39 反魔法士組織ってなんですか!?
「ゲヘナって……何ですか?」
聞き慣れない単語でしたので、セリーヌさんに質問してみます。
「ミミアさんが言っていたように、ゲヘナは反魔法士組織……要するに魔法士を良く思っていない団体です。現状この国はルドルフ・クラルヴァイン皇帝の政策によってその権力のほとんどが魔法士に集中しています。それを快く思っていない者は多いのです」
「でも、そんな組織がどうしてこの学園に……?」
「今回の目的は魔法協会に大きな発言力を有している御三家令嬢達の捕獲・もしくは殺害によってゲヘナの脅威を知らしめること、魔法士育成機関への警告、御三家の権力失墜などを画策していたのかもしれません。……これは憶測ですので、確実ではありませんが……」
セリーヌさんは足元に転がるゲオルグさんの体に足を乗せて踏みつけます。
「ぐふっ」
意識を失っても痛みに声を漏らすゲオルグさん。
「全ては彼に聞けばいいだけのことです。洗いざらい吐いてもらいます」
「ええっと……セリーヌさんがそれをするんですか?先生ではなくて?」
「ええ。生徒会執行部は生徒の取り締まりを許可されています」
「物凄い権力を持っているんですね……」
それってある意味先生より権力を有しているってことでは……。
「この学園は特別なのです。ミミアさんのような御三家と称されるようなこの国の中枢を担うような家柄が集う場所なのですよ?そんな権力が横行しているのに、先生方が生徒全員を平等に扱えると思いますか?」
「あはは……耳が痛いです。ミミアはそんなつもりはないんですど……」
「大人の人たちにはどうしたって権力や力関係が働きますから。それをなるべく排除できるように学園内独自に力を持たせてくれているのがこの生徒会執行部です。ですから、ゲオルグは私が責任をもって対処し、ゲヘナに関して調査し報告しようと思います」
な、なるほど……。
それはとても大変そうなお仕事なのと同時に、ミミアさんがセリーヌさんの前では背を正す気持ちが分かりました。
セリーヌさんを怒らせたら大変なことになりそうなのです……実力的にも、権力的にも。
「魔法士を恨む組織は多くあれど、ゲヘナはその中でも悪質です。彼らは事もあろうに魔族と手を結んでいるのですから」
「それでゲオルグさんは魔獣を従えていたんですか……?」
「恐らく。魔法士としての力を持ちながら魔族に加担するなど情状酌量の余地もありません、その名の如く
ああ……怖い、とっても怖い笑顔を浮かべていますよセリーヌさんっ!
「あ、それと一つ気になるのですが……この魔獣を倒したのは一体誰ですか?見た所かなり手強そうな相手ですが……」
「あ、それはエメちゃんが……ふがっ!!」
ミミアちゃんが全てを話す勢いだったので、咄嗟に手でミミアちゃんの口に蓋をします。
「ミミアちゃんと二人で協力したんです!最終的に魔獣の魔法をミミアちゃんの防御魔法で跳ね返して自滅させたんです」
「ふが、ふがふがっ!?」
ミミアちゃんは何か言いたげですが、今はダメです。
「なるほど……この風穴はそれによるものですか。さすがは一年生とは言えステラのミミアさんです。見事な魔法を展開されたのですね」
「ふががっ?!」
「そうなんですっ!ミミアちゃんとっても優秀なので!」
何か言おうとしているミミアちゃんですが離しません。
「分かりました。後の事は私に任せて、お二人は戻って頂いて構いませんよ。ヘルマン先生にはお二人の活躍のお陰だと私からも言っておきますね」
「はい!ありがとうございますっ!」
そうしてゲオルグさんが起こした事件は死傷者を出さずに終えたのです。
◇◇◇
「ふがががっ!!」
「あっ、ごめんなさい!」
そのまま洞窟を出ようとすると、ミミアちゃんがわたしの腕をタップしてきました。
「はぁはぁ……ち、窒息するとこだよ……」
「つい……必死だったので、本当にごめんなさい!」
「それはいいんだけどさ、何でミミアの手柄みたいにしちゃったの?ほとんどエメちゃんの力だったよね?」
「いえ、その……わたしの力はなるべく秘密にしたいので……」
「ああ!さっきのアレは何だったの!?凄かったよね!?」
見られてしまった以上はもう説明するしかありません。
「――というわけです」
「へえ!それで魔法も複製できるようになっちゃんだ!凄いね!」
「あ、まあ……そうみたいですけど。アレはたまたまだったのかもしれません」
フェンリルの魔法は分かったのに、ゲオルグさんの魔法はよく分からなかったのですから。
「ふうん、でも分かったよ。エメちゃんがそこまで言うなら秘密にしておくから安心してねっ!」
「いいんですか?」
「うんっ。助けてもらったし、これくらい当たり前だよ」
「ありがとうございます!」
ミミアちゃんも理解ある方で助かりました!
