40 皆で仲良くしましょうね!


【セリーヌ視点】


 私の前には手足を鉄の枷で嵌めて、椅子の上に座っている者がいる。


 男の名はゲオルグ・バルシュタイン。


 魔法士を目指す学園の生徒でありながら、魔族に肩入れををする組織に身を置く不届き者だ。


 けれど、同時にこれはチャンスでもある。


 ゲヘナは外部に情報を滅多に漏らさない。それだけ統率のとれた集団だと思っていたのだけれど、今回は甘かった。


 ゲオルグはその力を過信し、その尻尾を出したのだから。


「お話をする気にはなりましたか?ゲオルグ」


「だ、誰がお前らなんかに口を割るかよ……!」


「あらあら、往生際が悪いのですね。これ以上粘った所で貴方に何が出来るのでしょうか。大人しく話した方が身のためですよ」


 ゲオルグはそれでも反抗的な眼光を崩さない。


「へっ、何も命までは取られねえだろ。これくらいどうってことないぜ」


 ゲオルグに嵌めている手と足枷には魔石が埋め込まれている。魔石はその種類によって効果は様々だが、これは魔力を吸収するもの。


 よってゲオルグの魔力は徐々に枯渇していく。


「魔力を失ってしまえば貴方はただの人、頼みの綱だった魔獣もいない。往生際を考える事ですね」


「くそっ……!あのラピスさえいなければ……!」


 悔しがるゲオルグ、しかしその発言には一つ違和感があります。


「ラピス……?エメ・フラヴィニーさんのことですか?」


「ああ?アイツそういう名前だったのか……ミミアと一緒にいたクソ女がっ!」


「腑に落ちませんね。貴方が従えた魔獣を倒したのはミミアさんでは……?」


「けっ、それならどれほど良かったことか。ミミアなら俺の力でどうにでも出来たのに……。あの化け物さえいなければ……!」


 ……どうにも要領が掴めません。


 彼と彼女の言っていたことには矛盾が生じています。


「洞窟で起きた事、そしてゲヘナの目的と貴方の役目を正直に話してみてください」


「はあ?寝ぼけてんのかセリーヌ、俺がそんなことを口にするわけないだろうが。どうせ俺には大したことは出来ないんだろ?テキトーに終わらせてもらうぜ」


「……なるほど、どうやら貴方はご自身の立場が分かっていないようですね」


 その短絡さがステラの四位止まりの理由……そして魔族に手を借りるなどという卑劣な方法に頼ることになる原因だと分からないのだろうか。


「いいですか、貴方がゲヘナに所属していることを公の場に公表してもいいのですよ?そうなれば……貴方の家、バルシュタイン家はどうなるでしょうね?」


 バルシュタイン家は代々優秀な魔法士を輩出し、彼の父親も魔法協会の重役を担っている。その息子がゲヘナに所属していると明らかになれば、権力闘争が激しい協会のことだ、彼の父はすぐに失脚するだろう。


