07 補習を受けるわたしは課題だらけです!
放課後になりました。
「……」
「……」
わたしは今、広い広い第一演習室でヘルマン先生と二人で向かい合っています。
理由は単純明快でわたしが魔法を使えないことによる補習です。
沈黙を破ったのは先生の方からでした。
「悲報」
「はい」
「ロウソクの火、魔法で消せなかったのお前だけな件について」
「ショックです!!」
わたしの悲痛な叫び声が虚しく演習室に響きます。
先生はそんなわたしを憐れむような目で見ています。
やめて下さい、そんな目で見るのはやめて下さい。
「ま、分かってたけどね。明らかに魔法使えないの君だけだから」
「そうでしたか……」
皆さん最初は課題の難易度の高さに驚いてるようでしたが、そこはやはりアルマン魔法学園の生徒さんたち。
容易くとはいかないまでも、数回繰り返せば何とか出来てしまうのでした。
「まあ、魔法教会で定められているカリキュラム通りであれば、一年生は初級魔法の基礎の習得期間とされてるから本来は問題ないんだけどね。ここが異常なだけで」
「そ、そうですよね!わたし普通ですよねっ!」
「いや、他所でいう普通だと、ウチは合格出来ないはずなんだけどね?」
「でも合格しました!」
「ラピスだけどね?」
「はいっ!」
「そんな力強く答える場面じゃないんだが……」
ヘルマン先生は困ったように頭を掻きます。
「どうやってここ合格したの?賄賂?裏口入学?」
「そんな失礼なこと言わないで下さい!わたしちゃんと試験を受けて合格しました!」
魔法学園の入学試験には筆記と実技の2つがあります。
アルマン魔法学園では筆記試験の点数が高いのは当たり前で、それプラスで実技試験がかなり重要と言われています。
いくら筆記試験が良くても、実技が伴わなければ合格出来ないんだとか。
ちなみに、わたし筆記試験はボーダーラインギリギリらしかったですが……あはは。
「……学園長、どういう審査基準だったんだろ」
そして、その実技試験を担当するのがこのアルマン魔法学園のトップ、“ディートフリート・アルマン”学園長なのです。
白髪、白髭のダンディズム溢れるおじ様でした。
「ダメですよ。試験内容は口外しないよう言われていますので……」
「入試対策されないようにね。教員なんだから分かってるって」
学園長は魔法士としてもトップレベルらしく、口外がバレたらとんでもない目に遭うのだとか……。
地位も実力もある方ですから、皆さん恐れて滅多なことは致しません。
「はあ……まあいいや。学園長が認めたんだから、素質はあるんだろうさ。俺は君を信じて指導するだけだよ」
「はい!お願いします!」
「返事がよくて何より。それじゃ君の問題点なんだけど、“魔力と五代元素の混合”は問題ないね?」
「はい、そこまではちゃんと出来ます」
魔法を行使するにあたっての工程は大きく3つとされています。
一、魔力の抽出
二、魔力と五代元素の混合
三、魔法の展開
この中には更に細分化された工程があるのですが、それは今はいいとして。
とにかくわたしはこの三工程目に問題を要していました。
「そこまで出来るならもうちょっとの筈なんだけど、どこでエラーが起きてるんだろうね……。一回、魔法を使ってみてくれない?」
「わかりました」
体内に宿る魔力を集めます……そこから大気にある五大元素と合わせていくのですが……。
「……っ!?先生!!」
「うおっ、なに、いきなりっ」
「大変申し上げ憎いのですが……」
「ん、なに?出来ないのを見せるのが恥ずかしいってタイプでもないでしょ?」
いえ、かなり恥ずかしいですよ。
わたしだって出来ない所をホイホイ見せたいわけじゃありません。
ですが、それとは別の問題がですね……。
「魔力切れです」
「え?」
「魔力が底をついてます」
「ウソでしょ?」
「本当です。さきほどの魔法実技の授業で全部使い切っていたようです」
ヘルマン先生は腕を組んで、うーんと唸ってしまいました。
「……この時間なんだったの?」
ごめんなさい。
◇◇◇
「はあ……せっかく先生から指導を受けられるタイミングだったのに逃してしまいました」
夕焼けに染まる廊下を一人歩きます。
魔力がないのでは魔法の実技などやりようがありません。
『うんっ、というか周りには優秀な生徒がいるんだし。そっちに直接教わった方がいいんじゃないかな!』
『えっ、先生の指導はなしですかっ!?』
『授業では勿論教えるけどさっ。ただ、魔法って感覚的な部分も多いだろ?感性が近い同世代の方が案外伝わりやすかったりするんだよね!』
『な、なるほど……』
『どうしてもヤバくなったらまた改めて俺に声掛けて!!』
と、いった具合で補習は終了したのでした。
半ば放置されたような気がしないでもないですが、言っている事は理に適っています。
授業で分からなかった部分は友達同士で補完し合うと理解しやすいと聞いたことがありますしね。
わたしもそれに習って……って、ちょっと待って下さい。
「ですから、わたしにはその友達がいないんですってばっ!!」
堂々巡りのこの悩み!
