高跳びリープ

ぴーふろ

第1話

高跳びリープ



親友に声をかけても口を聞いてくれない


わたしはあの子に絵を褒められるのが好きだったのに…


あの子はもうこちらに気づいてすらくれない


1週間が経ち彼女をつけてみることにした

帰りに彼女は交差点に寄る。


交差点にはひっそりと花瓶と花が添えてあった

泣き崩れる彼女


そうだ思い出した。


わたしはここで死んだのだ


陸上大会予選の日、彼女が飛べなかった高さをわたしは飛んだ。

彼女と一緒に帰ったが彼女は口を聞いてくれなかった。

声をかけようとすると彼女は


ごめん今日は先に帰る。


とだけ言い残し走っていった。

わたしは彼女を走って追いかけ

トラックに撥ねられて死んだのだった。


彼女はどれだけ責任を感じているだろう。

わたしが死んだことで彼女に苦しみを与えてしまっていることが本当に苦しい。


だがこの体は見られることもなく、物にも触れず、声も出せない。

今の彼女にわたしが声をかけられればどんなことでもする。

そう思った時、わたしはまだ一つだけ試していないことを思い出した。

誰かの体を借りること。

思った時には魂は動いていた。

たまたま近くを歩いていた若い男の人の体にわたしの魂は飛んでいった。

視界が少し高くなった。瞬間確信した。

わたしはどんな形でも彼女に伝えたかった。

わたしは彼女のことを恨んでなんかいない。

生きている間わたしはあなたのことが大好きだった。

感じたことのない速さで走り出したわたしの体は思っていた以上に早く彼女の元に辿り着いた。

彼女を抱きしめわたしは

















彼は捕まってしまった。

わたしは何も考えていなかった。

1人の人生を台無しにし、彼女にはさらなるトラウマを植えつけてしまった。


わたしはせめて、わたしのせいで無実の罪を被ってしまったあの人を助けなければと思った。









君の指紋も、君が叫んだ時にでた唾液からDNAも出てきている。間違いないよ。


…そうですか。

せめて彼女からの話を具体的に


…すみません、何でもありません


おれが突如抱きしめてしまった彼女は親友を失ったかつての場所で苦しんでいた。そこに急におれが走って現れ、傷心している彼女を抱きしめたという。


だがその間おれの意識はない。

そういう能力を持った人間の仕業なら一刻も早くそいつの正体を突き止めなければならない。


この後、刑務所に行き独房でタイムスリープするのは簡単だが、敵の認識ができてない以上、同じ手を喰らう可能性もある。こちらの切り札を使う前に敵の正体は何としても突き止めなければならない。そのためには少しでも多くの情報が必要だ。


だが、


考えれば考えるほど敵の目的がわからない。

なぜおれの体を使って女子高生に抱きついた?

どこでおれに目をつけた。

そしてなぜ拘束し監禁という手段にこだわったのか。


そんなことを考えだんまりを決め込んでいるうちにおれは独房に入れられた。

裁判まで残り12時間。猶予はない。おれは切り札を使うことにした。

















あの人は独房で何かを考え込んでいた。

冤罪なのだから当たり前だ。

この後、裁判を受け、何もわからないまま刑務所に入れられるのはあまりに申し訳ない。

わたしはもう一度だけ、あの人の体を借りることにした。

体を借り

対話できないかどうかを試したかった。

















刑務所じゃない

いきなり郊外に出た。

どうゆうこと?

