第15話

「ぎゃーっ」叫んで妻を突き飛ばしてベッドから飛び降りた。


「きゃっ」悲鳴をあげてベッドに倒れ込んだのはひまりだった。


「なにすんのよ!痛いじゃないの」怒っている顔をみて俺はほっとして「ごめん、ごめん、妻に見えたんだ。許してくれ」そう言ってベッドに戻る。


「じゃあ、私の、機嫌を直してよ!」怪しい顔をして俺の手を自分の胸に抱く。

頷いて、俺は目を瞑って、ひまりの期待に応えようとおでこのキスから始めた。

 

昂りが治まって全身を汗が包んでいる。


「シャワーにはいる」そう言ってベッドを抜けた。

「私も・・」といってひまりが追いかけて来る。


シャワールームの前で待っていると、寝室のドアが開いて、来たと思った瞬間、凍り付いた。


血まみれの顔の妻が、怨めしそうに俺を見つ


めながら両手を俺に向かって突き出してゆっ


くり歩いて来る。


俺はまた首を絞められる、と恐怖に震え 「来るな!許してくれ!俺が悪かった!頼む・・」


しかし、妻の足取りは変わらない。


「うわーっ」叫んで頭を抱えて屈んだ。

 

少し間があって、肩をトントンと叩かれた。「何やってんの?」

ひまりの声に顔を見上げる。ひまりが裸でシャワールームに入るところだった。

そして「また、あんた亡霊でも見たのかな?」と笑いながら言う。

「あ、あ~」まだ心臓が爆発しそうなくらい爆ついている。


ひまりに続いてシャワールームに入ってソープを体に擦り付けて、手のひらで軽くこする。


ひまりの背中も手のひらで撫でるように擦る。


ふと鏡を見るとそこには血まみれの妻の顔が浮かんでいる。


「うわっ」叫んで妻の身体を突き飛ばす。


「きゃっ」叫んだのはひまりだ。


「何すんのよ!」怒って振り向いた顔は妻だ。


体中に泡をつけたままシャワールームから飛び出した。身体を拭いて、ベッドへもぐりこんだ。


ぴちゃっ、ぴちゃっ、ぴちゃっ、ぴちゃっ、


ゆっくり歩く濡れた足音が近づく。


「あ~な~た~」低い怨みのこもったような


妻の声だ。

 

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