55 リアさんとお近づきになりましょう!


 まずリアさんのことをよく知ることから始めればいいのですね。


  そうですか、そうですか。


 それでしたら、やれることをやるだけです。


「……エメさん」


「なんですか、リアさん」


「今、授業中ですが」


「はい。分かっていますよ」


 流石にわたしもそこまでおバカさんじゃありません。


「……いえ、なぜ授業中なのに私の隣に座っていらっしゃるのか、という質問なのですが」


「代わってもらいました」


 ミミアちゃんに相談したら、その人脈であっさりと席を代えて頂けました。


 わたしの席にはクラスメイトの女の子が座っています。


 さすがのコミュ力です。


「……いえ、それはそれで疑問ですが。重要なのはそこではなくてですね、なぜわざわざ私の隣にいる理由が分からないのですが?」


「リアさんのことをもっと知りたいからです」


「……なぜ?」


「リアさんの詳しく知って、お役に立ちたいのですっ」


 そして出来ればそのお礼に情報を教えてくれたら嬉しかったり……。


「絶対、邪な打算がおありですよね?」


 リアさんの目が懐疑的なのでした。


「ま、まま……まさか、そんなことないですよ」


「嘘が下手すぎますわね……」


 リアさんはぷいっと視線を教壇に戻します。


 黒板を見つめながらサラサラとノートを書き留めています。


 綺麗な字です。


 しばらくすると、ノートを取るのに髪が邪魔になったのか左耳に掻きあげます。


 白い素肌の首筋がとても綺麗です。


「……あのエメさん」


「はい、リアさん」


「こちらを見過ぎではなくて?」


「はい。リアさんの字が、とても綺麗なことに驚きました」


「本当に見過ぎていますわね!?」


「耳に髪をかける仕草も素敵でした」


「どこを見ていますのっ!?」


 リアさんが慌てふためいています。


「おい、リア。ちょっとうるさいぞ」


「私が悪いんですの!?」


 リアさんが先生に注意されています。


 ざ、罪悪感が……。


「ごめんなさいリアさん、わたしのせいですよね……」


「だ、だいたい……先生も席を変えている生徒の方をまず注意するべきでしょうに」


 反論の余地なしの正論を言うリアさん。


 それでも先生に言わないでいてくれたのは、きっとリアさんの優しさでしょう。


        ◇◇◇


 休み時間。


 リアさんが席を立ったので、わたしも席を立ちます。


「……杞憂であって欲しいのですが、付いて来るおつもり?」


「はい、お供します」


「け、結構です……」


「いえいえ、遠慮なさらず」


「遠慮ではないです。純粋に来て欲しくないのです」


「何かあってからじゃ困りますよ?」


「貴女がそのにしか感じられないのですが……」


 リアさんは完全拒否の姿勢を示していました。


「気にしないで下さい。わたしはいないものと思って大丈夫です」


「気になりますわよ!無理があるでしょうに!」


「そうですか?リアさんの方こそ、どこに行きたいんですか?」


「……お花を摘みに参りますのよ……」


 リアさんは何だか気恥ずかしそうに言い淀みながら話すのでした。


 そんな姿を見せられては、わたしもついて行くことは出来ません。


        ◇◇◇


 魔法実技の時間です。


 ガーデンに集合し、ヘルマン先生が授業の説明をします。


「はい、進級試験も近いから実技どんどん増やしていくからね。皆だいぶ成長したので今日から第2エリアでの低級魔獣の駆除を頑張ってもらうよ」


 魔獣、その言葉にクラスメイトに緊張感が走ります。


「魔獣といっても猪突猛進で知能が低めの魔獣、エヴィルボアだ。皆には二人一組になってもらって、コレを駆除してもらう」


「お、おい……なんだか急に実践的だぞ」


「魔獣に殺されたりとかしないよな……?」


 不安に煽られていく生徒達。


「安心して皆の今の実力なら大丈夫。片方が防御魔法でエヴィルボアの突撃を受け、もう片方が攻撃魔法を展開すれば確実に倒せる敵だから」


 確かに、それならば確実でしょう。


 以前、リアさんと迷い込んだ時に戦いましたので容易に想像がつきました。


「リアさん、一緒にやりましょう!」


「エメさん!?今日はどこまでついてくるつもりですのっ!?」


 しぶとく追いかけるわたしにリアさんは目を瞬かせます。


「お、おい……ラピス、今日リア様を追いかけ過ぎじゃない?」


「あれだけセシル様と仲良くやってたのに。もう乗り換え?」


「尻軽女ってことよ」


「セシル様もお可哀想に……あんな女と付き合ったばかりに……」


 ん?


 なんだか周囲の人から変な誤解を受けているよな……。


 そんな疑問を抱いている内に、ヘルマン先生が更に声を上げます。


「間違っても第3エリアとかに入らないようにしてね。この前、なぜか結界が破壊されたから、上級魔法を使わないと絶対突破できない仕様にグレードアップしといたからさすがにないとは思うけど!」


 じーっと、こちらを見つめてくるヘルマン先生。


 魔石探しの授業の際、リアさんが結界を破壊して第2エリアに侵入した時のことを言っているのでしょう。


「ノルマは一体でいいよ、それじゃあはじめ!」


 全員でガーデンの奥へと足を踏み入れます。





「エメさん、こちらへ」


「え、あ、はい」


 第2エリアに入り、比較的みんな固まって行動していたのですが、リアさんだけが更に奥へと進んで行きます。


 何か目的でもあるのでしょうか。


 しばらく歩くと、開けた場所に出ます。


「ここら辺でいいですかね……」


 リアさんが振り向きます。


「エメさん、貴方の気持ちは伝わりました。ゲヘナのことを言わない限り、ずっと私に付き纏うつもりですわね」


「え……?」


 微妙に違います。


 リアさんのことを知り、苦手な部分を助けてあげる事で好感度を上昇。仲良くなったことで教えてもらえるようにならないかな?という作戦だったのですが。


「とぼけるのは結構です。野次馬根性ではなく、何か事情がおありなのは感じ取れました。ですから貴女の気持ちに報いてあげましょう」


「え、それって……!」


 教えてくれるってことですかっ!?


「ただし、実力を示してください」


「……実力?」


「はい。私もそう安々と口を割るわけにはいきません。ですからこれから魔法士らしく勝負しましょう。エメさんが私に勝てば教えて差し上げます、負ければ金輪際この話はなし、付き纏うのやめて頂きます」


 なんだか思ってもいないバトル展開になってしまいましたが……。


 これはチャンスです。


「いいんですね?わたしが勝ったら教えてもらいますからね?」


 リアさんの周囲にある大気が熱くなっていきます。


「エメさんの方こそお忘れかしら。これでも私、第2位のステラでしてよ?」


 わたしはそれに対抗するように魔力を体に通していくのでした。

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