運命 02
僕は念願だった北白梅高校への進学を果たした。
言わずと知れた有名進学校である北白梅高校は僕の住む町から1駅先のところにある。
意外と近くにあるその高校の異常性は制服からも垣間見えるのと同時に、その異常性は生徒の受け入れ態勢にも表れていた。
僕の知るところの頭のいい公立高校の受け入れ態勢という物は勉強が素晴らしく出来ることは最低条件で、そこにプラスアルファで内申点という、いわゆるどれだけその公立高校の言いなりになれるかどうかといったことが問われるものだと聞いていた。
だけど北白梅高校はまるでそのような普遍的で常識的な部分を無視した、いわゆる完全実力主義というやつで、北白梅高校が求めるものはただ1つで、そしてシンプル。
つまりそれは素晴らしく勉学の才能に溢れるもの、ただそれだけだった。
だからこそ僕の欠落した部分であり、受験においてかなりのネックであった出席状況や、ややこしい家庭関係などの僕を語るにあたっての9割の部分を北白梅高校は無視してくれる。
それは僕にとってかなりの、いや、人生においてのMVPを与えてもいいと思えるくらいに僥倖で、それでいて1つ少し申し訳ないけれど大きな納得をしてしまった。
僕の家へ乗り込み、そして僕に暴力をふるった彼女がどうしてまともに高校生になれてしまったのかという疑問にだ。
これ以上深く追及されても困るゆえ、ざっくりとした締め方をするのならば・・・・・・・・北白梅高校は変人の巣窟であるという事だった。
そして彼女はそんな変人の巣窟の中でも相変わらず異彩を放っていた。
・・・・・・・・悪い意味で。
「まー君・・・・・・・・
「起きてっ・・・・・・・・
「ねぇ・・・・・はやく・・・・・」
日が沈んでいくのと同時に涼しい風が吹く窓際の席で、僕はいつの間にか夢を見ていた。
ノンレム睡眠からレム睡眠・・・・いや、もう半覚醒くらいの今、僕の耳には少し苛立ちの混じる甘い声が吐息と共に聞こえる。
彼女の声があまりに鮮明に聞こえるのはたぶん教室に誰もいないからなんだろう。
なら、もう少し。もう少し居眠りを続けよう。
誰にも迷惑は掛からないはずだし。
彼女をからかうのは少し面白いし。
「はみゅ」
「えっ!」
「はみゅはみゅはみゅはみゅはみゅはみゅはみゅはみゅはみゅ」
「ひぇぇぇぇ・・・・って何してんだお前!!」
一瞬の戸惑いから舞い戻った僕は現状を視認し、反射で動いた体は机の側の窓に打ち付けられ、後頭部に鈍い痛みが響いた。
耳の辺りに生ぬるい感触と蠱惑的な液体がこべりついている。
「ど、どういうつもりだお前は!」
「まー君が私のこと無視するから・・・・・・・・」
「普通に起こしてくれればいいだろ」
「何回も普通に起こしたんだけど」
「ま、まぁ確かに」
「確かに?ってことはやっぱり分かっててあえて無視したんだぁ。このむっつりまー君ったらぁ」
彼女は得意げな笑みを浮かべ、僕との距離を縮める。
魅惑的で誘惑的な彼女はまるで黄昏時に現れたサキュバスのようで。
僕の不可侵領域へ土足でズカズカと入ってくるようだった。
「う、うるさい!」
図星を突かれた僕が出来る反抗はこれくらいだった。
あの時以来、彼女は僕の不可侵領域への侵入を試みるようになっていった。
こんなかっこいい言い方をしてしまうと、まるで僕が荘厳な魔王城で彼女が女勇者のようだけれど、実際はそうではなく、単純に僕と彼女の距離が近くなったというわけである。
小学5年生のあの時から話さなかった反動なのか何なのか理由は定かではないが、僕の勘違いではないという事だけは事実である。
実際、僕と彼女が所属するこのクラス内に僕と彼女の浮ついたような話題が飛び交うことがあった。
それは彼女が今みたく僕に過剰なスキンシップをとるからであり、そして僕が嫌がるふりをして実は心の奥底で喜んでいるといった憶測から成り立っている。
まるで彼女に外堀を埋められていくような奇妙な感覚に陥るのと同時に、この状態を作り上げた彼女がほくそ笑む姿を想像すると鳥肌が立つ。
こんな妄想染みたストーリが嘘であればいい。
僕の思い上がった考えであればいいと思うし、そうでなければならない。
なんせ僕は彼女にそういった浮ついた気持ちを持てないからだ。
「私、独占欲強いんだよ。実は」
僕から離れた彼女は僕に厭世的な視線を送り、そして舌なめずりをして見せる。
そんな彼女に僕はドキリとしてしまう。
だけどこれはそういった気持ち・・・・・・・・いや、遠回しな言い方は辞めよう。
僕は彼女に恋することは断じてない。
だけどどうしても彼女に欲情してしまっている。
その事実だけはどうしても隠し通せないんだろう。
「うるせぇよ」
今は何とかこうして我慢することが出来ている。
だけど破裂するのは時間の問題だろう。
問題は山積みだってのに・・・・・・・・
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