フランス革命エロ妄想奇譚 よみがえった童貞魔法使いは最強の色ボケメガネ
ミミゴン
プロローグ テルミドール9日
1794年7月27日(革命暦テルミドール9日)、国民公会の議場は
大荒れだった。あらゆる人に反革命のレッテルを貼って
することで革命政府を牛耳っている独裁者、マクシミリアン・ロベスピエールを
排除すべく、密かに水面下で調整を進めていた男たちがいた。
彼らは後にテルミドリアンと呼ばれることになるが、そのうちの一人である、
ジャン・ランベール・タリアンが決死の覚悟で立ち上がった。
ブルジョワ(富裕層)とサン・キュロット(労働者)のどちらからも見放され、
旧友ダントンを殺したと強い非難にさらされ孤立無援状態のロベスピエールを
擁護する内容の演説を行っていたルイ・アントワーヌ・サン・ジュストは
ナイフを振りかざしたタリアンに脅されて口をつぐまざるをえなかった。
タリアンの思惑通り、愛人(男)であるサン・ジュストは
ロベスピエールの弱点だった。ロベスピエールは目に涙を浮かべて
「中道派の議員諸君、彼を助けて!」
と懇願したが、聞こえてくるのはやんやの喝采ばかりであった。
「がんばれタリアン議員! 今すぐぶっ殺しちまえ!」
「よくぞやった! 君は英雄だ! 愛は世界を救う!」
タリアンが決起した表向きの理由は
内妻テレーズが捕らえられたことへの報復であるが、
処刑リストに自分の名前が載っており、追い詰められていたためである。
「恐怖政治をいつまでもやめないなら、こいつを殺しちまうぞ!
あんたがおれのテレーズを処刑する気なら、おれは
おまえの
興奮状態のタリアンは刃物を振り回していたので、サン・ジュストを
救出しに来たロベスピエール派の議員たちは一人残らず追い払われた。
ロベスピエールは涙を流しながら、
「卑怯者! わしの愛する天使を返せ! 人殺し!」
とわめいた。それを聞いた議員たちはこう言い返した。
「人殺しはお前らの方だろうが!」
後世、殺戮の天使と呼ばれることになるサン・ジュストは
運命に抗うことをあきらめたように、目を閉じ、腕組みをして
もはや一言も話さず、演壇にもたれかかっていたのだった。
何をやっても無駄なのだ。健康そのもので、死から縁遠そうにみえる
天使の脳裏には、数日前にテルミドリアンのメンバーが接触してきた時の
記憶がよみがえってきた。
「君はまだ若いし、軍事的な才能だってあるんだ。ロベスピエールを
裏切って我々の側についた方がいいとは思わないのかね?」
彼らの誘いをきっぱり断り、ロベスピエール擁護演説を断行した結果が
このざまだ。
「今更認めたくはないが、奴らが言った通り、
ロベスピエールはもう過去の人なのだ。
ああ、もう何も考えたくない。どうせ明日までの命なんだ」
ロベスピエール兄弟とサン・ジュスト、クートン、ル・バの計五名は
逮捕され、別々の監獄に収容された。
その日の夜遅く、パリの市庁舎に立てこもる男たちがいた。
牢屋から釈放されたばかりで疲れ切って机に突っ伏している
マクシミリアン・ロベスピエールに向かって、
三十そこそこの青年がわめいていた。彼はマクシミリアンの実の弟、
オーギュスタン・ロベスピエールである。
「兄さん、おれたちはもうおしまいだ! 戦争が一区切りついた今、
恐怖で人の心を締め付けるやり方にいつまでもこだわったりしなければ……。
ったく、サン・ジュストの出しゃばり野郎がサンブル川を強引に渡河して
フルーリュスの戦いに勝ったりしなければ!
さっきだって、議会で演説中に刃物男に人質に
とられるようなへまをして!」
負け続きだったフランス軍がオーストラリアと
イギリス連合軍に夜襲をかけ、大勝利を収めたフルーリュスの戦い
からすでに一か月が過ぎていた。対外戦争に一区切りついても
まだ恐怖政治を続けていたロベスピエール政権から支持者の心は
離れていった。
そして7月27日(革命暦ではテルミドール9日)に事態は大きく動いた。
獄中に囚われの身となっている、内妻の
テレーズ・カバリュスを処刑されることを恐れた
ジャン・ランベール・タリアン議員が議会で演説中の
ルイ・アントワーヌ・サン・ジュストにナイフを突きつけ、
暴君ロベスピエールを倒して恐怖政治を終わらせろと絶叫し、中間派の
議員たちもこれに同調、あとは怒涛のごとき展開で、
ロベスピエール一味の逮捕命令が出された。前代未聞の
クーデターは成功し、独裁者は失脚に追い込まれたのだ。
「あいつがカルノーを怒らせることばかりするから悪いんだ!