何がどうしても、この問題に立ち返って来てしまいます!!
「くっ……かくなる上は……!」
この問題を解決するには、あの手しかありません……!
わたしは早足で学園を後にするのでした。
「シャル、魔法を教えて!!」
「ムリッ!」
「悩む余地なしっ!?」
帰宅と同時にシャルにお願いしてみましたが、秒で拒否されました。
「ていうか何よいまさら。昔何回か教えたことあったけど、あんたわたしの説明じゃ一回も理解できなかったじゃない」
「だってシャルの説明って“魔力と炎でガーッ”とか、“魔法になったらドンッ!”みたいなアバウトすぎる説明だったから……」
シャルは魔法に関しては感覚派すぎて説明になるとかなり大雑把になってしまうのです。
「なら、また改めて聞いても同じでしょ」
「だからもっとわたしにも分かるように説明を……」
「ムーリ。わたし、今でも同じようにしか言えない」
「そんなぁ……」
最後の希望も、あえなく散ってしまいました。
「ていうかさ、あんまり言いたくないけど。あんた魔法使えるようになるの?」
「いや、だからその努力を……」
「でも、師匠に教わっても出来なかったじゃない」
シャルの言う師匠とは、わたし達の恩師“イリーネ・アナスタシア”という女性の魔法士のことです。
幼少期、わたしたちが住んでいた村は魔族に教われました。そんな絶体絶命の時に現れたのが彼女でした。
村も人もほとんど失ってしまいましたが。わたしとシャル、それにパパとママは生き残ることが出来たのです。
返しきれないほど一生の恩を感じています。
その後、わたしたちは一年だけイリーネに魔法を教わったのです。
結果は……ご覧の通りですけどね。
とにかく、それがきっかけでわたしとシャルは魔法士を志しました。
そして今年から田舎を出て、アルマン魔法学園のあるここ“帝都クラルヴァイン”で二人暮らしを始めたのです。
「ん?あれ、ていうか今日ヘルマン先生の補習あったんじゃないの?」
「それが魔力切れでダメだったの。そうしたら感覚が近い同性代の友達に教わった方がいいんじゃないか……って」
「ああ……」
シャルの目が遠くなりました。
察してしまったようです。
「ねー?だからもうわたしにはシャルしかいないのだぁーっ」
最後の頼みの綱、シャルに懇願するようにわたしは腰元に抱き着きます。
「ひゃあっ!?」
あれ、なんか思ったより色っぽい声……?
「ちょっ、ちょっと、くっ付くな……!!」
と、思いましたがかなり力づくで剥がされようとしています!
「放さないっ!わたしは教えてくれるまで放さないよっ!!」
「そんなに教えて欲しいなら友達作ればいいじゃない……!!」
「じゃあ紹介してよっ!わたしに友達作らせてよっ!」
「あんた一応、姉だよねっ!?妹にそんなお願いして恥ずかしくないわけ!?」
「魔法学園で一人だけ魔法使えない恥ずかしさに比べたらこんなのちっぽけだよ!!」
「……妙に説得力あること言わないで欲しいわね」
あ、それはそれで悲しい。
自分で言っといて何ですけど。
「だいたいね。紹介されたような浅い関係なんて、お互い遠慮しちゃって分かりやすくなるはずないでしょ」
「た、たしかに……」
「それにわたしはトップを目指してるんだから、敵に塩を送るような真似はしないのっ!」
「えぇ……わたしがシャルに敵うわけないんだからそこは優しくしてくれても……」
「ダメっ!絶対あんたには魔法に関わることは優しくしない!」
むぅ……理由が全然分かりませんが、シャルは魔法関連になると途端に厳しくなります。
何か理由があるようですが、教えてくれません。
わたしは諦めてシャルの腰から離れます。
「わかった!シャルの言う通りだねっ!」
「納得したようね」
「うんっ!わたしはまず、友達作りから始めようっ!!」
「……」
「え、なんか変!?」
「いや、合ってると思うけど。言葉にするとイタイなって……よく言えるね」
シャルの目がまた遠くなってしまうのでした。
こ、こっちを見て……。
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