 そうなれば、彼とてこのアルマン魔法学園にいることは難しい。魔法士になることは当然無理だろう。世間からは嘲笑の的となり、どう考えても明るい未来など待っていない。


「てっ……てめぇ、脅す気か!?」


「脅す?貴方が自身で犯した罪を明らかにすることが脅すことになるだなんて、初めて知りました」


 そこで初めてゲオルグの表情が曇ります。


 これだけ言えば、自分がどれだけ愚かな行為に走ったのか理解できるでしょう。


「これは交換条件です。貴方が知っている事の詳細を全て話し、今後は私の管理下の中で学園生活を送るという条件でしたら、今回の件は不問にしてあげましょう」


「んな……くそっ……!」


「すぐに答えを出すのは難しいですか?それならば時間を与えましょう、明日またここに来ます。それまでには答えを出しておいてください」


 ゲオルグはそのまま椅子に座らせ、部屋を後にします。


        ◇◇◇


【エメ視点】


 「……そういうことで、突然魔法を使えるようになってね?ゲオルグさんの魔獣をどうにか打倒できたってわけですよ」


 シャルが何があったのかとしきりに聞いて来るので、洞窟から出る道中の間に事の経緯を話すのでした。


「へえ……つまりミミアが変なことしてゲオルグとかいう男に狙われなかったら、あんたも巻き込まれることなかったのよね?つまりミミアのせいってことでいいかしら?」


 すっごい鋭い視線でミミアちゃんを睨みつけるシャル……。


 どうしてそんなに敵意剥き出しなのですか……。


「それはあんまりだよーシャルちゃん。ミミアだって迷惑してたんだから」


「シャルちゃん言うな」


「じゃあ……シャル?」


「よし、そこで歯を食いしばりなさい」


 急にミミアちゃん相手に腕を振る準備運動を始めるシャル。


「ちょーちょちょっと!シャル落ち着いて!」


 なぜそこが沸点なのですか我が妹……。


「エメちゃんと違ってシャルちゃんは怖いんだね?」


「あんたみたいに八方美人してるよりマシでしょ」


「ミミアはこれが普通だよ?むしろシャルちゃんはツンケンしすぎじゃない?」


「わたしもこれが普通よ」


 二人ともバチバチ火花散らすのはやめましょう……。


 辛辣な空気感を感じて凄いんですが……。


「とにかく!ミミアといるとゲオルグみたいな奴に巻き込まれたりするから、そいつからは離れなさい!」


 ぐいっ!


 と、わたしの腕を引っ張るシャル。


 め、珍しい……!シャルからわたしに触ってくるなんて珍しいですよ……!?


「ええ~?それってミミアじゃなくてゲオルグが悪いだけだから。それにそうやって引っ付くのダメだって言ってたの誰だっけ?」


 ぐいっ!


 今度は反対の腕をミミアちゃんが引っ張ります。


 な、なんと……シャルとミミアちゃんがわたしを取り合う形に!?


「ミミア、こいつから手を離しなさいよ……!」


「シャルちゃんの方こそ離したら……?」


 ――ミシミシ


 うぐっ……い、痛いっ。


 両腕が左右に引っ張られて痛いのですが……!


「ふ、二人とも、ちょっとわたしの腕がっ……!」


 するとエンジンのついたシャルの目に炎が灯ります……!


 い、嫌な予感……!


「あんたの方こそハッキリしなさいよ!どうしたいのよ!?」


「ど、どうって……!?」


 なぜ、わたしが煮え切らないみたいに言われているんですか!?


「そうだよエメちゃん!さっきからずっと黙ってて良くないよ!ミミアとシャルちゃん、どっちの味方なの!?」


「ど、どっちがどうとか……そういう話では……!」


 ――ミシミシ


 う、腕が千切れる……!


「ほら、早く決めないと腕おかしくなるわよ!?」


「エメちゃん自分で動かないでずっと中間にいるから腕が痛むんだよ!?味方だと思う方に抱き着けばいいんだから!」


 た、試されてます……!


 全く意味は分かりませんが、なぜかわたしは二人に試されています!


 ですが、わたしはどちらに肩入れをするつもりはありません。だって二人とも大切な人ですからっ。


 ですがこのままでは腕がおかしくなっちゃうのは確かですので……かくなる上は……!


駆動ドライブ……力強化ストレングスアグメント!!」


 両腕に魔力を集中させます!


 そのまま腕を寄せて……!


「あんた、ちょっとそれ……!」


「エメちゃん、力強すぎない!?」


 離そうとするのなら、近づけてしまえばいい。


 わたしは魔術で腕の力を強化し、二人ごと抱き寄せてしまうのでした。


「……」


「……」


「……え、あの。二人とも?」


 どうして急に黙るのですか?


 あ、あれ……心なしか、抱き寄せた二人の体温が熱く……?


「いきなり抱きしめないでよ!!」


「シャルがいきなり腕を引っ張るからだよ!?」


 シャル理不尽!


「もーっ、エメちゃん大胆!やっぱりミミアのこと狙ってるんでしょ?」


「ですから、ミミアちゃんが腕を引っ張るからですよ!?」


 ミミアちゃんは意味が分かりません!


 そして、結局この二人は何を言い争っていたのでしょうか?


 よく分からないのです。

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