わたしは辺りを見回す。

彼の体を借りただけなのに、なぜ辺り一面の視界まで変わっているのだろう。

本当に彼の体か?わたしは近くにあったトイレに駆け込み自分の姿を確かめる。

間違いない彼の身体だ。

なら一体どうゆうことなのだろう。

鏡の前でしばらく考え込んでいると、警察官の人が怪訝そうにわたしを見ていた。


やってしまった。


わたしはすぐに彼の体から飛び出た。

今度の彼はすごく焦っていた。

それもそうだ、彼には強制わいせつ罪もある。

その上彼はどういう手段を使ったかわからないが脱獄している。その上での建造物侵入罪だ。

彼の人生はもう取り返しがつかないかもしれない。

彼はまた独房に入れられていた。










敵の正体がわからないまま、2度目の攻撃を受けていた。今までにこんなことはなく。全てが初めてのことだった。

なにより1番の問題はタイムリープした世界線で攻撃を受けたこと。

正体が分からず一方的に攻撃を受け続ける。

これほど恐ろしいことはない。

敵は間違いなくおれを敵として認識し、監視し、確実に拘束しようとしてきている。

だがけして、何かを要求するわけでもなく、ただそこにある恐怖として、おれに相対している。

今回は軽い罪で済んだが、そのせいでますます敵の目的がわからなくなった。おれを一定の時間拘束することが問題なのか?

つまりこの時期のこの場所におれがいるせいで敵にとって何か不都合があるということか…

そう考え、おれはもう一度、タイムリープをした。

















驚いた。幽霊になっても腰が抜けることがあるとは思わなかった。

彼は突然消えてしまった。

しばらくして所内は大騒ぎになり、事件にまでなり、TVでも特番を組まれ放送された。

だけど1番驚いたことは現在の時間が2週間ほど遡っているということ。

そこから答えを出すことに時間は掛からなかった。彼は時を戻すことができる人間だった。

わたしは実体のない体で走って自分の元まで向かった。

幸い、学校からは近く走ってでもたどり着くことができた。

そこにはわたしと彼女がいた。

彼女の笑った顔を見るのがとても久しぶりだった。わたしはその場で倒れ込んでしまった。

よかった。ただよかった。それしか思えなかった。

不安はあったがわたしはわたしの体に飛び移った。

時を超えたわたしの幽体はバグのようなものだったのかわたしは、さっきまで彼女とそこにいたわたしとの記憶が混じり合い、完全に一つの私となった。彼女と話せることがこんなにも幸せだったんだと改めて思う。

そして何の因果か明日は陸上大会予選の日だった。








大会当日。

私は以前より大きくそして高く悔いを残さずに飛んだ。

















ねえまってよ!!!!

私ユリの考えてることわかるよ!!!

私のこと見下してたんでしょ!!!!!!


違う!!!!!!!


違くない!!!!

ユリってプライド高いもんね!!

いつも馬鹿にしてる私に記録抜かれて悔しいんでしょ!!!

はっきり言ってよ!!!


違うの!!

だってアキラには

絵もあるじゃない。

そんなのずるいよ。


わたしは絵で勝てないから諦めたの。

諦めて陸上に全部ぶつけたの。

なのにそれでも負けたら、もう

何もないじゃん。


ッパァァァァン


はぁ!!

なにそれ!それがユリの言い訳?!

違うでしょ!!

ユリ最近彼氏ができて全然練習来てなかったじゃない!!!

それをなに!?

諦めた!?

関係ない話持ち込まないでくれる!?

私は彼氏作らず健気に絵も陸上も頑張ってるの!

それをちょっと可愛いからって何よ!!

悲劇のヒロインぶらないで!!!

私はユリのそういう奴らを馬鹿にした性格が好きだったの!!!

あんたがそっち側に行ってどうするわけ!!!

いままで通りそういう奴ら馬鹿にして私と一緒に笑っててよ!!!!

ほんとふざけないでよ!!!!

あたしがどれだけ…どれだけ…


ユリは呆然としていた。

もうこの後友達には戻れないかもしれない。

だがわたしは友達に言いたいことを言えた。

こんなに嬉しいことはない。

わたしは一度死んでいるのだ。この後なにが起ころうともうなにも怖くなかった。

私の後ろではわたしを撥ねたトラックが今日も信号無視をしていた。













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高跳びリープ ぴーふろ @HURO2

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