「ん~……んふふふ……」
「え、あれ、ミミアちゃん?」
ぴたりと体を寄せて、腕を絡めてくるミミアちゃん。
密着度が凄いのです。
「足元が暗くて危ないでしょ?だからこうして身を寄せ合った方がいいと思うの」
「えっと、ではもっと炎を強めればいいのでは……?」
「それがね、さっきの戦いで魔力をほとんど使ったからこれが限界なの」
そう言いながらニコニコ笑顔なのは何故でしょうか……。
「その割にはミミアちゃんまだ元気な気がするのですが……」
「それはね、エメちゃんが素敵だったからだよ?」
すりすり、と今度はわたしの肩にミミアちゃんが頭を乗せてきます……!
ああっ!美少女の、美少女の香りがします……!
「わっ、わたしがですか……?」
「うん、ミミアの力じゃあんな魔獣は倒せなかったよ。エメちゃんはまるで颯爽と現れる王子様みたいだね」
「お、王子様……?」
そう思っていただけるのは嬉しいですが、王子様っていうのはちょっと大げさな……。
例え話しなのは分かっていますが、性別も違いますし……。
「うん、エメちゃんはミミアの王子様。きらきらと、その金色の髪が輝いて見えるね……」
さらり、とミミアちゃんはわたしの髪に触れます。
どうするつもりですか!?わたしをどうするつもりなんですか……ミミアちゃん……?!
「こっちは一生懸命走り回って声掛けてたっていうのに……あんた達は何してんのよ……」
あ、あれ……?
何やら洞窟の奥から怖い声が……。
「なんかこわーい、エメちゃん助けて?」
そう言いながら更にぎゅっとわたしに抱き着いてくるミミアちゃん。
「ちょっとミミア!あんた何してんのよっ……!」
現れたのはシャルでした。
避難を済ませ、わたし達を探しに来てくれたのでしょう。
「何って、怖くて体もボロボロだから身を寄せ合ってるだけだけどー?」
「もういいでしょ!離れなさいよ!」
「なんでそんなムキになるの?別にミミアが誰とくっつこうと勝手じゃない?ねー、エメちゃん?」
「うえっ!?あの、そのっ……!」
ま、まあ……決して悪い気はしませんが……。
辛い戦いが終わった後なのでホッとしますし……。
「え、なに?あんたそういう趣味あったわけ……?」
ただ、シャルの血走った目が異常に怖いのです!
「あわわわ、これは、その……」
「ええ?女の子同士で抱き合うなんて普通だよねぇ?むしろこれくらいでそんなこと言い出すなんて、妹ちゃんの方こそ……そういう気があるんじゃないの?」
「はっ、はあ!?ふっ、フザけたこと言わないでよっ!!」
さ、さすがミミアちゃん……シャルの煽りを物ともしません。
で、ですが……。
「そうですよミミアちゃん、シャルは普通のいい子なんです。女の子を好きになったりとか、そんなことは絶対しないので安心してください」
「うぐっ……!!」
「そうだよね、シャル?」
「そ、そうよ……だからそういうの見せられるのが我慢ならないだけ……。は、早く離れなさい……」
うん、よっぽどそういうのを連想するのが嫌だったのでしょう。
シャルは急にげっそりしてしまうのです。
「ちぇっ、残念だなぁ」
ミミアちゃんはそうして体を離します。
「それじゃ、帰ろっか?」
てくてくと歩き出すミミアちゃん。
足元を照らす炎が急に大きくなったように見えるのは、多分気のせいですよね……?
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