ、エメさんも入り口の看板を見たでしょう、間違いなくここが冒険者ギルドですわ」


「そうかもしれませんけど……みんなこっち見てませんか?」


 屈強な男の方達の視線が怖いのです。


 ちなみに、セシルさんとミミアちゃんは宿探し。


 リアさんとシャルとわたしで冒険者ギルドまで来たのです。


 ……ずんずんリアさんが進んで行くので、その理由は聞けないままでしたが。


 わたしも宿探し班に混ざれば良かったです。


「気にしなくても大丈夫ですわエメさん、後のことは私に任せて頂ける?」


 そう言うと、リアさんは意に介さず進んで行きます。


「……アイツが変なことしないか見ておくわ。あんたはここで見てていいわよ」


 シャルは出遅れたわたしを気遣うように声を掛けて、そのままリアさんを追うのでした。


 わたしは隅っこで待機することに。


 二人はどうやら受付に向かっているようで、カウンターの前には綺麗なお姉さんが立っています。


「ちょっと聞きたい事があるのですが、よろしいかしら?」


 突然現れたリアさんとシャルに、受付嬢のお姉さんは反応に困っている様子でした。


「えっと……君たち?ここは冒険者の方が来る場所で、子供が来る場所ではないのよ?興味があるのは結構だけど、危ないから早く戻りなさい」


 受付嬢のお姉さんは親しみと礼節をもって、ここから出るように催促しています。


 で、ですよねえ……。場違い感すごいですもんねわたし達。


「私は聞きたい事があると申しているのです、早くお答えなさい」


 ですがリアさんは一切動じず、そのまま学生証を提示しています。


 ……えっと、何の意味があるんでしょうか。ここ、冒険者ギルドですよね?


「え、魔法士の学生さん……?それもアルマン魔法学園の……バ、バルシュミューデ!?」


 急にお姉さんが血相を変えてしまいました。


 そしてその言葉をきっかけに明らかにこの一帯の空気がピリつき始めます。


「し、失礼しました!まさかこんな辺境の冒険者ギルドに魔法士の……それもバルシュミューデ家のご令嬢が来られるだなんて思わず……!!」


 お姉さんがペコペコと頭を下げています。


「分かりましたら、速やかにこの一帯に潜んでいる魔獣の種別や出没状況などをお答えなさい」


「は、はい!ただいま!」


 お姉さんは大慌てで資料を持ち出して説明を始めていました。


 これは一体、どういうことでしょうか?


「――いやあ、魔法士がこんな所に来るだなんて珍しいこともあるもんだな?」


 すると、背の低いおじさんがわたしにいきなり声を掛けてきました。


 ……ちょっと身構えましたが、他の人達よりも柔和で事情も把握していそうでしたので、尋ねてみることにします。


「あの……ここ冒険者ギルドですよね?普段もあのように関係ない人が来ても情報を教えてくれるものなんですか?」


「は?いやいや、まさか。ここの情報は冒険者が必死こいて搔き集めた情報だぜ?無償で教えるなんてしてたら商売あがったりだろ」


「……でも、教えてますよ?」


「お嬢ちゃん、何も知らねえんだな……。いいか、冒険者ギルドとは言ってもな、その大元は魔法士協会になってんだよ。だから魔法士やその学生相手には情報開示する義務があるんだ」


「そうなんですか……。ですがそれなら協会は魔法士でギルドを作るべきですよね?どうして冒険者の方にまで手を広げているんでしょうか?」


 何だか歪な構造に思えてなりません。


「そりゃお前、利権絡みに決まってるだろ」


「……?」


「あ、いや。お嬢ちゃんにそういう話は早いか。そうだな、ほら魔法士は人手が足りてないだろ?だからこういった田舎を襲ってくるような魔獣にまでは手が及ばないんだ、それを補完するために冒険者に仕事を与えてるってわけよ」


 なるほど……。


 人手不足を、外部の人を雇う事で解消しているわけですね。


 その仕組みづくりを魔法士協会がやってくれているみたいです。


「なるほど、理解しました。ありがとうございます!」


「いいってことよ。……ま、でもそれは向こうさんの都合で、俺達にとっては命懸けの仕事だからな。ああやってどこぞのお嬢様に我が物顔で成果を掠め取られるのは、いい気はしねえよ」


「……ごめんなさい」


「え?なんでお嬢ちゃんが謝るんだよ。俺が言ってんのはあの鼻持ちならねえお嬢様方に言ってるんだぜ?」


 ……え?あれ?


 もしかして、わたし、魔法士の学生だと思われてない感じですか?


「あ、あのですね、一応わたしも……」


「いやあ、魔法士の学生はボンボンが多いとは聞いていたが。見ろよあいつら、二人とも綺麗な身なりに高貴な顔立ちと佇まいしてやがる」


「ですから、わたしも……」


「あの金髪だけはちょっとかしこまっているようだが、品の良さが隠しきれてねえな。あいつも名家の生まれなんだろうよ」


「いえ、あの子はわたしの妹なんですけど……」


「は?おいおい、張り合いたい年頃なのは分かるけど相手は選べよ!お嬢ちゃんは明らかに田舎者だろ!?俺と同じ匂いがするぜ!」


 いい人かと思っていましたが、ちょっとだけ腹が立ちます!


 御三家令嬢はともかく、シャルは生まれも育ちもずっと一緒なんですけどっ!!


 なんでわたしだけそんな扱いなんですか!?


「分かりました。お手数をお掛けしましたわね」


「い、いえ!また何かありましたらいつでも仰ってください!」


 そうこうしている間に、情報収集は終わったみたいです。


 リアさんとシャルが踵を返して、出口へ向かおうとして――


「大層な身分だな、魔法士という奴らは」


 その前に大柄な男の方が立ちはだかっていたのです。


 それを見ていた隣のおじさんは声を漏らします。


「あーあ、運が悪かったな」


「誰なんですか、あの人?すごい怖そうですけど……」


「あー……。アイツはな……」


 おじさんが説明をするよりも早く、リアさんの声が響きます。


「どなたかは存じませんが、わざわざ行く手を阻むように立ち塞がるだなんて……冒険者の方は無作法が常識なのでしょうか?」


「そういうお前らこそ、我が物顔で冒険者ギルドに顔を出して情報だけ奪っていくなんざ盗人猛々しいな。魔法士が聞いて呆れるぜ」


「……今のは宣戦布告と受け取ってよろしいのかしら?」


「やれんのか、ガキ」


 ええっ!?


 なんでこんな一触即発の空気になってるんですか!?


「アイツはジークヴァルト、この村じゃ一番強いAランク冒険者だぜ」


 はいはい、ダメダメ!


 絶対止めますからね!!

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