大口たたいて敵を作るのだけは得意なんだから」
「黙れ、オーギュスタン! これ以上、ルイを悪く言うな!」
サン・ジュストの親友、フィリップ・ジョセフ・ル・バが
オーギュスタン・ロベスピエールにつかみかからんばかりの勢いで
立ち上がったとき、ドアが開いて二十歳そこそこの若い男が入ってきた。
「兄さん! まだ話は終わってないよ!」
いつものごとく相手の話を聞いていなかったマクシミリアンは
弟の腕を振り払い、入り口の方にすっ飛んでいった。
「ルイ・アントワーヌ、無事だったのか! もう会えないかと思った!」
「マクシム! 遅くなってごめん」
熱愛中の二人は人目もはばからず、抱き合って濃厚な
口づけを交わしたので、ル・バは寂しそうな
表情を浮かべた。オーギュスタンは憎々しげに
兄の恋人(男)をにらみつけると、心の中で呪いの言葉をつぶやいた。
「あの時、兄さんがあの裏切り者どもにこの男を
差し出してしまえば……」
夜中の二時過ぎ、屋内に敵の兵士が突入する足音が響き渡り、
男たちの間に緊張が走った。
「マクシム、おれは最後まで君を見捨てはしない。おれが
身代わりになるから君は裏階段から逃げてくれ」
「いやだ! わしは最後の瞬間までおまえと一緒にいる!」
抱き合う二人を絶望の目で見つめ、ル・バは頭をピストルで
撃ちぬいた。サン・ジュストは倒れた親友に駆け寄って
抱き起したが、すでにこと切れていた。
うろたえるマクシミリアンの前にさっきまで
いなかったはずの妹のシャルロットが立っていた。
「シャルロット、ぞこにいたのか? 何とかしてくれ!」
「こうなったのも自業自得だわ! あんたたちは人を殺しすぎたのよ!
何度も警告したのにちっとも耳を貸さないんだから!
自分たちの魂をギロチンの生贄に捧げてこの最低最悪な
恐怖政治を終わらせることね!」
こう言い捨てると、独裁者の妹は開いた窓から姿を消した。
「待てよ、姉さん! そんな言い方はないだろう!?」
興奮したオーギュスタンがここは三階であることを忘れて
窓から外に飛び出して真っ逆さまに地面に転落するのと
同時に、一発の銃弾がマクシミリアンの下顎を直撃し、骨を粉々に砕いた。
混乱の中、その場にいたほとんど全員が逮捕され、
翌日の処刑に向けてコンシェルジュリーの監獄に移送された。
主な登場人物紹介
マクシミリアン・ロベスピエール
1758年5月生まれ。北部アラス出身。幼い頃に両親を亡くし、
弟と妹を保護すべく、勉学に励み父親と同じ弁護士になった。国民公会で極左の
山岳派リーダーとなり、フランス革命政府の最高権力者に上り詰めたが失脚、処刑された。
今でいう大統領のような立場だったと思われる。女嫌いの堅物だが実はモテたらしい。
後述の妹、シャルロットによると「兄はサン・ジュストを愛していた」という。享年36
ルイ・アントワーヌ・サン・ジュスト
1767年8月生まれ。中部出身。詩人志望だった。18歳の頃、幼なじみの元カノ、
ルイーズ・ジュレに捨てられ自棄を起こし、金目のものをもって家出。
パリで放蕩生活を送るが逮捕された。半年間の感化院行きにされたとも。
ワイセツな叙事詩集「オルガン」(この題名にもエロい意味がある)を出版したが大赤字に。
やがてマクシミリアンに憧れて文通を始め、政治家を目指すようになる。その後、
国民公会議員に当選し、マクシミリアンの側近ナンバーワンに。国王処刑演説で
注目を集め、派遣議員として軍隊の立て直しでも頭角を現したが
落ち目のロベスピエールから離れることを望まず、共に死ぬ道を選んだ。享年26
オーギュスタン・ロベスピエール
1763年生まれ。マクシミリアンの弟で兄と一緒に処刑された。享年31
兄と違って遊び人で、何人もの人妻と不適切な関係にあったという。
シャルロット・ロベスピエール
1760年2月生まれ。マクシミリアンの妹でオーギュスタンの姉。長生きして
兄の人柄にまつわるエピソードをつづった回想を残した。兄弟と同じく生涯独身
エレオノール・デュプレ
1768年生まれ。マクシミリアンに片思いする。デュプレ家の長女。
彼女の詳しい経歴はよくわかっていないらしいが、未婚のまま62歳で
死んだ時には「準ロベスピエール未亡人」として多くの人が葬式に集まった。
暗殺者に狙われるマクシミリアンを自宅にかくまい、彼の
最大の支援者とみなされたデュプレ一家はロベスピエールらより先に
身柄を確保された。その際膨大な量の書類が押収されたというが後に返却された。
フィリップ・ジョセフ・ル・バ
1765年生まれ。エレオノール・デュプレの4歳年下の妹、エリーザベトと結婚。
サン・ジュストの親友でテルミドールの政変後、市庁舎でピストル自殺した。
末の妹のアンリエットはサン・ジュストの婚約者
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